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【獣医師が内部告発】奈良のシカが愛護施設で虐待か?#奈良のシカ

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
関西テレビニュース 【関西テレビ・ニュースランナー】のYouTubeより

奈良公園に行けば、シカが数多くいて愛らしいです。その保護活動に取り組む「奈良の鹿愛護会」の施設内でシカが虐待されているという衝撃的なニュースを産経新聞が伝えました。

今夏に、広島の宮島の母シカが出産中に子宮脱になり子シカは死に、母シカは衰弱しているところを救助されましたが死んでしまいました。SNSでは宮島のシカを救えなかったのかと話題になっていたことをFRIDAY DIGITALが伝えていました。

宮島のシカが問題になっているだけで、奈良観光ではかかせないシカは、適切な環境にいると思っていました。奈良市のシカについて見ていきましょう。

愛護施設内で奈良市のシカがネグレクトか?

関西テレビ NEWS 奈良のシカ 虐待の通報をした獣医師「見て見ぬふりはできない」 保護団体は虐待を否定 奈良市 (2023/10/02 18:00)

重要な点は、国の天然記念物「奈良のシカ」の保護活動に取り組む「奈良の鹿愛護会」の獣医師が内部告発しているということです。

獣医師は、シカを救いたいと愛護活動をしていたのでしょうが、同会のシカの保護施設が劣悪な環境だったので、声をあげましたが同会に聞きいれてもらえませんでした。そのため、獣医師は、奈良市に通報書を提出しました。

産経新聞が伝えている通報書をまとめると、以下のような状態だったのです。

・安価でシカにとって栄養価が低い餌

・暑さをしのぐ日陰が少ない

・水飲み場が汚れている

このような飼育環境が、少なくとも5年以上続きネグレクトで動物虐待にあたるというものです。

愛護施設のシカは、健康な状態で保護されたにもかかわらず、以下のようになっていたと通報書にあります。

・脱毛症状

・約7割が飢餓状態

・毎年、約3分の1が死んでいる(50頭以上)

・死んだシカの平均年齢は5歳(シカの寿命は15歳)

・死んだシカの体重は、平均で34キロ(通常のシカは、60~70キロ)

これを読むと愛護施設内の環境は、劣悪なのかな、と推測されます。

一方、同会は以下のように主張しています。

「餌の予算は十分にとっていて不足しておらず、虐待行為にあたることはない」と説明。保護されたシカのうち、山から下りてきた野生度の高い雄ジカが柵内での生活になじめずストレスになっている可能性があるとした上で、「体調不良が見受けられるシカには別の柵に移動させて治療を行っている」

なぜ、獣医師と同会の見解は違うのか?

同じ施設を見ている獣医師と同会との見解は、大きく食い違っています。これは、なぜ、起こるのでしょうか?

同会の人は、餌も与えている、世話もしているので虐待ではないと思っているようです。適切な世話をしないとネグレクトになり、これも虐待になるのです。同会の人は、その辺りの意識が低いのかもしれません。

ネグレクトについて説明しておきますが、ネグレクトは自分で自分のことができない人や動物の世話をする責任がある人が、責務を怠ることです。適正な飼養がされていないことです。

同会のシカの場合は、シカは柵の中にいるので、自分で外に出て草を探せません。世話している人が意識しないと、シカの数に応じた適正な餌を与えていない、日陰がないなどはネグレクトになる可能性が高いのです。

奈良市のシカは、国の天然記念物

イメージ写真
イメージ写真写真:アフロ

シカをそこまで世話するの?と思っている人がいるかもしれません。奈良のシカは、一般の野生のシカと違い、国の天然記念物なのです。

1957年(昭和32年)に国の天然記念物に指定され、捕獲などが禁じられる法的な「保護」対象となっています。

天然記念物の奈良のシカの生息区域は、「奈良市全域」です。このため、山間部で農業被害が出ている場合でも対策を取れないので、農作物を荒らすなど人に被害を与えたシカが「特別柵」と呼ばれるエリアにおよそ240頭が収容されているのです。

奈良市は、シカの個体数を調整して、適切な数にする必要があるのかもしれません。それをするためには、きちんと判断基準を作ることが大切です。愛護施設の規模より保護したシカが多すぎるのなら、施設や人手や予算を考え直す必要があるかもしれません。

ネグレクト状態で飼育するのでなく、動物福祉の観点に基づくルールが必要なのではないでしょうか。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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