反対意見に「親日派」「土着倭寇」と詰め寄る―― 韓国与党で干された元議員 離党時に悲痛な叫び
反対派を制圧するのに”反日”ワードが頻出する。それもネット上で”ボコボコ”にーー。
韓国の革新系与党であり、文在寅大統領の出身政党でもある「ともに民主党」の現状が暴露された。
21日早朝、同党の元議員のクム・テソプ氏が自身のSNS上で離党を宣言。その際の文書の内容が韓国で大きな関心を集めている。
離党の理由を「与党が反対意見を一切認めず、それを徹底的に攻撃する体質」としたのだ。
21日、22日ともに最大のポータルサイト「NAVER」の政治ニュース部門ベスト10に複数記事がランクインしている。
クム元議員とは? 2019年には「たまねぎ男」批判も
日本では認知度の低いこのクム・テソプという人物、検事から政界に転じた元国会議員だ。2016年6月から2020年4月まで「ともに民主党」で国会議員を務めた。在職時には党スポークスマンも務めたため、韓国内での認知度は高い。
- スポークスマン時代のキム・テソプ氏
しかし、2019年9月に党内での風向きが変わってしまった。
いわゆる「チョ・グク(たまねぎ男)疑惑」で当人を「言葉と行動が不一致」などと批判。元検事としての矜持でもあった。しかしチョ氏は文在寅大統領の肝いりで就任内定していただけに、これには党内から厳しい声が挙がった。
- チョ・グク氏と国会で攻防戦を繰り広げた
さらにこの年、現在も設立準備中の政府系独立中央機関「高位公職者犯罪捜査処」の設立に党内で唯一反対。国会での設立是非を問う投票で棄権票を投じた。
理由は「自分自身の検事の経験から(ソウル中央検察に勤務経験あり)、このやり方は失敗すると思うから」
自らの考えを貫いた結果、2020年4月の国会選挙で、ソウル市内の選挙区の候補から脱落。出馬すら叶わなかった。さらにその後、5月に約500人の党員が党に対してクム氏の処罰を求め、警告の処分が下された。
本人はその処罰にも納得がいかなかった。その後、党に留まりながら5月に指導部や党内の倫理委員会に懲戒の再審(警告の取り消し)を求めてきたが、反応がないという。この点が直接的な離党理由だ。
要は意見を述べた者に対する冷遇が酷いと。
「(処分の再審について)合理的な議論もありませんでした。決定が遅れる理由も教えてくれませんでした。党の判断が将来に及ぼす影響を誠実に分析し、悩んでいる様子も見ることができませんでした。(党側は)どうすれば最も悪口を浴びずに済み、損害が少なく済むかと計算しているのではないかと疑わしい限りです。このような状況では、むしろ、私が去ることが正しいと思いました」
ただし、クム元議員の言動は党紀を乱したものであり、処罰の対象にはなりうるという面はあるが。
- 棄権票の投票から処罰までの流れを報じる韓国メディア
今の与党は「自分がやればロマンスで、他人がやれば不倫」体質
いっぽうでクム元議員はこれだけが離党の理由ではないとする。
文政権を支持する与党「ともに民主党」の内情の酷さをこう続けたのだ。
■しなやかさと謙虚さ、コミュニケーションの文化を見つけることができない。
・国民を相手にした刑事告訴と民事訴訟をはばからない。
・金大中、廬武鉉大統領時代には考えられないこと。
■敵味方を分けて国民を対立させている。
・考えの違う人を犯罪者、親日派として詰め寄り、脅しあげる傲慢な態度。
・これが最大の問題。
■自分たちの側には限りなく寛大で、相手には過酷。
・「自分がやればロマンスで、他人がやれば不倫」というスタイル。
・以前の主張を何の説明もなく厚かましく変える。
・“私たちは常に正しく、常に勝たなければならない“との主張で原則を捨てる。
・一貫性を守らないという程度のことはなんでもないという姿勢。
■反対立場への攻撃は「身内への発砲」レベル。
