「50歳が14歳に性交」擁護発言・なぜまかり通るのか?今こそ政治の責任を問いたい。
これは、性犯罪に関する刑法改正について議論する立憲民主党の性犯罪刑法改正に関するワーキングチームで、同党の本多平直衆院議員が行った発言として大々的に報道された発言です。当然のことながら、社会的に厳しい批判を浴びています。
以下は、刑法学者の島岡まな教授のツイートですが、同教授を外部講師としてお呼びしだのに、外部講師に怒鳴っていたとは驚きました。
朝日新聞によれば、本多氏は8日
「私の認識不足の発言で、多くの方を傷つけ、不快な思いをさせたことを心からおわびする」と頭を下げ、発言を撤回する考えを改めて示した。
とされています。
立憲民主党のワーキングチーム(WT)は今年の3月に立ち上げられたとのことで、法務省で刑法性犯罪規定の改正議論が進んでいることを踏まえ、党としても検討を進めていたようです。
毎日新聞によれば、このWTでは、成人が性行為をした場合に罪に問われる対象年齢を現在の13歳未満から16歳未満に引き上げる案について、
6月3、4両日に次いで賛否両論が出たため、WTでの取りまとめをいったん断念した。WT側は中学生以下を性被害から守るため、「成人はいかなる理由をもっても中学生以下を性行為の対象にしてはならない」との中間報告をまとめるよう提案したが、出席者から「いかなる理由」でも禁止することに慎重意見があった。
とされています。
明らかに、本多議員のような反対論によって、大人から子どもへの性暴力を防ぐための政策決定ができなかったわけです。このような性犯罪被害の実態を理解しない人が国会議員であることにも、ひとたび国会議員が党の政策決定を妨げるほどの持論を展開したのに、批判されるとすぐに「認識不足」と撤回することにも愕然としました。
そもそも「50歳近くの自分が14歳の子と性交」する行為は、児童福祉法34条1項6号の「児童に淫(いん)行をさせる行為」に該当し、60条で10年以下の懲役等を科される可能性があります。
まず、国会議員なのですから法律を正しく理解してから改正の是非を議論すべきであり、犯罪を奨励するような発言は慎むべきであり、厳しい批判が妥当します。(※児童福祉法についてはのちに書きます)。
ある意味、この発言を明らかにして現状を社会に知らせた座長の寺田議員の姿勢には、見るべきものがあるとも言えますが、性暴力被害者の願いをかけた、極めて真剣な、重要な政策課題であるこの問題について、ようやくWTを立ち上げたかと思えば、そのような認識不足の議員をメンバーとして選定して、勉強不足のまま議論を進めている議論レベルには非常に落胆しました。
改正を求めてきた被害当事者の方々はどれほど悔しい思いでいることでしょうか?
私はこの問題に真摯に取り組まない政党は、性暴力の問題をしょせん女と子どもの取るに足らない重要性の低い問題であるととらえているのではないか、ジェンダー差別が背後にあるのではないか?という疑いを抱かざるを得ません。
まず、立憲民主党は果たして厳重注意でいいのか?刑法改正のとりまとめはとん挫したまま終わるのか、そもそも良識に反する極めて低レベルなジェンダー意識と性暴力に対する圧倒的な勉強不足をどう克服するのか、が問わています。
■ なぜ性交同意年齢の引き上げが議論されているのか?
2017年に刑法性犯罪規定が改正され、18歳未満の子どもを親がレイプするような被害に対応できるための「監護者性交等罪」などが導入されたものの、多くの積み残し課題があり、性暴力被害者の多くが救われないままであることが問題となり、2019年3月には4件の性犯罪無罪判決が出され、全国にフラワーデモが広がり、再度の刑法改正を求める声が広がりました。
刑法改正を求める署名も10万筆以上集まり、2020年に法務省が再度の見直しのための検討会を立ち上げることを決断しました。その要求項目は以下のとおりです。
■強制性交等罪(レイプ)における暴行・脅迫/ 心身喪失・抗拒不能の要件を撤廃し、相手からの「不同意」のみを要件として性犯罪が成立するよう刑法を改正すること。
■監護者等性交等罪の適用範囲を18歳以上に拡大し、処罰を重くすること。
■親族、指導的立場にある者(教師・施設職員等)や上司など地位や関係性を利用した性行為に対する処罰類型を設けること。
■低すぎる性交同意年齢を引き上げ、抜本的に見直すこと。
なかでも性交同意年齢が13歳というのは、中学校一年生になったら性行為の同意能力は完全にあるということを意味します。お酒やたばこ、消費者契約などと比べても際立って低い年齢で自己責任を課されるわけです。日本では特に小学校で性教育もなされていないのに、13歳になったら性行為の同意は自己責任、というのはあまりにもひどくないでしょうか?
