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世界のスポーツ界でアスリートの視覚機能向上に貢献する社員数わずか2人の日本の零細企業の挑戦

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
東京五輪で銀メダルを獲得したコステレツキー選手(右)と田村氏(ビジョナップ提供)

【日本代表快進撃の東京五輪で達成されたある快挙】

 すでに東京五輪が閉幕してから約2ヶ月が経とうとしているが、史上最多58個のメダルを獲得した日本代表選手たちの快進撃を、今も目に焼き付けている人は多いことだろう。

 コロナ禍の中で開催そのものが疑問視される中、開催に携わった人々の献身的な作業が結実し、大きな問題もなく全日程を全うした。そして日本代表選手ばかりでなく、世界中から日本に集結したアスリートたちが東京五輪開催に感謝を示すかのように最高のパフォーマンスを披露し、我々を感動させてくれた。

 そんなアスリートの1人に、男子トラップ(クレー射撃)個人で銀メダルを獲得したチェコ代表のダビド・コステレツキー選手が挙げられるだろう。

 46歳のコステレツキー選手は、同じチェコ代表のジリ・リプタク選手と両者ともに五輪記録を塗り替える死闘を演じた末、金メダルこそ逃したものの自身2度目のメダルを獲得することに成功しているのだ。

【ピークを過ぎたコステレツキー選手を支えた日本企業】

 元々クレー射撃は、高齢でも五輪に出場できる競技として知られている。今回の東京五輪でも29選手がエントリーし、平均年齢が35.1歳の中、58歳の最高齢を筆頭に50代2人、40代5人が名を連ねている。

 だがそうした高齢選手たちが、メダルを争うような高い競争力を維持できるかと言われれば、やはり難しい面がある。それを物語るように、今大会で決勝に進出した6選手の中で40歳以上の選手は、コステレツキー選手1人だけだった。それだけ彼のメダル獲得は、クレー射撃界でも快挙と言えるのだ。

 ただそんなコステレツキー選手にしても、年齢的な部分で選手としての衰えが出始め、低迷期を迎えたこともあった。21歳の若さで1996年のアトランタ五輪に初出場した後、33歳で迎えた2008年の北京五輪で念願の金メダルを獲得。その後も現役生活を続行したが、目立った活躍ができなくなっていった。

 その逆境をはね除け、コステレツキー選手が再びトップ選手として見事な復活を遂げることができたのは、ある日本企業の支援があったからだ。

【アスリートの視覚機能向上を目指す零細企業】

 その企業こそ、京都を本拠に置く株式会社ビジョナップ(代表取締役:田村哲也氏)だ。同社は『ビジョントレーニングメガネVisionup(ビジョナップ)』を開発し、幅広いスポーツ競技でアスリートたちの視覚機能向上を手がけてきた、社員数わずか2人の零細企業だ。

 低迷期に入ったコステレツキー選手はビジョナップの存在を知り、自ら連絡をとり、2014年から同社製品を使用し視覚機能の改善に取り組み始めた。

 するとその効果は覿面に現れ、2015年には3月と5月に行われた射撃世界選手権で連覇に成功すると、翌2016年のリオ五輪では4位入賞を果たすなど、40歳を過ぎて再びトップ選手の仲間入りを果たしたというわけだ。

 実はビジョナップの恩恵を受けているアスリートは、コステレツキー選手だけではない。東京五輪だけでも、野球、ソフトボール、サッカー、バレーボール、卓球、ホッケー、フェンシングの選手たちが同社製品を使用している(ビジョナップ発表)。

【サッカー界ではすでに有名な存在に】

 ビジョナップの存在は、すでにサッカー界では世界的に知れ渡り始めている。

 すでに日本のサッカー専門誌でも紹介されているエピソードではあるのだが、今年開催された欧州選手権の決勝トーナメント1回戦で、スイス代表がフランス代表相手にPK戦の末勝利を飾った際、この試合でスーパーセーブを連発したGKのヤン・ゾマー選手がビジョナップ製品を使用して、トレーニングしていることが現地メディアで報道されている。

 もちろんJリーグでも、ビジョナップは確実に浸透し始めている。Jリーグでは真っ先に同社製品を導入したチームの1つ、コンサドーレ札幌の赤池保幸GKコーチは、以下のようにビジョナップ製品を使用することになった経緯を説明してくれた。

 「ブレ球に対する対応が難しいということで、何かいいアプローチがないかなと考えていた時に、何かの記事で仙台の石野GKコーチがビジョナップさんのトレーニング用メガネを使っていたのを思い出し、石野GKコーチに直接確認したのがきっかけでした。

 まず自分で購入し、自分で試してみたところ、これはいいなというのを実感できたので、クラブに相談して追加注文し、正式にGKのトレーニングメニューに加えました」

 現役を退き視覚機能が低下しているのを感じていた赤池コーチだったが、ビジョナップ製品を試したところ、すぐにボールの見え方に変化が起こったという。これは現役選手にも有効だと考え、2017年からビジョナップ製品を使用したメニューを続けている。

【赤池コーチ「ほとんどの球技で効果が期待できる」】

 実際にトレーニングメニューに組み込んでから、選手たちはどのように変化していったのか、その辺りも赤池コーチに確認してみた。

 「見え方の部分で(選手たち自身が)分かるような変化は少ないと思いますが、サッカー選手は回りをしっかり見て、状況を把握して、それから決断してプレーすることの繰り返しです。

 回りを見る力もそうですし、ボールを見る力もそうですし、特に私のチームはGKが攻撃に関わる機会が多いので、遠いところも見て、そこにボールを繋げたりしなければいけない機会がたくさんあるので、周辺視という面でも改善が見られるなと僕は感じています。

 ただ見るのではなくて観察するということがいい判断に繋がるので、見たものをしっかり脳に送って、それを脳が判断を下してプレーしていくというサイクルがスムーズにいくというイメージが僕の中にあります」

 現在は週1回のトレーニングの他、試合前のアップでビジョナップ製品を使い、選手たちの脳を活性化させるとともに、集中力を高めるように取り組みを続けているという。

 また最近ではトップチームばかりでなくアカデミーでもビジョナップ製品を導入し、ジュニア選手の視覚機能向上にも取り組んでいるようだ。

 現時点ではサッカー界では主にGKのトレーニングにビジョナップ製品が使用されているが、赤池コーチによればフィールド選手にも有効で、サッカーに止まらず「ほとんどの球技に有効ではないでしょうか」と話してくれた。

 まだまだビジョナップの存在がスポーツ界全体に浸透しているわけではない。だがコステレツキー選手や赤池コーチのように、ビジョナップを信頼する人たちが着実に増えていっているのは確かだ。

 いつの日かビジョナップが視覚機能の分野で、スポーツ界に革命を起こす日が来るかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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