「痩せこけてふらふら」…見殺しにされた「宮島の母鹿」救う手立ては本当になかったのか
目の前で血を流して苦しんでいる動物がいるのに…「野生動物だから仕方ない」!?
出産中に子宮脱となったために、子鹿は死に、母鹿は衰弱しているという内容がYouTubeで投稿され、SNSで拡散されたのは6月中旬のこと。 【疑問】島の入り口に掲げられた看板…苦しんでいる動物を放っておくことが「野生」!? 行政がいったん見に来たのに、帰ってしまったなどの声もあり、ネット上には「かわいそう」「誰かなんとかしてあげて」という声が溢れる一方、「宮島は鹿が増えすぎていて、減らさないといけない事情があるから」「野生動物だから仕方ない」といった指摘も出ていた。 結局、母鹿は野生生物という扱いで、治療のための移送許可・交渉が難航し、発見から8日後に他県の獣医師のもとで手術が行われたものの、死亡。 非常にモヤモヤの残る結果となったが、本当に救う手立てはなかったのだろうか。そもそも「奈良の鹿は大きく太っているけど、宮島の鹿は痩せこけている」という“待遇差”などもときどき耳にするが、なぜそうした違いが起こるのか。 宮島での鹿保護管理行政について行政やボランティア団体などに聞き取り調査を重ね、論文「行政による専門家利用を考えるー宮島鹿保護管理計画を事例に」を著した福岡大学経済学部経済学科・山﨑好裕教授に聞いた。 「今回の事態を理解するためには、宮島町(現在は広島県で廿日市市)で’08年に策定された『宮島地域シカ保護管理計画』に遡らなければなりません。 これは途中で1度改正されたものの、基本的なところは変わっておらず、鹿の被害を防ぐため、鹿と人間が良い共生関係に立つために無秩序な餌やりは禁止しましょうというのが主な内容でした。 計画作成には鹿の研究者や生物学研究所の方も参加し、非常にバランスの取れた内容になっていたんです。とりわけ一番バランスが取れていると思ったのは、給餌をやめた結果、衰弱が見られるようであれば、計画的な給餌を再開するということ。 しかし、そこから10年の歳月が流れた段階で、計画的な給餌を行うという部分が全く無視されるようになってしまったんです」