諸外国の中でも異例の低さであり、国際的にも問題視されています。諸外国と比較するとその異常さがわかります。
13歳 日本
14歳 ドイツ・台湾
15歳 フランス・スウェーデン
16歳 カナダ・イギリス・フィンランド・韓国
しかも、日本の刑法で強制性交等罪が成立するためには、被害者がNoと断っただけでは足らず、暴行または脅迫という要件が必要とされているのです。子どもの場合でもかりに「いやです」と断っても、暴行または脅迫を立証する証拠を子どもの側で捜査機関に提供できなければ、加害者が処罰されることは難しい、それが現状なのです。
実際私も14歳、15歳で大人から性被害にあった少女たちの相談を受けることがしばしばありますが、ちょうど好奇心も旺盛になり、新しいことに挑戦したくなる、いよいよこれからという成長期の女の子たちが、信頼していた大人から突然襲逃げられない状況で性行為をされるという被害の相談に乗ってきました。
先生やコーチ、きさくでやさしいおじさん、といったひとたちが突然豹変する、フリーズしてしまってNoと言えない、逃げられない、という訴えをたくさん聞いてきました。
その心の傷は本当に深いもので、自立心が芽生えた少女たちにとってこれほど悔しいこと、無力にさせられることはありません。生きることそのものに絶望して苦しむ被害者も多いのです。本多議員の発言でフラッシュバックに襲われ、苦しい思いをしていることは想像に難くありません。
このような小さな声だからこそ、政治はしっかり耳を傾けるべきです。
性交同意年齢の引き上げは待ったなしの課題であり、今回のことを機に政治家は改めて真剣に取り組んでほしいと思います。国会議員は机上の空論で、法律論をもてあそぶのでなく、被害実態に詳しい専門家から謙虚に学び、認識を深めてほしいと思います。
■ 「子どもの性行為の同意」なる主張はどうして出てくるのか?
そもそも子どもと大人の間には対等な関係性がありません。
そして子どもは体が発達して性的に成熟し、性的な事柄を正しく理解し、自主的に決められるようになるまで、性的な侵襲行為から守られるべきです。
まして大人が対等性のない関係性で(仮に子どもが慕っていたとしても)子どもに性行為を迫り性的に侵襲するのは、性加害にほかなりません。
本多議員の発言はこの点を全く理解していません。
子どもの利益や発達段階を尊重する大人であれば、子どもに性的欲求をぶつけるなどするはずもなく、それをあえて行うのは、子どもを欲求のはけ口にする小児性愛等の問題を抱えている(=早期に治療すべき対象である)可能性が高いといえます。
そして、子どもの性行為の同意という言説がどういう文脈で語られるかというと、それは子どもが被害を訴え問題が発覚したときでしょう。子どもが被害を訴えているのに、「いや、あれは同意があった」「少なくとも自分は同意していたと誤解したから無罪なのだ」と責任を逃れるために使われるのが「自由恋愛」の抗弁です。子どもが最後までハッピーなのに問題が発覚したというケースは仮にあったとしても極めてまれでしょう。つまり、子どもにとっては結局性被害なのです。
また、小児性愛者のパターンとして、罪悪感を紛らわすためにそうした「自由恋愛」論を持ち出すとされています。
精神保健福祉士の斎藤章佳さんは「『小児性愛』という病-それは、愛ではない」のなかで、小児性愛者が性加害をする際に特有の認知のゆがみとして「純愛幻想」があるとし、小児性愛者が子どもと性関係を持つために関係性を築いて、その過程で「これは純愛である」という歪んだとらえ方を内面化し、その認知のゆがみが強化される、という事を指摘されています。
このように、子どもの同意、恋愛という主張の背後に加害者側の深刻な問題が隠されている可能性があり、それを国会議員が真に受けて擁護することがいかに危険か、理解してほしいと思います。
■ 特に深刻な教師による被害
特に深刻なのが教師やコーチ、医師など、子どもにとって権力を持つ大人による性被害です。
今年5月28日、つい最近ですが、国会で教師による生徒に対する性暴力を根絶することを目的にした法律が成立しました。
正式名称は 教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律 、立憲民主党を含む全会一致で採択されています。
法律では、教職員の児童生徒への性暴力を禁止し、国、地方公共団体、学校設置者、教職員などに啓発その他の対策、実際の事案に対しては通報、調査、保護、支援などの対応の義務を課し、免許失効後の再取得の厳格化するなどの規定を導入しています。
このきっかけとなったのは、教師による性暴力被害が非常に多いことが明らかになったことです。そして、勇気を出して声を上げた被害者の存在があったからです。
15歳の時から5年間、教師に性暴力をされた被害を告発し、裁判を提訴した石田郁子さんは、「交際と思いこまされていた」大人になってから性暴力と気づいた と訴え、自分の被害体験を繰り返さないために、法律の制定に尽力してきました。
法務省の検討会にも参加し、自らの体験を克明に語っていかに子どもが性暴力の被害にあいやすい状況に置かれているか、仮に明確にNoと言えなくてもそれは性暴力なのか、訴えています。
石田さんは、今回の問題発言を受けて以下のように訴えています。
■ 実は、検討会の中でも
法務省が設置した、刑法性犯罪規定改正を検討するための有識者による「性犯罪に関する刑事法検討会」 は、約一年の議論を経て今年の5月21日に取りまとめ報告書を公表しました。
