妊婦・授乳婦のアトピー治療 - デュピルマブ使用の安全性と課題
【妊娠中のアトピー性皮膚炎治療の課題】
妊娠中のアトピー性皮膚炎の管理は、多くの女性にとって悩ましい問題です。特に妊娠後期になると、免疫反応の変化によってアトピー症状が悪化することがあります。これは、体内でTh1型からTh2型へと免疫バランスが変化するためです。
従来、妊娠中の重度アトピー性皮膚炎に対する全身治療は、ステロイド剤やシクロスポリンなどに限られていました。しかし、これらの薬剤には副作用の懸念があり、使用には慎重を要します。
そこで注目されているのが、新しい生物学的製剤であるデュピルマブです。デュピルマブは、アトピー性皮膚炎の治療に高い効果を示す抗体医薬品ですが、妊娠中や授乳中の使用に関するデータはまだ限られています。
【デュピルマブの妊娠・授乳中使用に関する最新研究】
ポルトガルの3つの医療センターで行われた最新の研究では、妊娠中や授乳中にデュピルマブを使用したアトピー性皮膚炎患者の経過が報告されました。
この研究では、6人の中等度から重度のアトピー性皮膚炎患者が対象となりました。平均年齢は32.2歳で、妊娠前からデュピルマブによる治療を受けていました。
結果として、5人の患者で正常な妊娠が観察され、健康な赤ちゃんが誕生しました。2人の患者は妊娠全期間を通じてデュピルマブを継続し、特に問題は見られませんでした。
また、2人の患者は授乳中もデュピルマブを継続し、平均13.5ヶ月間使用しました。これらの赤ちゃんは正常に発育し、体重増加も順調でした。観察期間中(平均16.5ヶ月)、アトピー性皮膚炎の発症は認められませんでした。
この研究結果は、デュピルマブが妊娠中や授乳中のアトピー性皮膚炎患者にとって、有効で比較的安全な選択肢となる可能性を示唆しています。ただし、サンプル数が少ないため、さらなる大規模な研究が必要です。
【今後の課題と日本での展望】
デュピルマブは、妊娠後期に胎盤を通過する可能性があるため、一部の医療機関では妊娠第3期での使用を中止しています。しかし、現在のところ、デュピルマブに関連する重大な先天性異常や流産のリスク増加は報告されていません。
日本でも、アトピー性皮膚炎患者の妊娠・授乳期の治療は課題となっています。デュピルマブは日本でも承認されていますが、妊娠中や授乳中の使用に関しては慎重な判断が必要です。
今回の研究結果は、妊娠中や授乳中のアトピー性皮膚炎患者にとって希望となる可能性がありますが、日本の医療環境や患者の特性を考慮した研究が今後必要となるでしょう。
アトピー性皮膚炎は、妊娠中にしばしば悪化することがあります。皮膚の乾燥やかゆみが強くなり、ストレスも加わりやすいため、適切な治療が重要です。デュピルマブのような新しい治療法が、将来的に日本の妊婦さんにも安全に提供できるよう、さらなる研究が期待されます。
妊娠中や授乳中のアトピー性皮膚炎でお悩みの方は、必ず専門医に相談し、個々の状況に応じた最適な治療法を選択することが大切です。
参考文献:
1. Xará J, et al. Pregnancy and breastfeeding outcome in patients with atopic dermatitis treated with dupilumab: the clinical experience of three centers. International Journal of Dermatology. 2024.