【インタビュー】スケボーが東京五輪種目に。ストリートスポーツの盛り上がりとこれから。
2020年東京五輪の、サーフィン、スケートボード、スポーツクライミングの正式採用が決まった。
しかし、日本がストリートスポーツ大国だということはあまり知られていない。スケートボード、BMXフラットランド、ブレイクダンス、ダブルダッチ、スラックラインなどは、既に世界で活躍している若い選手がたくさんいる。
Red Bullのような企業がストリートスポーツやエクストリームスポーツのコンテンツを量産したり、Youtube・Instagramで世界中の選手のパフォーマンスが誰でもどこでも見れること、SNSで海外のイベントオーガナイザーなどと直接コミュニケーションを取ることが簡単になった影響も少なくない。
今回、インタビューは、自身が過去にBMXフラットランドのトッププロとして活躍し、ストリートアパレルブランド「430」のCEOも務める上原洋。BMXフラットランドを中心に日本のストリートシーンを長くサポートし続けている彼に、日本のストリートシーンの今とこれから、そしてストリートスポーツの魅力の根源について聞いた。
10代が世界大会に「わんさかいる」ストリートスポーツ
後藤:今のストリートのイベントに行くと、「430」ブランドが常にサポートをしている気がします。最近だと7月にあった、BMX・スケートボード・ブレイクダンスの世界大会がミックスされたG-SHOCK REAL TOUGHNESS、とか渋谷の宮下公園であったStreet Gamesとか。
上原さんはずっとストリートを見てきたと思うのですが、東京五輪の最終種目候補にサーフィンとスケートボードとスポーツクライミングが残ってます。ストリートスポーツの人口が増えてる実感はありますか?
上原:そうですね。スケートボードは増えてると思いますよ。特に子どもが多いですね。スケボーは一万円以下で板が買えてしまう。そしてサーフィンやスケートは、ファッション業界に注目されているというのも大きいです。
後藤:大会に出てる選手が、とにかく若いですよね……。10代が上位独占なんてこともよくありますし。
上原:今ストリートスポーツのトップには15~16歳の子どもがわんさかいますね。
僕はBMXをずっとやってきてるんですけど、BMXとかスケートボードは自分のレベルが上ったり大会で上のクラスに行くたびに、“新しいドアを開ける快感”が得られるんですよね。技を一個一個クリアしていくっていうのもありますし、自分の道具を持って新しい土地を旅する楽しみもあると思うんですよね。例えば僕はBMX始めた頃、岡山に住んでて、大会で大阪とか神戸に行くのを楽しみにしてたり、関西に慣れてくると今度は東京に行きたくて仕方なくなったり。東京にも慣れてきたら、今度は海外に行きたいってなってくるんで。
日本一になったら、次は世界一って追いかけていく。ストリートの世界ではスキルがあれば10歳も20歳も年上の大人とか、外国人と同じ舞台で戦えますからね。僕なんか、10個年上の人をあだ名で呼んでましたから。(笑)
そうやっていろんなところに旅して、いろんな人と会ってるから、この世界にいる10代のトップ選手って、普通の10代より大人びていると思います。やっぱり、動くことで、同じ18歳でも人生経験が違う18歳が出来上がっていくと思うんです。
後藤:なるほど。あと、試合とか、練習とかだけじゃなくて撮影だったり、ストリートセッションだったり、外国人選手とコミュニケーション取る機会も多いですよね。
上原:そうそう。でもね、例えば7月のG-SHOCK REALTOUGHNESで外国人のトップ選手に混ざって優勝した14歳の中村輪夢にはよく、もっと積極的にコミュニケーション取っていきな、って言ってますね。例えば撮影でカメラが回っている時に、「じゃ次、お前のライディングの番な」って誰も言ってくれないんですよ。
「俺、行くわ」「撮ってくれる?」って前に出ないと。僕と一緒に大会を回ってる14歳が、あ、撮影ってこうやって行われるんだ、自分で手挙げないと撮ってくれないんだ、撮影でフッテージが残せないと、メディアに出れないんだっていうのを勉強するわけです。
メディアに出れないとメディアボーナスが落ちてこない可能性が大きい。逆に撮った写真の中でいいやつがあれば、メディアに大きく出て、1ページいくらもらえる、っていう大人の世界と繋がってくるんですよね。
後藤:ただ、まだまだ例えばサッカーや野球と比べるとスポーツとしての仕組みが整ってないと思うんですが、ストリート系スポーツで今活躍している10代の選手は、2020年とかその先、どうなるんですかね?