しかし、ここでも、甲論乙駁の状況で、真剣な議論をしたことはわかるものの、ほとんど何も明確な改正提案がまとまりませんでした。法改正に心から期待してきた人たちの落胆は計り知れません。
検討委員である臨床心理士の斎藤梓先生は、以下のような意見を公表し、性交同意年齢の引き上げや時効期間の見直しを強く訴えられました。
現在,被害者が13歳未満の場合,暴行脅迫要件なく性犯罪として扱われます。しかし思春期の子どもたちの受ける被害は,徐々に親密な関係を築いていって子どもたちを騙したり追い込んだりして性行為を強要する被害であったり,理解力や力関係の差を利用した被害であったり,騙しや言語的な強制を使用した被害であったりします。そして,時には,子どもたち自身が「自分が同意した」と思いこまされている場合もあります。しかしいずれも,その後,子どもたちには,自責感や自尊心の低下が生じ,自殺企図や自殺既遂,物質依存,性問題行動など問題行動が起きてきます。さらに大人になり,自分が性被害にあったのだと気が付いた時には,すでに時効が来ているということも少なくありません。
ところが、主に法律家の委員から後ろ向きな議論が相次ぎ、取りまとめは以下のようになっています。
性交同意年齢を引き上げる場合には,刑事責任年齢との関係を含め,犯罪とすべきでない行為が処罰対象に含まれることのないよう,具体的方策とともに更に検討がなされるべきである。また,性交同意年齢には達しているものの,意思決定や判断の能力がなお脆弱といえる若年の者については,その特性に応じた対処につき,地位・関係性を利用した犯罪類型と併せて,更に検討がなされるべきである。
さらに、検討委員の中には、教師による児童への性被害について、「教師・生徒の関係であっても、生徒が高校生の場合には、両者の上下関係が逆転することが無視できない程度に起こり得るので,同意の有無を問わずに一律処罰することは適切ではない」 「児童との関係性は多様で影響の程度に濃淡があることから,教師やコーチによる児童との性的為を律に処罰することには疑問」など刑法学者が主張したため、諸外国でも多く認められている、18歳未満の子どもに対し大人が地位関係性を利用した犯罪類型を創設することの合意が得られませんでした。
しかし、子どもと大人の上下関係が逆転するとはいったいどういった考え方でしょう?ここで紹介した刑法学者の主張は本多議員の見解と根は同じであり、非常に問題があると言わざるを得ません。
先ほど紹介した新法「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」で禁止される教師による生徒への性暴力が刑法でカバーされず、直ちに犯罪とされない場合、せっかくの法律も十分に生かされないことになりかねません。
■今こそ政治の責任を
では、法務省の検討会で明確な法改正が打ち出さないまま、結局は現行法が変わらず、結局は、本多議員の述べた「例えば50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」という意見がまかり通り、改革がとん挫するのを手をこまねいているしかないのでしょうか?
政治の責任で、性交同意年齢を国際水準に引き上げ、特に大人から子どもへの性暴力を明確に厳しく処罰する規定を導入することで子どもたちを守る法制を実現すべきではないでしょうか?
今こそ政治が責任を果たし、国民世論に真摯に耳を傾け、政治の側から改革案を明確に示してほしいと思います。
ヒューマンライツ・ナウは検討会の取りまとめ報告が出された5月21日に「被害の実態に沿った法改正という原点はどこへいったのか?」とする声明を発表し、「いかなる法提案も、主権者が選定していない専門家の意見によってのみ決められ、市民の望むかたちでの改正が葬り去られることがあってはならない。最終的には主権者の付託を受けた国会議員と政府によって、責任をもって改正の方向性が示されるべきものである。」と政治の役割に期待を表明しました。
すべての政党に、本多議員への厳しい世論の反発を他山の石として、刑法性犯罪規定の改正の必要性をよく勉強したうえで、具体案を早急に取りまとめ、被害者が切に願う改革の芽をとん挫させない積極的な提案と政策実現のための具体的な行動を求めます。 (了)
☆ ☆ ☆
※注記 「50歳が14歳に性交」は、「児童に淫行をさせる」行為に該当して児童福祉法34条1項6号で禁止され、同法60条で10年以下の懲役刑が処される可能性が高いと言えます。ただし、この法律には以下の限界があります。
① 「淫行」は主に性交を指すので、性交以外の性暴力の処罰が容易でない。
② 「淫行させる」という要件がわかりにくい。裁判例により、「させる」という要件を満たすために、具体的状況を総合考慮するとされ、追加的な事情・立証が検察側に要求される。犯罪行為か否かがケースバイケースで判断される。
③ ②のため、国会議員すら規定を理解しておらず、禁止規範として有効に機能しているとは言い難い。
④ 刑が軽い。
⑤ 未成年同士の被害に対応できない。
そこでやはり法改正が必要です。
※注記2 子ども同士の性行為について
諸外国の法制では性交同意年齢を16歳などとしつつ、年齢差が2歳以内なら犯罪としないという立法もあります。13歳から15歳までは日本でもそのような対応を取ることも一案と言えるでしょう。