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日本とは異なり韓国が「米国か、中国か」の「二者択一」ができないのは進歩政権も保守政権も同じ!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
文在寅大統領主宰の青瓦台首席補佐官会議(青瓦台のHPから)

 バイデン政権のアジア重視外交が始動する。

 ブリンケン国務長官とオースチン国防長官が揃って来日し、16日から茂木敏允外相と岸信夫防衛相との間で「2プラス2会談」が開かれる。終わると、直ぐにソウルに飛び、17日から18日までの間、今度は韓国の鄭義溶外相と徐旭国防相と同様の会談を開くことになっている。

 日本での会談では直前に行われた日米豪印首脳会議(テレビ会議)での4カ国(通称クアッド)合意の履行、中でも外交、貿易、安全保障面での中国への対応がメインとなるようだが、日米韓3か国協調関係の再構築を目指す米国としては韓国側との会談では文在寅政権に共同歩調を求めることが予想される。

 事実上中国を「仮想敵国」とした中国封じ込めの日米主導のインド太平洋戦略に韓国が一定の理解を示したとしても全面的に同調し、「クアッド」に協賛する可能性はないだろう。文在寅政権が親中だからということではない。進歩政権であれ、保守政権であれ、韓国は国策として対中では日米とは距離を置かざるを得ない立場にある。実際に、南シナ海の問題では韓国は朴槿恵政権の時代から日米に与することはなかった。

 米国はオバマ政権下の2015年10月に行われた米韓首脳会談で朴大統領に南シナ海の問題での立場を明確にするよう迫っていた。そのことは、オバマ大統領が首脳会談後の共同記者会見で「朴大統領に唯一要請したことは、我々は中国が国際規範と法を遵守することを望むという点」とし「もし中国がそのような面で失敗すれば、韓国が声を上げなければいけない」と釘を刺していたことからも明らかだった。

 ところが、翌年の7月、オランダのハーグにある仲裁裁判所が南シナ海を巡る裁判で中国に国際ルールに従うよう中国敗訴の判決を出し、これに中国が「(判決は)紙くずに過ぎない」と受け入れを拒否した際に取った対応は「南シナ海の紛争が平和的で相違的な外交努力で解決する」という実に曖昧で、抽象的なもので、判決を受け入れるよう促した日米との差は歴然としていた。

 その一方で、同時期に韓国は中国の猛反発を押し切り、米国が求めていたTHAAD(高高度ミサイル防衛システム)の配備も決定していた。中国が怒り、報復措置として直後のアジア欧州会議(ASEM)首脳会談での李克強首相と朴槿恵大統領の首脳会談をスルーしたばかりか、中国国内でTHAAD用の敷地を提供したロッテグループの商品ボイコットを含め、韓流ブームの遮断に乗り出したことは周知の事実である。

 米国の対外政策に追随しないのは対中だけでない。対ロシアでも同様だ。

 米国がウクライナの問題でロシアと新冷戦を彷彿させるような対峙関係にあっても韓国は米国と距離を置き、対ロシア制裁には全面的に同調することはなかった。その証拠にロシアのクリミア侵攻から1年後の2015年5月、G7など西側諸国の首脳は軒並み出席をボイコットしたが、朴槿恵大統領は米国の制止を振り切り、モスクワで開催された対ドイツ戦勝70周年記念式典に出席していた。

 ロシアと1990年に国交を結んだ韓国は盧武鉉政権下の2004年に両国の関係を「相互信頼する包括的同伴者関係」に格上していた。盧大統領の後を継いだ保守の李明博大統領も2008年から任期最後の年の2012年にまで4度訪ロし、ロシア首脳らと首脳会談を重ねて来た。後任の朴槿恵大統領も2015年5月に続いて2016年9月にもロシアを訪問している。

 韓国と「クアッド」4か国とでは中国との利害関係が違いすぎる。

 米国と豪州は貿易問題で中国とは冷戦状態にあり、インドと日本は国境紛争や領海紛争など共通の悩みを抱えている。しかし、韓国は中国との間に4か国とスクラムを組まなければならないトラブルを抱えていない。

 韓国は中国とは戦略的同伴者関係にあり、中国は韓国にとって第一の貿易パートナーである。さらに、南北関係修復のためにも北朝鮮への中国の影響力を無視せざるを得ない。米国を外した朝鮮半島問題の解決があり得ないように中国を抜きにした朝鮮半島の安定、平和はあり得ないとみている。

 韓国の次期政権が進歩であれ、保守であれ、この「バランス外交」が変わることはないだろ。むしろ、仮に「韓国のトランプ」と称されている李在明・京畿道知事が大統領になれば、日米韓3か国協調関係どころか、米国離れが加速化するかもしれない。その予兆は李知事の以下の発言からもうかがい知ることができる。

▲「THAADの韓国配備」について

「THAADの配置に反対だ。THAADは首都圏の防御に寄与しない。結局、中国が懐疑的にみているように米国の世界ミサイル防御(MD)戦略に従属することになる。米韓関係は従属的関係であってはならない。この問題で我々は中国からは経済制裁、米国からは安保脅威を強要されている。対策もなく配備し、中国から経済制裁を受けるようなことになってはならない」

▲「駐韓米軍負担増額」について

「(トランプ次期政権が)増額を要求するなら、我々は逆に削減を求めるべきだ。駐韓米軍は固定された軍隊ではない。迅速機動軍隊である。米国が必要だから駐屯しているわけで、いつでも出ていけるようになっている。代わりに、我々は米軍に臨時に駐屯するための基地を提供しているわけだ。当初の米韓安保条約には韓国の防衛費負担はなかった。それが1990年からつくられた。米国が出ていったら防衛できないから米国の要求に応えるべきというのはあまりにも無責任だ。国益中心の自主的なバランス外交を行うべきだ」

 時代の趨勢と韓国の「宿命」からして韓国が一昔前の軍事色の強い日米韓3か国協調関係に回帰することはなさそうだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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