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鈴木千裕はパッキャオに何を仕掛けるのか?「番狂わせ」の可能性は─。 7・28『超RIZIN.3』

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
7月28日に対戦するマニー・パッキャオと鈴木千裕(写真:RIZIN FF)

3分×3ラウンドの真剣勝負

「この試合はエキシビションではない、真の闘いだ。私は1ラウンドで終わらせるつもりでいる。ボクシングは甘い競技ではない、そのことを(鈴木千裕は)知ることになるだろう。いや、私が学ばせる」(マニー・パッキャオ)

「そう言ってもらわないと!(パッキャオが本気であることに)安心しました。パッキャオ選手にはボクサーのパンチは当たらない。でも僕の、MMAファイターのパンチは当たる。パッキャオ選手からボクシングを学ばせてもらいますけど、僕はパッキャオ選手に(ボクシングの試合の中で)MMAを学ばせます」(鈴木千裕)

6月9日、東京・国立代々木競技場第一体育館『RIZIN.47』のリング上でサプライズがあった。

プロボクシング6階級制覇王者マニー・パッキャオ(フィリピン)が登場し、7・28さいたまスーパーアリーナ『超RIZIN.3』への参戦を表明。対戦相手がRIZINフェザー級王者・鈴木千裕(クロスポイント吉祥寺)に決まったことも併せて発表されたのだ。

そして翌10日には都内で記者会見が開かれ、両者が決意を語り、試合のルールも発表されている。概要は以下の通りだ。

・RIZINスタンディングバウトルール(ほぼボクシングルール)。

・3分×3ラウンド、判定決着なし。KO、TKOでのみ勝敗を決する。

・契約体重68キロ。

・8オンスグローブ着用。

異種格闘技戦ではない。ボクシングでの試合である。 2018年大晦日に行われたフロイド・メイウェザー(米国)vs.那須川天心(TEPPEN/当時)、昨年『超RIZIN.2』でのフロイド・メイウェザーvs.朝倉未来(JTT)と同じ図式。つまりは、パッキャオが圧倒的優位なルール下での対峙である。

「この試合は私にとって大きなチャレンジだ。1ラウンドで倒してみせる」と話したマニー・パッキャオ(写真:RIZIN FF)
「この試合は私にとって大きなチャレンジだ。1ラウンドで倒してみせる」と話したマニー・パッキャオ(写真:RIZIN FF)

「リスペクトを込めて倒しにいく。RIZIN、KNOCK OUTの王者として負けるわけにはいかない」と決意を口にした鈴木千裕(写真:RIZIN FF)
「リスペクトを込めて倒しにいく。RIZIN、KNOCK OUTの王者として負けるわけにはいかない」と決意を口にした鈴木千裕(写真:RIZIN FF)

さて、勝つのはどっちか?

大方の予想は「パッキャオ優位」である。

それはそうだろう。MMAルールで闘えば鈴木が勝つ可能性が極めて高いが、ボクシングルールなら、その逆になる。海外のスポーツブックでのオッズは「12-1」「15-1」といったところか。

実は、パッキャオは年内にプロボクシング本格復帰を果たすつもりでいる。対戦相手にはWBC世界ウェルター級暫定王者マリオ・バリオス(米国)の名前が挙がっているのだ。

記者会見でもメディアからそれに関する質問が飛び、パッキャオはこう答えた。

「交渉中の話でまだ何も決まっていないが、もし実現するなら11月か12月になると思う」

現実味のある話。

ボクシング本格復帰を視野に入れているパッキャオにとって、今回の鈴木戦は絶対に負けられない闘いなのである。

鈴木千裕が、またもや奇跡を起こすのか

パッキャオ優位の予想に異論はない。

だが、それでも…と考えてしまう。

それは鈴木がこれまでに2度、奇跡を起こしたファンタジスタだからだ。

昨年6月、北海道・真駒内『RIZIN.43』で鈴木はクレベル・コイケ(ブラジル/ボンサイ柔術)に挑みチョークを決められ完敗。連勝がストップ、躍進もここまでかと思われた。

だが、翌7月に鈴木は蘇える。

急遽のオファーを受け『超RIZIN.2』に参戦。Bellatorフェザー級王者のパトリシオ・ピットブル(ブラジル)に挑み、右ストレートをクリーンヒットさせ1ラウンドKO勝利。大番狂わせを起し観る者を驚かせた。

さらに11月には敵地バクーに赴き、RIZINフェザー級王者ヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)に挑む。朝倉未来に完勝しベルトを腰に巻いた強者相手に「鈴木では勝てないだろう」と言われたが、ここでもアップセットを演出する。

タックルを決められ下になったピンチの場面から、振り回した足の踵を頭部に落としケラモフを失神に追い込んでの秒殺KO勝利。屈辱を味わったクレベル戦から僅か5カ月後にRIZINフェザー級の頂点に駆け上がったのである。

『RIZIN.47』第7試合終了後にリングに上がり健闘を誓い合った鈴木千裕(左)とマニー・パッキャオ(写真:RIZIN FF)
『RIZIN.47』第7試合終了後にリングに上がり健闘を誓い合った鈴木千裕(左)とマニー・パッキャオ(写真:RIZIN FF)

鈴木は、負けることを恐れずに前に出て一撃を狙う勇気を持てる漢だ。

パッキャオ戦でも、それを貫く。

「秘策」と呼ぶほどのものではないが、作戦はボクシングファイトにつきあわないこと。リズムと軌道の異なるMMAファイターならではのパンチを武器に、フルスロットルで1ラウンドから攻めよう。もしここで一撃を喰らわすことができれば思わぬ展開になるかもしれない。

メイウェザーに挑んだ那須川、朝倉よりもはるかに期待が持てる。

鈴木は、三度び奇跡を起こし世界に名を轟かせることができるのか─。

だが、その前に一つ大きなハードルがある。

6月23日、東京・国立代々木競技場第二体育館『KNOCK OUT』で五味隆典(東林間ラスカルジム)と鈴木はボクシングルールで闘うのだ。この一戦も何が起こるか分からない。もしここで鈴木が負けたなら、パッキャオ戦はどうなるのか? 予断を許さない。まずは、師弟対決に注目─。

〈『超RIZIN.3』主要対戦カード〉

7月28日、さいたまスーパーアリーナ『超RIZIN.3』では、上記のカードを含め十数試合が行われる(画像提供:RIZIN FF)
7月28日、さいたまスーパーアリーナ『超RIZIN.3』では、上記のカードを含め十数試合が行われる(画像提供:RIZIN FF)

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストに。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターも務める。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。仕事のご依頼、お問い合わせは、takao2869@gmail.comまで。

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