生成AI悪用で最多は「世論操作」約3割、その実態とは
生成AIの悪用で最多は「世論操作」で約3割に上る――。
グーグルのAI部門、ディープマインドと研究部門、ジグソーの研究グループは、6月19日付でそんな調査結果を発表した。
「選挙の年」2024年に懸念されているのが、急速に高度化する生成AIの悪用による選挙介入だ。
その懸念を裏付けるように、生成AIの悪用の約3割が、選挙などへの介入を目的とする「世論操作」であることが、200件を超す悪用事例報道の調査でわかったという。
生成AIの悪用による情報汚染が広がれば、「現実の理解が歪められる」と研究グループは指摘している。
●政治的分裂を招く
ディープマインドとジグソーの研究グループは、6月19日付で論文公開サイト「アーカイブ」に掲載した調査報告で、そう述べている。
研究グループは、生成AIブームの火付け役となったチャットGPT登場の2カ月後、2023年1月から2024年3月までの期間に、生成AIの悪用を取り上げたメディア記事200件超を分析。生成AI悪用の手法や目的を分類し、その傾向を整理した。
その結果、悪用の目的(全体で249件)の中で最も多かったのが、「世論操作」(66件、26.5%)だった。
調査報告はその具体的な事例も参照している。
2023年12月には、米共和党が国立公園を移民のテント村で埋め尽くす生成AI画像を使った広告で民主党を批判したケースがある。またそれに先立つ同年8月には、ハワイ・マウイ島の火災に際して、中国の影響工作ネットワーク「スパモフラージュ」が生成AI画像とともに「気象兵器によるものだ」との陰謀論を拡散したと報じられている。
※参照:アメブロ、ピクシブ、楽天ブログ…「ハワイの山火事は気象兵器」中国発の陰謀論、日本も標的(09/15/2023 新聞紙学的)
●広告収益、詐欺広告
「世論操作」に次いで多かった悪用目的として研究チームが指摘するのが、「収益化」だ。51件、20.5%を占めた。
生成AIの普及によって、コンテンツの大量生成、拡散のハードルが下がり、それを広告収益目的の低品質サイト(MFA)や、政治目的の偽装メディアサイトの展開に利用するケースが増大している。
※参照:AIで量産のメディア偽装サイト「ピンクスライム」の数が、本物のニュースサイトと同規模に(04/05/2024 新聞紙学的)
※参照:1週間で記事8,600本、「AIコンテンツ工場」がネット広告費を飲み込む実態とは?(06/29/2023 新聞紙学的)
そして、3番目に多かったのが「詐欺」(45件、18.1%)だ。「影響力のある人物になりすまして詐欺的な暗号通貨や投資スキームを宣伝するような"著名人詐欺広告"が、我々のデータセットでは多かった」と研究チームは指摘している。
※参照:「暗号通貨宣伝」「女性スキャンダル」のAIデマ動画拡散、台湾総統選にフェイクの脅威(01/11/2024 新聞紙学的)
●なりすまし、捏造アカウントの氾濫
研究チームは、これらの生成AI悪用の具体的な手口(全体で258件)についても、まとめている。
最も多かったのは「なりすまし」で56件(21.7%)。使われたメディアのタイプは音声(28件)と動画(21件)が大半を占めた。
次いで「捏造アカウント(ソックパペット)」で48件(18.6%)。このケースでは、テキスト(18件)と画像(17件)が大半だった。
次いで「拡散」が44件(17.1%)で、うちテキストが24件、画像が15件。さらに「コンテンツ偽造」の34件(13.2%、画像16件、テキスト12件)と続く。
前述の悪用の目的ごとの手口を見ると、「世論操作」(66件)で多かったのは、「なりすまし」(20件)と「コンテンツ偽造」(14件)。
「収益化」(51件)の中では、「拡散」(14件)と「不同意ヌード」(11件)。「詐欺」(45件)の中では「なりすまし」(22件)と「拡散」(7件)が多かった。
●「現実を歪める」
研究チームは、そう指摘している。
ウェブ評価サイト「ニュースガード」は、代表的なAIチャットボット10サービスを対象とした調査で、これらのAIがロシア発「偽装ニュースサイト」の偽情報をオウム返しする実態を明らかにしている。
偽情報拡散のエコシステムの一端を、生成AIも担っているという構図だ。
そして、これらの「偽装ニュースサイト」の展開でも、生成AIの使用が指摘されている。
※参照:AIチャットボットがロシア発「偽装ニュースサイト」の偽情報をオウム返しする(06/19/2024 新聞紙学的)
「ニュースガード」の調査には、ディープマインドが開発した生成AI「ジェミニ(旧バード)」も含まれている。
2024年5月に成立した欧州連合(EU)による世界初の包括的なAI規制法「AI法」では、生成AIの悪用などによる社会への甚大な被害を「システミック・リスク」と位置づけ、厳しい規制を設けている。
※人類は生成AIをいかにして制御するのか?EUで成立したAI規制法400ページの核心(06/26/2024 JBpress「Straight Talk」)
今回の調査の指摘は、グーグル・ディープマインドにも向けられていることになる。
【情報開示=筆者はGoogle.org、LINEヤフー、Metaが資金援助する「国際ファクトチェックネットワーク」加盟の日本ファクトチェックセンターで運営委員を務めている】
(※2024年6月26日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)