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ハリウッド再起動、間近。コロナ後の撮影現場はどうなる?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
Netflixが、撮影再開を待つ関係者のために出した広告(筆者撮影)

 朗報は、思ったより早く訪れた。コロナでストップしている映画やテレビの撮影が、早ければ来週にもカリフォルニア州内で許されることになったのだ。業界のリーダーは、月曜日までに、どのような形で撮影を行うのかについてのガイドラインを、ギャヴィン・ニューサム州知事に提出することになっている。ただし、感染者数が州内のほかの郡より多いL.A.郡では、もう少し待つことが必要となりそうだ。

 ニューサム州知事からその発表があるまで、多くの関係者は、その日が来るのは数ヶ月先だろうと思っていた。だからこそ、Netflixは、今週、L.A.の街中に「You will work in this town again. Until then, thank you(あなたはまたこの街で仕事をします。それまでは、ありがとう)」という、業界関係者に向けた広告を出したのである。

 だが、そんな中で、アイスランドやニュージーランド、ヨーロッパでは撮影が再開したし、アトランタにスタジオを所有するタイラー・ペリーも独自のガイドラインを発表した。カリフォルニアでも段階的なビジネス再開が始まったところであり、ニューサムが設立した経済タスクフォースの主要メンバーにはディズニーのボブ・アイガーもいる。そういったさまざまな要素が合わさって、早めの判断に至ったのだと思われる。

 しかし、コロナはまだ消えていない。再びクラスターが起こる危険は、十分だ。保険会社は感染病を適用外としていることから、現場で感染者が出て撮影がストップした場合、丸々損失をかぶることになる。コロナ対策に万全を期した撮影現場は、どのような様子なのか。ガイドラインの詳細は来週明らかになるが、現段階では、以下のようなステップが取られそうである。

現場入りする人を制限。それぞれが動ける範囲を決める

 撮影現場には常に多くの人がいて、動き回っているというのが、これまでの常識だった。しかし、コロナ対策下では、この状況を完全に変える必要がある。まずは、全体の人数を減らすことが重要。今後は、撮影に不可欠な人しか現場に入れなくなる。それらの人もまた、自由には動けない。すでにアイスランドで撮影を再開しているバルタザール・コルマウクル監督(『エベレスト3D』)は、全員を色分けし、それぞれの色に対して、いてもいい場所を決めているとのことだ。一時は、人数を減らすために、監督が自らカメラを回すという案も聞かれたが、シネマトグラファーらから猛烈な反対が起きた。優秀なシネマトグラファーに自分の映画を撮ってもらいたいという監督も多いと思われるし、おそらくそのアイデアは実現しないだろう。

入り口で体温チェック。現場には医療関係者が常駐

 現場入りする前に、全員がコロナ検査を行う。前出のペリーは、アトランタのスタジオに入る人たちには現地に向かう16日前に検査をしてもらい、アトランタ入りしてからもう一度検査を受けてもらうと述べている。

 撮影期間中も、定期的に検査を受けることになるかもしれない。現在、L.A.群では、1日に2万人まで検査が可能で、エリック・ガーセッティ市長は症状がない人にも検査を呼びかけているほどなので、これは問題なく実行できるだろう。撮影現場の入る時には、必ず体温チェックを受け、現場では常にマスクを着用。除菌ジェルはあちこちに設置され、医療関係者が常駐する。役者同士の接近が必要なシーンの撮影にあたっては、安全に行うべく専門のコーディネーターを使うという構想も聞かれる。

撮影現場を毎日しっかりと除菌、清掃

 これまで、撮影現場の清掃は、決してまめとは言えなかった。撮影専用スタジオは、清掃員が雇われていることもあってそう悪くないが、たとえば一般の倉庫や古いビルなどを使ったロケでは、いくつものコードが床の埃を引きずっていたりする。トイレも工事現場にあるような簡易のもので、掃除が行き届いていない。だが、今後は、毎日の撮影後に、徹底した掃除と除菌作業が必須とされるだろう。その時間を考慮すると、1日の撮影時間は、これまでより短くしなければならない。撮影を効率よくできる監督はともかく、たいていの場合は全体の日数が増えて、製作費が膨らむことになりそうである。

ビュッフェ形式のランチはやめ、お弁当形式に

 ハリウッドの撮影現場には、必ず、クラフトテーブルというものがある。フルーツ、ナッツ、サンドイッチ、スナック菓子などが置かれていて、撮影中、お腹がすいたらここでとりあえず満たすのだ。しかし、誰もが手を伸ばせるこれは、まず間違いなく現場から消える。

 ランチは、3種類ほどあるその日のメインがメニューとしてボードに書かれていて、そのどれかをケータリング担当者に注文して受け取る形式だった。たいていの場合、ケータリング担当者は、いわゆるフードトラックの窓から提供する形だったので、これ自体はそう悪くないと思われるが、問題はそこに並ぶクルーやエキストラの列である。また、メインを受け取った後は、自由にビュッフェ形式のサラダを自分で盛るようになっていた。これはコロナ禍では絶対にダメだ。

 ということで、これからは、あらかじめ用意されたボックスランチ、つまりお弁当になりそうである。ランチ時間も、今までのように一斉にクルーが向かわないように時間が調整されるか、あるいはグループごとに分かれた部屋で食事を取るかのような方法になるだろう。

撮影が終わるまで、キャスト、クルーは1箇所に宿泊

 ユニバーサル・スタジオ内での撮影再開に向けて準備を進めている大物プロデューサー、ジェイソン・ブラムは、感染防止のため、撮影期間中は全員を近くのホテルに宿泊させるつもりだという。ペリーも、アトランタのスタジオに入ってからは、全員が“隔離バブル”の中で生活をし、外に出られないようにすると述べている。キャストやクルーにとって、地元で撮影することの最大の魅力は、毎日、家に帰って家族の顔を見られること。しかし、もはやその意味でのメリットはなくなりそうだ。コロナと生きる時代、映画とテレビの関係者にとって、仕事があるということはつまり、家族と離れるということ。そんな現実が待ち受けていそうである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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