【コラム】韓国代表新ユニ&エンブレムが「なんか、変わったデザインだね」で終わらない話
何? このユニフォームは? と聞かれれば、こう答える。
”インスタ映えだよ”
ただし、この点は「ふーんそうなんだ」という話では終わらない。状況をよく観察してみると日本からも見るべき部分はある。
6日、サッカー韓国代表の新ユニフォームと、大韓サッカー協会の新エンブレムが同時に発表になった。
赤で有名な同国代表のキットがピンクに近い色合いになった。アウェーは同協会のマスコット「ペクホ(白虎)」にも似たデザインに。若い女性を意識したコンセプトを感じさせる。提供メーカーの意向もあるだろうが、着用モデルに選手を起用しない点もそれを感じさせる。
「新ユニ」たるもの、そういうものなのだろうか。韓国内では批判が渦巻いている。
"悪口を言う時間ももったいない"
"酔ってデザインしたのか?"
"遊び過ぎはやめろ"
"チャレンジはいいんだがやりすぎ"
それはそうだ。コアな男性ファンに支えられてきたサッカー文化に新しい要素を加えようとしているのだから。「インスタ映えを意識した」という大韓サッカー協会側のコメントはないが、SNSに力を入れているのは確か。一昨年の夏には「各種公式アカウントの合計フォロワーが100万人を超えた」とプレスリリースを発行した。
2018年ロシアW杯後、韓国では特に女性の間で代表チーム人気が沸騰した。
それは昨年12月のE-1での観客動員不振から「海外組(多くはソン・フンミン)人気」と発覚したのだが、いずれにせよ新しい流れが来ている。そこのところ、要注目だ。
"W杯2大会連続GL敗退後"の韓国
2018年の韓国は、日韓サッカー史において恐れていた”最悪の事態”のボタンのひとつを押してしまった。
”W杯2大会連続グループリーグ敗退”
2014年と18年でそれを経験した。下の表をご参照いただきたい。
日本は2010年と2018年、その危機を回避している。かなりのドタバタの末だ。一度目は岡田武史監督のもとでの直前の大胆な戦術変更、もう一度は大会2ヶ月前の監督交代で。
なぜ2大会連続が恐ろしいのかと言うと、1度ワールドカップで「敗退」のイメージがついた後に、すぐに次の大会で挽回できないとまた暗黒時代に戻り始めるのではないかという恐怖があるからだ。
しかし、韓国は2014年と2018年でそれをやってしまった。歴史上初めてW杯で日本を下回るかたちで差がついてしまったのだ。
これはとても厳しい状況になる。状況を注視した。
なんのことはなかった。
ロシアでの最終戦でドイツに勝ったことで、雰囲気が盛り上がった。海外組人気に火がついた。
大会後から翌年3月まで、ホームゲーム6試合連続チケット売り切れ。同国サッカー史上初の出来事だった。筆者自身、2019年3月26日の韓国―コロンビア戦(6万4388人)を取材後、原稿でこう記した。
スタジアムが”インスタ映えスポット”になったのだ。こちらが眉間に皺を寄せて分析している間に、女性人気がサッカーシーンを席巻してしまった。
「伸びしろ」はどこにある?
ここで日本が何を見るべきかというと、「まだまだ発展のために手を付ける余地があるのか」という点だ。
韓国はまだ「女性人気」という比較的着手しやすい伸びしろに注目した。
日本は90年代前半からの急成長の過程で育成、トップチームの強化、メディア、マーケットといった環境を急速に整えた。韓国も同様で、特に韓国もユース世代のスパルタ教育とエリート主義に大きな問題を抱えてきたが、これを改善した。
じゃあ次に何に伸びしろがある? いい時にそういった点も考えていく必要がある。
日本はFIFAによる「女子サッカーの普及発展」の流れに乗る方策を選んでいる。2018年に「2019年から22年までにFIFAが100億USドルを投資」という発表があった。
日本にとっての2020年は間違いなく「オリンピックイヤー」という点が大きいが、日本サッカー協会の田嶋幸三会長は同時に新年の本人よるコラムで「女子サッカーの持続的発展に向けたスタートの年」とも謳った。2023年の女子W杯誘致にも名乗り出ている。
いっぽうで韓国は2019年に「大人のアマチュアカテゴリーの整備」を打ち出した。2019年3月、大韓サッカー協会のチョン・モンギュ会長が「K5からK7リーグを整備する」と改めて宣言したのだ。2020年の今年がスタートとなる。この点もまた、伸びしろとして考えられる点だ。ちなみに韓国は女子サッカーについて、2023年女子W杯の立候補を検討していたが、昨年12月に撤回した。北朝鮮との共同開催を目指していたが、これが「硬直した状況下では現実的に難しい」とされ、政府側の支援も得られなかったためだ。
「女子サッカーの整備」「アマチュアリーグの整備」はいずれも大きな資金と、時間がかかるプロジェクトだ。後者について韓国は2015年から会長が話を続けてきたが、5年がかりでようやくスタート地点に立つ。
だからこそ、今回の韓国のユニフォームデザインのように、「マーケティングを少しだけ新しい層に合わせる」という点は見るべきところがある。着手しやすい点でもあるからだ。日本はまだやってみていない手だ。コアファンの反発が大きすぎるか? いやいや「ユニフォームデザインは新たにサッカーに関心を持つ層のために合わせてOK」「そちらのほうが発展に繋がる」という反応が出るか。韓国はこの点での実験事例にもなる。
……という意味のある「インスタ映え」だ。