伝統行事「上げ馬神事」と動物虐待の境界線...『極悪女王』の髪切りデスマッチと照らして考える
2023年に三重県桑名市の多度大社で行われた「上げ馬神事」において、9月24日、警察は馬への虐待の疑いで神事の関係者を書類送検しましたと東海テレビが報じています。
上げ馬神事では氏子が馬を叩いたり蹴ったりする行為が見られたため、これが動物虐待に当たるとして動物愛護団体が刑事告発したことが背景にあります。
この神事は三重県の宝とされ、県の無形民俗文化財に指定されており、約700年の歴史があります。
歴史ある行事がなぜ動物虐待に該当するのかが明確に理解されにくい状況です。
筆者は、馬が愛護動物である以上、現代社会においてはこの神事が動物虐待に該当する可能性があると考えています。
その理由をNetflixの『極悪女王』を例にとり、時代の流れに伴う動物虐待の概念の変化について説明します(※ネタバレを含みますのでご注意ください)。
Netflixシリーズ「極悪女王」
Netflixシリーズ「極悪女王」(白石和彌総監督)を簡単に説明しておきます。ゆりやんレトリィバァさんが、稀代の悪役レスラー・ダンプ松本役です。
1980年代に女子プロレス界は人気があり、その中で圧倒的な存在感を放ったダンプ松本さんの波乱万丈なキャリアと、彼女が体現した“ヒール”レスラーの姿をこのドラマは描いています。女子プロレスの魅力と激動の時代を描いた話題作です。
敗者髪切りデスマッチ
Netflixシリーズ「極悪女王」配信記念イベント ネトフリ極悪プロレス より
このドラマには“敗者髪切りデスマッチ”のシーンがあります。
唐田えりかさんが長与千種役で覚悟の丸刈りに挑み、ゆりやんさんと激しい戦いを繰り広げます。
この作品を見ると、それは架空のものと思いがちですが、そうではないのです。
上の動画の冒頭(3分付近)で白石総監督が「あの髪切りマッチ、ゴールテンでやってましたからね」とおっしゃっています。
現代では、こうした過激なシーンをテレビで放送することは難しいでしょう。
これを動物虐待に置き換えると、昔は許容されていた行為でも、現代の価値観では虐待とみなされることがあります。
上げ馬神事も、かつては神聖な行事だったかもしれませんが、現在は競馬を引退した脚の細いサラブレッドが使われており、彼らの骨折リスクが高まっていることが問題視されています。
猫の飼い方も1980年代には外と家を行き来する生活が一般的でしたが、現在では「完全室内飼い」が推奨されています。
このように、動物愛護や動物虐待の定義は時代とともに変化していきます。昔はよかったということが、通じなくなっているのです。
動物愛護・動物虐待の定義は変化する
動物の愛護及び管理に関する法律では、「動物が命あるものであることに鑑み、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにする」と規定されています。
具体的な禁止行為は時代によって変わるものです。
令和の時代、日本人の動物愛護に対する意識が高まっている中で、かつて問題視されなかった行事や習慣が、今では動物虐待に該当する可能性があります。
このような状況を踏まえ、動物の取り扱いを見直し、動物愛護の文化がさらに発展することを願っています。