・意見を言わせないために、スマホに立て続けに「メッセージ爆弾」が入る。
・ネット上での誹謗中傷が続く。
・与野党対立の渦中で支持者が過激になるのはまだ分かるが、党の指導的立場にある人たちが誤りを正さない。
・スマホやネットへの批判により、自身もエネルギーを削がれないかと顔色をうかがう。
・その姿に絶望した。
こういった内情に対し、クム元議員は「民主党所属の国会議員として活動していた自分自身の責任も大きい」とする。自身も政治的に不利な状況、そして人間としても耐えがたい非難を甘受しながら、言うべきことは言いつつ、かなり努力した。しかし「これ以上は党が進む方向を承認し、同意することができない」。
それゆえ、最後に抗議と真摯な思いを込めて離党届を出すと宣言した。
〆に「ファシズム」と「土着倭寇」を引用
さらにクム元議員は投稿文をこう締めくくった。
「ドイツの政治学者カールシュミットは『政治とは敵同志を区別すること』という、一見賢い言葉を残しましたが、そのような巧妙な考えが、最終的に弱者に極端に弾圧的なホロコーストや横暴なファシズムにつながりました」
「私たちの社会がそうまでなるとは思いません。しかし、今のように政権与党が批判的な国民を『土着倭寇』として扱う場合、民主主義と共同体意識が毀損され、政治の冷笑がさらに幅を利かせるでしょう」
「(朴槿恵前大統領の)弾劾を経て保守、進歩(革新)を超えて常識的な勢力が協力し、かつ競争する政治を作ることができる絶好の機会を得たにもかかわらず、過去にのみ執着して分裂を生み、大きな変化のきっかけを逃したことがあまりにも残念です」
韓国国内の話のはずなのに2度も”日本ワード”が登場
では、このニュースが日本の読者にとって何の意味があるのか。
どれほどに日本を引き合いに出す”悪口”が定着しているのか。この点がよく分かる。なにせ、完全に韓国国内の話なのに、日本関連ワードが「親日派」「土着倭寇」2度も出てくるのだ。
前者は「日本統治下で日本に協力し、当時の朝鮮人を苦しめた階級とその子孫」。そのおかげで財産を多く有する者もいると見なされる。解放後の韓国社会では「保守・右派」として支配層に多く存在したため、特に盧武鉉政権誕生以降、革新・左派の目の敵にされている。後者は「本当の日本ヤロー」といったニュアンスだ。
直接的に日本を批判するのではなく、国内の対立層を批判するために日本が引き合いに出される。これがここ数年の”反日”のかたちのひとつだ。
モノ言えぬ雰囲気
もうひとつはいわゆる「現金化」(徴用工判決による日本製鉄の韓国での所有株の現金化)が早ければ今年12月に実行されるとも見られるなか、相手側の状況がよく分かる。
政治方面の日韓関係がいったん大きな破滅へと向かうなか、与党内やその支持者を巡る議論では反対意見が認められない雰囲気が漂っている。しかも日本に関する話ならなおさらだ。
これが現在の韓国側の与党・政権側の雰囲気だ。これを「全体主義的」と報じる日本メディアもあるが、より厳密にいうと「支配率」はこういったところだ。
2017年大統領選挙時の得票率 41.8% (保守24.03%)
2020年国会選挙での議席率 60%
10月22日の政権支持率 46.3% 不支持率48.6%。
※支持率は韓国メディア「TBS」が調査会社に依頼したもの。
議会では”圧倒的”、いっぽう最新の世論調査では支持率はほぼ「半々」といった勢力となっている。半分はこの空気を支持しない空気もあるのだ。
いずれにせよ左派たる韓国与党内には「寛容」はない。こと日本に関してはモノが言いにくい雰囲気。現に21日に投稿されたクム氏の離党宣言のコメント欄には「ともに民主党」支持者から1600ものクレームが寄せられたという。「一緒に過ごした時間は汚いものだった」などと。