上原:早熟過ぎるのはちょっと心配ではありますね。人間、やっぱり20代・30代と人間的に成熟していくじゃないですか。それが10代で世の中のことを知らないまま世界ランクではトップレベルまで行けてしまう。サッカーや野球でも引退後のキャリアは課題かもしれないですけど、実力があれば30歳くらいまでは生活できる仕組みがあると思うけど、ストリートスポーツはそれに比べると全然無いですからね。
オリンピックとストリートスポーツ
後藤:2020年、スケートボードがオリンピック競技になりそうですね。
上原:そうですね。ただ、ストリートの世界は素直に全員が喜んでいるかというと、そんなことはないです。例えばスノーボードにも昔から、スノーボードはストリートカルチャーで、アートなのに、なんでスポーツにしなきゃいけないんだ、っていう声がある。音楽だとパンクミュージックとポップミュージックの狭間でアーティストも揺れていくわけじゃないですか。その感じと近いのかもしれないですね。
後藤:上原さんはどっちのスタンスなんですか?
上原:僕はBMXとかスケートボードはパンクミュージックだと思ってます。どっちかと言うと。でも、じゃあ、仲間がオリンピックで活躍して、スーパースターになっていったとして、嬉しくないかと言われれば、凄く嬉しい。(笑)
カルチャーが「丼」だとしたら、僕の仕事は丼の中身を食うというより、器を大きくしたり、周りに存在を気づかせていくことなんですよ。大きくしたら中に入れる人、食っていける人が増える。オリンピックは、丼を大きくする、業界が盛り上がる一つのきっかけかなって思ってます。
「繋がれる時代」のアスリートに必要なスキル
後藤:「オリンピックの時だけ話題になるスポーツ」もあると思うんです。ストリートスポーツが一過性のブームにならないためには何が必要ですか?
上原:もっと業界として外の世界とコミュニケーションを取っていったり、コミュニケーションが取れる選手を増やしていくことですかね。
野球でもサッカーでも、「上手い」だけじゃ試合に出れないですよね。監督とか、他のポジションのチームメイトとコミュニケーションを取れて初めて、試合に出させてもらえる。ストリートシーンにわんさかいる10代の選手は僕たちの宝なんですが、彼らがやり続けて、プロになって食っていくなら、上手いのは絶対で、好きって気持ちとか、折れない心の強さ、それにこれからはコミュニケーション能力が高くないとダメでしょうね。
後藤:ストリートカルチャーって、「自分のスタイル」を貫き通すところがカッコいいものだと思ってました。積極的にカルチャーの外の人とコラボレーションしていく人が増えてきたり、上に上がるためのスキルとしてコミュニケーション能力が必要になったきっかけはあるんですか?
上原:世界中のコンテンツがネットで流通して、SNSで誰とでも繋がれるようになって、外のカルチャーの人との「ミーティングポイント」が増えたんじゃないですかね。
別にこっち側の人が急にオープンマインドになったり、ずっと閉じたりしてたわけじゃなくて、僕らはずっと変わらない。でも、ミーティングポイントが増えて、寄って来てくれる、って言い方は失礼ですけど、こっちの良さが分かってきて、興味を示してくれて、こっちの話し方も理解してくれる人が出てきたってことでしょうね。
今までは後藤さんみたいに、スケボーもBMXもやったことないっていう人から、こうやって取材される事は無かったし、これも外の人が変わってきてるって事じゃないですかね。
僕とか、後藤さんとか、あと7月にREAL TOUGHNESSを主催してくれたG-SHOCKとかは「翻訳家」というか、ロジックを作る人というか、ストリートカルチャーの中と外の間に入って繋ぐ人ですよね。
もっとこういう人とか企業が出てきたら、オリンピックがただのブームじゃなくなる。本当の意味で変わると思いますよ。そこは既に変わってきてる実感もありますね。
後藤:日本には、若くて、世界で認められてる選手が既にいて、その周りに強く結びついて濃いコミュニティもある。
上原:カルチャーの本質的なところはずっと変わらないんです。でも、G-SHOCK REAL TOUGHNESSみたいに、東京ドームシティホールでドーンとやるなんて、昔は考えられなかった。ありがたいですよね。