ジョニー・デップの人生を転落させたアンバー・ハード。彼はどう罠にはまっていったのか
ジョニー・デップとアンバー・ハードの名誉毀損裁判が続いている。現地時間21日には、デップの元タレントエージェントが、デップが「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズから降板させられたのはハードが彼からDVを受けたと主張したことが原因だと認める証言をした。スタジオやエージェント仲間の間で具体的に理由を話し合うことはなかったものの、「そうだということでみんな理解していた」と彼は語っている。
また、22日には、アメリカ自由人権協会(ACLU)のCOOテレンス・ドハティが、今回の裁判のきっかけとなった「Washington Post」の意見記事の最初のバージョンでは、もっとはっきりとデップとの結婚生活でのトラブルについて書かれていたと明かした。ハードはACLUのアンバサダーを務めており、この意見記事は、ACLUの勧めで、ACLUのスタッフと共に書いたものだったという。男性による女性に対する暴力を撲滅しようという記事に説得力を持たせるために、個人的な体験を入れたほうがいいというのは、ACLUがアドバイスしたこと。つまり、この記事は最初からハードがデップからDVを受けていたという認識のもとに企画され、書かれたものなのである。
さらに、ドハティによると、ハードはこの記事を自分が出演する「アクアマン」のプレミアの直後に出してほしいと言ってきたとのことだ。ハードはこの記事を、デップのキャリアを破壊するだけでなく、自分の人気を高めるためにも使おうとしたのだ。
そんなふうに離婚してからもなお嫌がらせをしてくるような女性と、デップはそもそもなぜ付き合ってしまったのだろう?その経緯についても、デップは今回の裁判で証言している。
演技力に不安があるハードと共演することになった背景
すべての始まりは、2008年、デップがハンター・S・トンプソンと一緒に、トンプソンが過去に書いた原稿を掘り起こしてみたことだ(トンプソンはデップが敬愛する作家、ジャーナリスト。2015年に彼が死んだ時には、デップが葬式代を払っている)。デップが箱の中から「ラム・ダイアリー」という原稿を見つけ、「これ、何?」と聞くと、トンプソンは、「なんだ、そんなところに眠っていたのか」と言った。早速読んだデップは非常に気に入り、トンプソンに「これは映画になる。映画にしよう」と言い、早速、出資者を探し始める。
この映画で、デップは主演とプロデューサーを兼任。監督には、もう引退していたブルース・ロビンソンを引っ張り出し、次に、シュノーという女性のキャラクターを演じる女優を探し始めた。有名な女優の何人かもこの役を希望したのだが、スター揃いにすることをトンプソンが嫌がり、オーディションでふさわしい女優を探すことにした。そのひとりとしてハードがやって来たのである。
ハードは5回もオーディションに呼び出されたものの、ロビンソンは彼女の演技力に不安を覚え、決められずにいた。そこで、デップを相手に脚本を読んでもらい、もう一度テストをしようと考えた。だが、その案を聞いたデップは、「5回もオーディションをしたのにまた呼び出すのは可哀想。オーディションではなく、僕がただ彼女に会ってみるというのでどうか」と言い、ハードはデップのオフィスを訪ねることになった。
部屋に入って来たハードを見て、すぐ「この人だ!」と思ったと、デップは振り返る。トンプソンがシュノーに望んでいるであろう要素を全部兼ね備えていたからだ。会話を始めると、優しくて、かわいらしくて、頭の良い女性であることがわかった。それで、演技に不安はあったものの、デップは、ロビンソンに「プレッシャーを与えるより、僕らが何を望んでいるのかを伝えることで正しいほうに導いていこう」と提案する。たとえば、大袈裟に動きすぎるのではなく、じっとしている瞬間も大事にすることなどだ。演技の参考にしてほしい映画も紹介している。「そういったアドバイスをし、彼女の目に真実があれば、あとは編集でなんとかなる」とデップは考えた。
撮影中に生まれた恋心が再会で花開く
撮影が始まると、仕事に直接かかわること以外、デップがハードと話すことはなかった。だが、あるシーンの撮影が、彼の心を大きく変えた。デップ演じるポールがシャワーを浴びていると、シュノーが入ってきてキスをするシーンだ。
その瞬間、「抱くべきではない感情を抱いてしまった」と、デップは告白する。当時、ハードには同性のパートナーがいたし、デップにもヴァネッサ・パラディというパートナーがいた。なのに、ハードに対して特別な思いを感じてしまったのだ。その日の撮影が終わり、デップが自分のトレーラーに戻って古いブルースを聴いていると、ハードが訪ねてきて、一緒にワインを飲んだ。そしてふたりは、ポールとシュノーとしてではなく、デップとハードとして、キスを交わすのである。
