障がい者スポーツの光になる? ブラインドサッカーの事業モデル
2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催決定、昨年度から障がい者スポーツの管轄が厚生労働省から文部科学省に移るなど、障がい者スポーツを取り巻く環境は大きく変化した。
とくに夏季パラリンピック競技の注目度は急速に高まり、競技を統括する団体は、その変化に戸惑うことも多いという。それ以外の競技団体ではスポットライトが当たりにくいケースがあり、障がい者スポーツ全体の競技性も高まる中で取り残されまいと必死だ。
しかしながら、各競技団体の独自財源は乏しく、事務局が関係者の住居ということも珍しくない。定職を持ちながらボランティアで運営に関わる事務局長もおり、慢性的な人手不足という話も聞く。日々取材する中で、急激に増えた外部からの問い合わせに右往左往している関係者の悩みも耳にしている。
認知度急上昇のパラリンピック競技!
そんな競技団体の中で、常勤スタッフを中心に社会人・学生問わずインターンを抱え、盤石な組織を作っている稀有な競技団体がある。年間430件に上る一般の小学生向け体験型出前授業“スポ育”などの事業を積極的に展開する日本ブラインドサッカー協会だ。昨年11月に同協会が主催したIBSAブラインドサッカー世界選手権は、渋谷区という都心の会場設営、障がい者スポーツでは稀な有料チケットによる観客動員(開幕戦と決勝戦の2試合は完売、満員御礼!)、そして過去最高の6位だった日本代表の活躍もあり、スポーツ関係者から熱い視線を浴びた。
15日、都内で開催されたスポーツ業界対象のセミナー「認知度急上昇! ブラインドサッカーが目指す事業型非営利スポーツ組織とは?」(株式会社RIGHT STUFF主催)には、日本ブラインドサッカー協会事務局長である松崎英吾氏の話を聞こうと約60人が集まった。会場には障がい者スポーツ関係者の顔も目立った。
健常者に向けた事業を展開する理由
同協会は、『障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現すること』をビジョンに掲げている。
セミナーの中で松崎氏は、「他のスポーツを見ても、パラリンピックで金メダルを獲った後、競技者が増えたり、障がいの理解につながったりしていない」と指摘。「脆弱だといわれる障がい者スポーツの競技団体は、国など公的な機関の強化費に頼らざるを得ない。そうして強化に依存してばかりいると、多くの人にとって障がい者スポーツはどこか向こう側の出来事として認識され、障がい者理解の機会を失う。結果として悪循環を生むのではないか」という仮説をもとに、ブラインドサッカーという障がい者と健常者が一緒にプレーできるユニバーサルスポーツで、両者が混ざり合い学びを深めるプログラムを構築した経緯を熱弁。独自財源を開拓してきた事業展開を紹介した。
NPO法人日本視覚障害者柔道連盟で理事を務める初瀬勇輔さんは、「世界選手権を日本で開催し、あれだけの人を集めた。最近のブラインドサッカーの躍進はすごい。自分たちの組織運営のヒントを探したくて参加した」と言い、「学べることがたくさんあったが、ビジョンを持つことが一番大事」と実感したようだ。
茨城県立医療大学理学療法学科准教授の橘香織さんは「大学で車いすスポーツの普及を目的としたプログラムを作ったが、事業化の壁を感じていたところだった。ブラインドサッカーの事業モデルを聞いて勇気づけられた」とコメント。車椅子バスケットボール女子日本代表のヘッドコーチとしても「プログラムを通じて、いつか代表につながるような子どもたちの発掘をしていきたい」と先を見据えた。
2020年以降を見て・・・
日本のパラスポーツを取り巻く環境の中には、さまざまな競技団体が存在する。競技団体を上手く運営していくカギは、きっと競技団体の中にあるはずだ。独自財源を確保することができた日本ブラインドサッカー協会の手法には、脆弱な競技団体が組織としての土台を構築し、競技力向上へとつなげるためのヒントが隠されているかもしれない。このモデルが必ずしもうまくいくとは限らないが、東京オリンピック・パラリンピックにおける成功はもちろん、2020年以降も持続可能な運営が競技団体には求められる。そのために、各競技団体は連携を強め、それぞれの弱点を補うヒントを互いに学び合っていく必要があるだろう。