GoogleがGmailの内容スキャンを辞めた理由
KNNポール神田@クアラルンプールです。
Gmailの世界利用者は12億人以上、広告収益は800億ドルに
GoogleのGmailは、SPAMまみれだった電子メールに革命をもたらしてくれた。もしもGmailとGoogleのSPAMワードを検索し、フィルタをかけユーザーから遠ざけるという努力がなければ、電子メールというコミュニケーションはほとんど崩壊していたことだと思う。そしてご存知のようにGoogleは電子メールの内容をスキャンすることにより、内容に即した広告主をマッチングさせるという広告事業でそれらのサービスをフリーにしてきた。
自社の広告主さえもフィルタリング
Googleのサービスに常に感心するのは、【優先トレイ】や【重要】のフォルダにさえも、Googleの広告主を見せさせなかったことだ。さらに【メイン】には広告はなく、【ソーシャル】や【プロモーション】というタブのフィルタリングにだけ広告を見せている。すごいのは、自分たちの広告主でさえそちら側にだけ表示させるという仕組みだ。通常、事業者視点の法則では、広告主側のみを向き、フリーライドのユーザーは見向きもされないのが普通だ。しかし、Googleの視点はフリーライドのユーザーがいかに広告主を嫌がらないかということにかけては世界でトップレベルのユーザーエクスペリエンスを知り尽くした企業だ。ユーザーの電子メールに対して、うざい広告にならない最大の努力をしてきている姿勢に対して、最大の敬意をフリーライドユーザーの1人として払いたいと考えている。
メール内容と広告のマッチングはやはり気持ち悪い
今回の、電子メールの内容のスキャンは、それらの広告主を嫌がらないひとつの答えのようだ。たとえば、コンフィデンシャルなメールのやりとりをしているのに、それに非常に関連する特殊な広告が同じところではなく、他に表示されていたらどんな気持ちになるのか?ということをGoogleの社員も経験したことだろう。
すべてが自動化のスキャンで自動でコンテンツマッチングが行われていたとしても、メール内容から推測されているのは気持ちが良いものでもない。
それは飛行機のボディスキャンと同じ
飛行機搭乗時のボディチェックで、たとえ同性であったとしても、服を着ている相手に自分のボディスキャンされた画像が見られているのはフェアな感じがしない。かといって、彼らが裸でチェックしていても恐いのだが…。そう、ユーザーとしては、たとえ統計的にデータマイニングされていたとしても、何か「覧られていることの気持ち悪さ」が残るのだ。某大手ソフトウェアメーカーだったら、有料のサービスに替えてくれればそれが無くなるとユーザーのベネフィットとして、アピールしてくるポイントでもある。
大事なのは『邪悪にならない』というDNAレベルのカルチャー
しかし、Googleはそれを絶対にやらない。彼らのカルチャーには『邪悪にならない』という某大手ソフトウェアメーカーに対しての、DNAレベルでの嫌悪感があるからだ。
今回の電子メールのスキャンをやめることによって、広告主とのマッチング精度は決して上がらないかもしれない。しかし、シースルーの下着姿を出国検査で覧られている感が無くなるだけでも、それはかなり心理的な嫌悪感は軽減されることだろう。
一方、ビジネス向け有料クラウドサービス「G Suite」は300万人のユーザーを抱え、プライバシー保護を積極的にアピールすれば、法人部門の業績向上につながると判断していることだろう。
そう、たとえ、BtoCでもBtoBのビジネスでも、ユーザーに嫌悪感を抱かせたり、焦燥感や、飢餓感、危機感をあおるばかりでは「ブランド」として成立しない。長い意味で、その企業に自分の息子や娘を働かせても安心と思えるかどうかの価値観が「企業ブランド」を育成してくれると思う。