半世紀以上にわたる貯蓄額や年収、貯蓄年収比の動向をさぐる
金銭的な裕福の度合いを推し量る指標は多数存在する。その中から貯蓄額や年収、さらには貯蓄の年収比を、総務省統計局が定期的に調査・結果の公開を実施している「家計調査」の報告公開データから確認していく。
今回精査する値のうち2000年分までは「家計調査」の附帯調査として実施されていた「貯蓄動向調査」のものを参照している。それまでは「家計調査」そのものでは同様の調査は行われていなかった。「家計調査」へは1年の準備期間をおいた上で移行されたので、グラフ上でも2001年分が空いている。この点は注意されたい。
「貯蓄動向調査」分も合わせ、1959年以降の二人以上の世帯における「貯蓄現在高」と「年間収入」、さらには「貯蓄の年収比」(年収の何%分が貯蓄として備えられているか。失業などに備えるためには半年から3年分のたくわえが必要と言われている)の推移を示したのが次のグラフ。物価上昇と共に年収や貯蓄現在高が上昇しているだけでなく、貯蓄の年収比が少しずつ増えている。また、金額が分かりやすいよう、「家計調査」へ移行した2002年以降分について抽出したグラフを併記しておく。
なお今調査は二人以上世帯(原則夫婦世帯)のみの対象であり、全世帯、あるいは単身世帯の動向を推し量ることはできない。一方で昨今では年齢階層別人口構成比の変化に伴い、二人以上世帯でも低年収(貯蓄の切り崩しで生活費の補てんが行われる)の高齢世帯の割合が増えているため、必然的に平均値としての収入が減り、貯蓄高が増える傾向があることは、あらかじめ記しておく。あくまでも各年における二人以上世帯全体としての動向、その変化を示したものである。
1990年以降「年間年収」が横ばい、やや少しずつ減少しているのは、物価が横ばい、むしろ多少ながらも下がっていることも合わせ、日本の成長率が鈍化したのが主要因。
とりわけ「家計調査」に切り替わった2002年以降の減少は物価安定だけでなく、デフレの進行などによる結果。そして上記の通り、年齢階層別人口構成比の変化によるところも大きい。
ただしここ数年は脱デフレ政策をはじめとした各種経済政策の転換に伴い、消費者物価指数の上昇と共に年間収入の減退に歯止めがかかる動きを示している。2012年の606万円を底値とし、もみあいを続けながらも上昇の気配が多分にある。
一方、貯蓄「額」は横ばいからやや増加の流れ。結果として貯蓄年収比は漸増の一途をたどっている。もっとも金融危機が発生した2007年から数年間は、貯蓄の切り崩しが起きたこともあり、額面そのものも減少している。そして2012年以降は定年退職者の急増に伴い、退職金で上乗せされた貯蓄が平均値に影響を与えたため、貯蓄現在高も大きく上昇している。
今世紀に入ってから年収が下がり、あるいは横ばいな一方で平均貯蓄額や貯蓄率が上昇しているのは、定年退職(・再就職)者の全体数に占める比率の増加が大きな要因。該当世帯では貯蓄額が高い一方、年収は低い傾向がある。そして全体の平均値は回答世帯数の世帯主年齢階級別ウェイトがかかる。
直近の2016年に限れば、前年と比べて貯蓄現在額はプラス15万円、年収はマイナス2万円、結果として貯蓄年収比はプラス3.4%ポイント増加している。景況感の変化で年収は増加を見せているが、低年収の高齢層(定年退職者)の比率が増加し、平均値としては減退。他方、その高齢層の増加に伴い、貯蓄額が底上げした結果によるものである。
参考までに最新の2016年分の値を挙げておくと、平均貯蓄額1820万円・平均年収614万円・平均貯蓄年収比は296.4%となっている。これらはあくまでも二人以上世帯全体の平均値であり、中央値では無い(直上にある通り、世代別で大きな差異が生じている。そして定年退職者などで多額の貯蓄をしている人が、平均値を引き上げている)が、参考値、または目標値として覚えておくことをお勧めする。
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