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慢性蕁麻疹治療の新時代:専門医が解説する疾患修飾アプローチ

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Grokにて筆者作成

【慢性蕁麻疹の実態:症状と従来の治療法の限界】

慢性蕁麻疹(じんましん)は、6週間以上にわたって繰り返し発生する蕁麻疹のことを指します。症状として、激しいかゆみを伴う赤い発疹や腫れ(膨疹)が突然現れては消えるという特徴があります。また、患者さんの約40%は血管性浮腫も経験します。

この病気は患者さんの生活の質を著しく低下させる可能性があり、長期間続くことも珍しくありません。統計によると、発症後1年で自然寛解するのは約17%にとどまり、多くの場合2〜5年続きます。さらに、患者さんの約50%は5年以上症状が持続するといわれています。

従来の治療法は、主に第二世代抗ヒスタミン薬を使用して症状を抑えることが中心でした。しかし、これらの治療法は一時的な症状緩和にとどまり、病気の根本的な原因に対処するものではありませんでした。また、治療に反応しない患者さんも少なくありません。

【疾患修飾療法:慢性蕁麻疹への新たなアプローチ】

最近の研究で、慢性蕁麻疹は単なる皮膚の問題ではなく、免疫系の異常が関与する炎症性疾患であることがわかってきました。特に、皮膚のマスト細胞の活性化が重要な役割を果たしていることが明らかになっています。

この新たな理解に基づき、「疾患修飾療法」と呼ばれる革新的なアプローチが注目を集めています。疾患修飾療法は、病気の根本的な原因に働きかけ、その進行を遅らせたり止めたりすることを目指す治療法です。

慢性蕁麻疹における疾患修飾療法の定義は以下の通りです:

1. 病気の進行を防ぐ、遅らせる、または遅くする

2. 長期的な治療フリーの臨床的寛解(症状のない状態)を実現する

3. 病気の根本的なメカニズムに作用する

これらの効果により、患者さんの生活の質を大幅に改善し、長期的な治療の必要性を減らすことができる可能性があります。

【最新の治療法と将来の展望】

現在、慢性蕁麻疹の疾患修飾療法として期待されている治療法には以下のようなものがあります:

Napkin AIにて筆者作成
Napkin AIにて筆者作成

1. BTK阻害薬(例:レミブルチニブ、リルザブルチニブ):

これらの薬剤は、免疫細胞の活性化を抑える働きがあります。特に、自己抗体を産生する細胞の機能を抑制することで、症状の改善と長期寛解が期待されています。臨床試験では、従来の治療に反応しなかった患者さんにも効果が見られています。

2. 抗IL-4/IL-13抗体薬(デュピルマブ):

アレルギー反応に関与するサイトカインであるIL-4とIL-13を阻害する薬剤です。これにより、マスト細胞を活性化させる自己抗体の産生を抑制し、症状を軽減する可能性があります。一部の症例報告では、治療中止後も長期間にわたって寛解状態が維持されたことが報告されています。

3. 抗CD20抗体薬(リツキシマブ):

B細胞上のCD20分子を標的とし、自己抗体を産生する細胞を減らす働きがあります。一部の難治性慢性蕁麻疹患者さんで長期的な効果が報告されていますが、さらなる研究が必要です。

4. 抗IL-23抗体薬(チルドラキズマブ):

IL-23を阻害することで、炎症を引き起こすTh17細胞の活性化を抑制します。従来の治療に反応しなかった患者さんでも効果が見られた症例が報告されています。

5. 抗TSLP抗体薬(テゼペルマブ):

TSLPという炎症を促進するタンパク質を阻害することで、アレルギー反応を抑制します。慢性蕁麻疹に対する臨床試験が進行中です。

これらの新しい疾患修飾療法は、慢性蕁麻疹患者さんに大きな希望をもたらす可能性があります。特に、従来の治療で十分な効果が得られなかった方々にとって、新たな選択肢となるでしょう。ただし、これらの治療法の中にはまだ研究段階のものも多く、安全性や長期的な効果については、さらなる検証が必要です。

【慢性蕁麻疹治療の未来:個別化医療と予防の重要性】

慢性蕁麻疹の治療は、個々の患者さんの状態に応じて最適な方法を選択することが重要です。近年の研究により、慢性蕁麻疹には主に2つのタイプがあることがわかってきました:

1. 自己アレルギー性慢性蕁麻疹(aaCSU):IgE自己抗体が関与

2. 自己免疫性慢性蕁麻疹(aiCSU):IgG自己抗体が関与

これらのタイプによって、効果的な治療法が異なる可能性があります。例えば、BTK阻害薬はaiCSUの患者さんに特に効果が高いことが示唆されています。

また、慢性蕁麻疹の予防や早期治療の重要性も指摘されています。急性蕁麻疹から慢性蕁麻疹への移行を防ぐことで、長期的な予後を改善できる可能性があります。そのため、蕁麻疹症状が続く場合は早めに専門医を受診することをおすすめします。

さらに、腸内細菌叢の改善や短鎖脂肪酸の補充など、新たな治療アプローチも研究されています。これらは、慢性蕁麻疹の発症や持続に関与する可能性のある腸内環境の改善を目指すものです。

今後の研究の進展により、慢性蕁麻疹の病態解明がさらに進み、より効果的で副作用の少ない治療法が開発されることが期待されます。患者さんとご家族の皆様には、最新の医療情報に注目しつつ、担当医と相談しながら最適な治療法を選択していくことをおすすめします。

参考文献:

Maurer M, Kolkhir P, Pereira MP, et al. Disease modification in chronic spontaneous urticaria. Allergy. 2024;79:2396-2413. doi:10.1111/all.16243

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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