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米トランプ大統領がイスラエル大使館をエルサレムに移転すると表明・何が問題なのか。

伊藤和子弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1 トランプ大統領の宣言

米国のトランプ大統領は12月6日、ホワイトハウスで演説を行い、中東のエルサレムについてイスラエルの首都と認めると宣言し、現在、テルアビブにある米国大使館をエルサレムに移転する方針を明らかにしました。

トランプ氏は「イスラエルは主権国家であり、他の主権国家と同じように自国の首都を決める権利がある。この事実を認識することは、平和を構築するための必要条件だ」とした。

出典:ウォールストリートジャーナル

とされています。

パレスチナ当局は強く反発、抗議行動が発生しています。

アラブをはじめ世界中でこのことについて強い異論が相次いでいます。なぜでしょうか。

2  歴史的経緯

 ここで、中東紛争をおさらいしてみましょう。

 1947 年国連総会はパレスチナの約半分を領土とするユダヤ国家を認める総会決議181 を採択しましたが、1948 年イスラエルは一方的に建国を宣言、アラブ諸国との間に第一次中東戦争が勃発しました。

 この結果、イスラエルは分割案を大きく上回るパレスチナ全土の約77%を支配下に置き、多数のアラブ系住民(=パレスチナ人)が難民化、西岸地区はヨルダン、ガザ地区はエジプトの支配下にそれぞれ置かれました。

 ところが、1967 年の第三次中東戦争によって、イスラエルは1949 年の停戦ラインである「グリーンライン」を越えて西岸地区及びガザ地区に侵略しました。そしてその後、以後国連安全保障理事会が撤退を求めてもこれに従わず、西岸地区とガザ地区を占領下に置き、現在まで継続しています。

 さらに、占領直後から東エルサレムを一方的に併合しており、1980 年に「統一された」エルサレムをイスラエルの首都とする基本法を制定したのです。

  

3 安保理が明確に「許されない」と決議

以上の歴史的経緯、いわばイスラエルが侵略戦争を起こして、力づくで領土を取ってしまったということですね。

このようなことは国際法上明らかに違法です。そのことは国連安全保障理事会によって繰り返し確認されてきました。

国連安保理決議242 (1967)は、戦争による領土の獲得が認められないことを明確にし、「近年の紛争で占領した領域からのイスラエル軍の撤退」を即時行うよう、イスラエルに求めています。

さらに安保理は、東エルサレム併合を非難し、イスラエルによる東エルサレムの状況を変える行政的・法的措置は、入植、土地の摂取も含めすべて無効であることを決議しました(安保理決議298 (1971))。

これら決議に反してイスラエルがエルサレムを統一された首都とする基本法を制定したことを受け、

1980年の安保理決議478は、

・基本法が国際法に違反することを確認し、

・エルサレムの状況を変えるすべての行政的・法的措置は無効であることを確認し、

・すべての国連加盟国に対し、エルサレムに大使館等外交使節を設置してはならない

とする決議を採択しています。

 これだけではありません。同じような決議が繰り返し繰り返し決議されて今日に至っているのです。

 これを見ると明らかですが、トランプ政権の措置は、これら何度も採択されてきた、国連安保理決議に明白に違反するものです。

 アメリカは安保理常任理事国です。驚くべきことですが、安保理常任理事国が明確な安保理決議違反を公然と行う、ということなのです。

 これは、平和への脅威に加担することであり、到底あってはならないことです。

4 国際法を無視した和平であってはならない。

 以上の経緯をみると、トランプ氏が述べた一見もっともらしい 

「イスラエルは主権国家であり、他の主権国家と同じように自国の首都を決める権利がある。この事実を認識することは、平和を構築するための必要条件だ」

 という発言が全く見当違いであることが分かっていただけると思います。トランプ氏にはブレーンもいますので、こうした一連のことを知らないはずはなく、いわば確信犯です。

 すべての国際紛争は国際法に即して解決されるべきです。国際法違反を追認した紛争解決は、力の弱いものの権利を蹂躙する結果になります。そしてそのような前例が許されれば、みんなが同じことをしてよいことになる、領土獲得のための侵略戦争を正当化することにつながります。そのようなことはあってはなりません。

 国連総会決議2625(1970、いわゆる「友好関係原則宣言」)は、「武力の行使または威嚇に基づく領土併合はいかなる場合も違法」という国際法の原則を確認しています。この原則を踏みにじるような行動が許されません。

 中東紛争の歴史を振り返れば、この紛争がイスラエルの国際法違反の固定化により深刻化してきたことがわかっていただけると思います。

 中東和平は、法の支配、国際法に即したかたちで行われるべきです。  

 国連安保理決議に反する決定を速やかに撤回することをトランプ政権に強く求めたいと思います。

 そして、国連安保理は、この重大問題を黙って見過ごすべきではありません。速やかに安保理緊急会合を開催し、討議し、この決定の撤回を促す決議を採択すべきです。

 今月・12月は日本が国連安保理の議長国を務めます。戦争放棄を誓った平和国家である日本の国際社会における役割が問われています。

                                                          以上

参考 イスラエル・パレスチナ間の紛争に関する見解(ヒューマンライツ・ナウ)

 http://hrn.or.jp/activity2/Proposal%20on%20the%20Israeli-Palestinian%20Conflict%20JPN.pdf

国連安保理決議478

   https://unispal.un.org/DPA/DPR/unispal.nsf/0/DDE590C6FF232007852560DF0065FDDB

弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長

1994年に弁護士登録。女性、子どもの権利、えん罪事件など、人権問題に関わって活動。米国留学後の2006年、国境を越えて世界の人権問題に取り組む日本発の国際人権NGO・ヒューマンライツ・ナウを立ち上げ、事務局長として国内外で現在進行形の人権侵害の解決を求めて活動中。同時に、弁護士として、女性をはじめ、権利の実現を求める市民の法的問題の解決のために日々活動している。ミモザの森法律事務所(東京)代表。

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