匿名化機能付きルーターの顛末について
片山祐輔事件でも有名になったインターネット上の匿名性を実現するソフトウェアTor(トーア)ですが、そのTorの機能をルーター上で実装したanonaboxという製品がKickstarter上で出品され、60万ドル以上の出資を集めたのが、ちょっと話題になってました。
別にハードを買うまでもなく無料のソフトウェアをインストールすればTorの機能は使えるわけですが、ルーターに内蔵されていればターンキーですぐ使えるのと、パソコン以外のハードでも使える点がメリットなのでしょう。
当然ながら大人気になったわけですが「これって中国で売っているルーターと同じハードではないか」という突っ込みが入り、現在プロジェクトはサスペンド状態(実質的にはキャンセル)になっています(Kickstarterはプロジェクトのゴーサインが出るまでは実際の支払は行なわれませんので、これによって出資者が金をだまし取られることはありません)(参照記事(英文))。
なお、中国で売ってるのと同じものを再販してるだけというように読める書き方をしているニュース記事もありますが、正確に言うと、ありものの中国製ホワイトボックスのハードウェアに独自のファームを搭載していただけなのにハードも独自開発であると主張していた点がKickstarterの規約に触れ問題とされたようです。ありもののハードを使うだけなら問題ないでしょう(でなければマザーボードまで自分で開発しなければいけなくなってしまいます)。さらに言うと、元々のファームを勝手に書き換えて実装しているのだとすると著作権上の問題があるかもしれません。
この顛末がどうなるかは別として、Tor内蔵ルーター自体は作ろうと思えばすぐ作れてしまうでしょう。この種の匿名化テクノロジーの普及が今後社会にどういう影響を与えるかは興味深いものがあります。真の匿名化が実現されれば、表現の自由という点では喜ばしいですが、犯罪やテロ活動の防止という点では大問題で悩ましいところです。法律でこの種の製品の製造・販売を禁止するとしても、結局反社会的勢力だけが匿名化テクノロジーにアクセスできてしまう状況が生じます。
また、バックドアーの問題もあります。Torのテクノロジーとしての脆弱性は別として、ソフトウェアの実装にバックドアーが仕込まれていて特定の組織や当局に盗聴されないという保証はありません(こういう過去においては「隠謀論」的だった話もスノーデン事件以降は現実味を帯びてきました)。
ところで、ちょっと前に同じくKickstarterに出品されたにもかかわらず出荷が遅れた炎上騒ぎになった指輪型ウェアラブルのRINGですが(参照記事)、一応出荷開始されたようですね、twitterでも届いた報告や使用報告が見られるようです。
現物は当初のコンセプトデザインよりも分厚いですし、機能も限定的(特定のスマホとペアリングする必要あり?)なようですが、そもそもKickstarterの意義が人柱募集ということなので、これはしょうがないと言えましょう。