しかし、その時はそこまでで終わった。ふたりの関係が再燃するのは、それから2年ほど経ち、「ラム・ダイアリー」のプレスジャンケット(宣伝のための取材活動)で再会した時だ。その頃には、ハードはパートナーと別れ、デップとパラディの関係は悪化していた。それを機に、ふたりは時々デートをするようになったのだ。
付き合い始めの頃、「こんなことがあっていいのか」と思うほど魅力的すぎるハードに惚れ込んだと、デップはいう。彼女は気が利いて、親切で、ファニーで、愛情豊かで、理解のある女性だった。付き合い始めると、彼女は自分の友達や妹をすぐ紹介し、デップが所有するダウンタウンのペントハウスとウエストハリウッドの家には、それらの人たちが住みつくようになる。彼らから家賃はもらわなかったが、大好きな恋人にとって大切な人たちなので、デップは気にしなかった。
だが、ある日、帰宅した時にデップが自分でブーツを脱いだのを見て激怒したことをきっかけに、少しずつハードの化けの皮が剥がれていく。それらはいつもとても小さなことだった。たとえば、夜、「もう寝よう」というハードに対し、デップが「自分はもうちょっとテレビを見る」と答えると、ハードは許さないのだ。「50代の男が好きな時間に寝ることすら許されないのか」と思ったと、デップは証言している。
そしてそのうち、彼女は、自分が絶対に正しいという態度をますます貫くようになった。ささいなことでも意見が違うと、デップが説明することすら許さない。そこから言い争いになり、エスカレートしていく。彼女はまた、デップのことを、愚か者を見るような目で見た。幼い頃、母に虐待を受けたデップは、「まるで母親と一緒にいるようだ。30年以上も仕事をしてきて、なぜ自分はこんなところにたどりついてしまったのか」と、しばしば情けなく感じた。
デップは婚前契約(Pre-nup)を望むも、ハードが話し合いを拒否
そんな関係にありながらも、デップとハードは2015年2月に結婚をする。結婚式は、病気に苦しんでいたデップの母も招待し、ロサンゼルスのデップの家で行った。その直後にはデップが所有するバハマの島で大きなウエディングを行っている。
デップとハードが離婚をした時、セレブや大金持ちの間では当たり前の婚前契約(Pre-nup)が交わされていなかったことに世間は驚いたが、実は彼もそれを望んでいたのだと、デップは証言で明かしている。結婚前、彼は何度も持ち出したのだが、ハードがその話をしたがらず、実現しなかったのだ。無理にでも話そうとするといつものようにハードは怒り、大騒ぎになる。そのうちに時間が足りなくなってしまった。
しかし、デップはそこで諦めたわけではない。結婚後に結ぶ同じような契約Post-nupについてハードに説明してほしいとデップは弁護士にお願いし、デップが「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」のロケのためオーストラリアに入った後、弁護士はハードとミーティングを持った。そのミーティングで、弁護士はハードにPost-nupのサンプルをいくつか見せ、どういうものなのかを説明したのだが、ハードは「ジョニーがこんなことに同意するはずはない。あなたたちがこんなことをしていると、ジョニーは知らないはずよ」と、聞く耳を持たない。それに対して弁護士が「いえ、ジョニーは知っていますよ」と言ったことが、ハードの怒りにさらに油を注いだ。
そんな状態でオーストラリアにやって来たハードは、弁護士に対する不満をぶちまけ、それを許したデップのことも責め立てた。その中では「私はあなたの遺書にも入っていない」と何度も言ったという。遺書の話など誰もしていないのにそんなことを言われるのは変だと、デップは思った。そこからまた彼女の怒りはエスカレートし、おしまいには彼女がウォッカのボトルをデップに投げつけて、デップは指先を切断されるケガをすることになる。それはかなりの大ケガで、デップは大きな包帯をずっとつけていなければならず、「〜最後の海賊」の中で、デップの指はCGで処理されることになった。
その大事件が起きたのは、結婚からまだ1ヶ月ほどしか経たない頃である。普通ならば、新婚で幸せいっぱいであるはずの時期だ。それから1年強が過ぎた時、デップはハードに離婚を切り出し、デップの留守中にハードが離婚を申請、あざのある顔を世間にさらしてデップにDVを受けていたと述べた。
それが、2016年5月のこと。そして2022年の今、デップは、当時本当は何があったのかについて、自分の真実を世の中に伝えようとしている。名誉を毀損された代償として、デップはハードに5,000万ドルを要求。逆にハードもデップに名誉を毀損されたとして、1億ドルを求めている。ここまではデップの話を聞いてきたが、来週は、ハードが証言する番だ。これまでに出てきた数々の不利な証言や証拠や、バレてしまった冒頭陳述での嘘に、彼女と彼女の弁護士はどう立ち向かうのか。その展開を、世界中が見つめている。