作詞曲を発表も「この曲は歌えない」。日本ボクシング連盟・山根明前会長の今
“奈良判定”が2018年の「ユーキャン新語・流行語大賞」のノミネート30語に入るなど広く注目を集めた日本ボクシング連盟・山根明前会長(80)の辞任劇。騒動から約2年が経ちましたが、これまでの思いを歌詞に込めた曲「男山根が風を切る」を5月10日に発表しました。今なぜ曲を出すのか。今、何をしているのか。そして、今の思いは?山根前会長の“今”に迫りました。
生き様を歌詞に
これはホンマに正直な思いですけど、騒動に関して、今もやりきれない思いはあります。そんなことをね、一つ一つあれやこれや言うなんてことはしませんけど、そんな経験をしたおかげで得た思いというか、感じたこと。それはたくさん生まれました。
沸き上がってきたら書きとめ、また書きとめ…。そんな感じで、去年の春ごろからですかね、言葉を残してきたんです。
それをね、もう30年以上付き合いのある音楽をされている友人がいるんですけど、その方の手助けで「曲にしないか」という流れになりまして。音楽をつけていただき、曲として出来上がったのが去年の12月でした。
本当はね、僕が歌うという予定で、ずっと練習もしていたんです。僕も下手の横好きでね(笑)、歌うのは嫌いじゃないから。普段は吉幾三、フランク永井、石原裕次郎の曲を歌うんですけど…、自分が作詞した曲は、歌えませんね。あまりにも感情を込めすぎて、声が詰まってしまうんです。
だから、作曲してくれた友人に歌ってもらい、僕は作詞だけになりました。でもね、逆に言うと、それだけ自分が思ったこと、感じたことが詰まっている。「何を大事に生きてきたか」というホンマの思いが全部入ってます。
「男山根が風を切る」というタイトルは、その友人がつけてくれました。「歌詞の終盤にある“振り向きざまに風を切る”という部分に特に会長の生き様が表れている」と言ってくださって、そこを取る形で決まりました。
新型コロナ禍
ただね、曲を出す時期は悩みました。これは、ものすごく考えました。コロナがなかったら、3月にはCDを出す流れだったんです。
でもね、これって、うれしいことなんです。言うたら、めでたいことなんです。自分が思っていることを歌詞にして曲を出す。そして、皆さんに聞いていただく。浮かれてるいうんやないけど、晴れやかなことにはなる。
コロナで命が奪われたり、人が苦しんだり、仕事がなくなっている。そんな中、自分のめでたいことを出す。それはエエことなんか。苦しんでる人がいる時に、わざわざそんなことをするのは違う。そう思って、3月からずっと様子を見てきたんです。今も、基本的にその考えは変わりません。
ただね、あまりにもみんながふさぎ込んだ時間が続いてしまっている。元気がなくなってしまっている人もたくさんいる。僕は作詞なんて素人やし、僕が作った歌で人が喜んでくれるのかも分かりません。せやけど、もし、自分の思いを込めたこの歌を聞いて、どんな形ででも元気が出る人がいてくださるんやったら、そうした方がいい。そう思ったんです。
大々的に発表することはしないけど、5月10日から連絡をくださった方にはCDを発売はする。そして、YouTubeと言うんですかね、アレで曲も流す。とにかく門だけ開けておくというか、欲しい人はどうぞという形でね。それはやろうと思ったんです。
「神さまは見てくださっている」
今回の歌に込めた思いもそうですし、僕が80年生きてきて一番大事やと思う言葉。それは“真実”です。やっぱり人間はね、まじめに真っすぐ。それが一番大事です。正真正銘、そう思います。
いろいろありましたけど、僕ね、お金はないですよ。でも、道を歩いていたら「山根会長、頑張ってください!」とたくさんの人から言ってもらえます。これは最高の幸せです。この幸せがあるということは、これまでの生き方が間違ってなかったのかなと思っています。
これはね、僕が昔からよく言うてた言葉なんですけど「神さまは見てくださっている」。
だからこそ、皆さんからそういう声をいただいたら、幸せやと思う一方、必ずその場で「これはホンマにありがたいことや。絶対にうぬぼれたらアカン」と気を引き締めてます。エエ気になったり、当たり前と思ったら、それこそ罰が当たります。
今は何をしているかというと、一つはね、騒動になってた当時、喫茶店とか取材などでご迷惑をかけたお店が数軒あるので、朝起きたら順番にそこをまわっています。
当初、1年はまわろうと思ってたんですけど、もう2年近くになります。というのは、行くのが当たり前みたいになって、行かないと「来て!」と電話がかかってきますので(笑)、今もずっと続いてるんです。
あと「週刊大衆」で人生相談を始めました。あれはね、僕自身も非常にやりがいを感じています。
わざわざ双葉社の上層部の方が大阪まで来ていただき「山根会長に人生相談をやってもらいたい」と言ってくださった。咄嗟に「これは、僕の十八番ですわ」と言いました。自分でもびっくりして「うわ、なんでこんなことを言ったんや…」と思いましたけど(笑)、でも、心の中で「これは今の自分に合ってる」という感覚があったんです。
実際、80年で経験してきたことを出せる場になってると思いますし、これがもっと若い頃やったらできてない。今、このタイミングで、そして、いろいろなことがあったからこそ、できてるんやと思ってます。
咄嗟に出た言葉で言うと、もう一つはね、2018年8月、辞任時に開いた会見。その冒頭で「私は、歴史に生まれた歴史の男です」と言いました。テレビでも何回もそこが使われてましたけど、それも急に出た言葉で「オレ、なんでそんなこと言ったんやろ」という感じやったんです。さっきの「十八番」もだし、先に言葉が出るんですね。でも、今考えても、その言葉に納得はしています。
後ろ暗いことはしていないし、一つ一つ階段を上るように仕事をやってきた。そういう積み重ねが「歴史の男」という表現になったんやと思います。そして今、80歳で人さまの人生相談をさせてもらっている。全ての流れが本当にありがたいことやと感謝しています。
(携帯電話が鳴る)…あ、ちょっとすみません。(通話を終え)これね、時々言われるんですよ。「『ゴッドファーザー』が好きやから、わざわざ取材の時にアピールしようと思って鳴るように仕込んでるんじゃないか?」と。会見でもたびたび鳴ったりするんですけど、あのね、そんなことはホンマにないんです。もちろん、全くの偶然です。それこそ、それが“真実”です(笑)。
(撮影・中西正男)
■山根明(やまね・あきら)
1939年10月12日生まれ。91年に日本ボクシング連盟理事となり、様々な役職を担当。2011年から日本ボクシング連盟会長を務める。18年に辞任するが、辞任に至るまで連日ワイドショーなどで疑惑報道が噴出し大きな注目を集めた。19年には著書「男山根『無冠の帝王』半生記」を上梓。雑誌「週刊大衆」で連載「山根明元会長のノックアウト人生相談」も担当している。また、自らの思いを歌詞に込めた曲「男山根が風を切る」を5月10日からリリース。YouTubeチャンネル「男山根ch」でも曲を聞くことができる。