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データで見る欧州クラブ(1)。最強はバルサ。大没落はミラン

杉山茂樹スポーツライター

名称がチャンピオンズカップからCLに変わって今季で24シーズン目。その間、2連覇を飾ったクラブはない。主役は毎シーズン、目まぐるしく交代している。70年代のアヤックス、バイエルン。88~90に連覇したミランのような、一時代を築いたクラブはない。

欧州クラブサッカーは混沌とした状態が続く。CL24年の履歴はそう語るが、別の物差しをあてがえば、クリアに浮かび上がるものもある。

過去5シーズン、各クラブがCL、ヨーロッパリーグ(EL)で残した戦績をもとに弾き出した数字を順位化した欧州クラブランキング。CLがスタートした93年から現在に至る24年間の、各年トップ10を記したのが次の表だ。

UEFAクラブランキング1993−2016(※印はタイ)
UEFAクラブランキング1993−2016(※印はタイ)

この表をパッと眺めてわかるのは、CLとは異なり、1位の座を複数年維持したクラブがあることだ。時代を築いたクラブの存在が明らかになる。

R・マドリード→ユベントス→R・マドリード→ミラン→バルセロナ→R・マドリード。このように時代が推移したことがわかる。

一つの時代を最も長く維持したのは、01年~05年のR・マドリード。銀河系軍団と呼ばれた時代だが、ポイント獲得の源となるCLで、R・マドリードが強さを発揮したのは、97~98シーズンから01~02シーズンまでの5年間だ。その間、1年おきに3回欧州一に輝いている。

ここにこのランキングの特徴がある。過去5年の成績を集計したものなので、2、3年のタイムラグがつきまとう。表の流れは、実際より遅めになるので、いまこの瞬間の姿は見えにくい。現在のCLの成績を見た方が早い。

「欧州のビッグクラブ」あるいは「欧州の強豪クラブ」とは、よく使われる言い回しだが、それは概念的で抽象的だ。その「ビッグ」や「強豪」のベースとなる成績をデータで示したのがこの表だと言っていい。ビッグや強豪の意味が具体的な姿として浮かび上がる。

各年トップ10に入った回数の多い上位10クラブは、以下のとおり。

1)バルサ=24回 2)R・マドリード=20回 3)バイエルン=17回 4)マンU=17回 5)アーセナル=15回 6)ミラン=14回 7)ユベントス=13回 8)インテル=13回 9)ポルト=11回 10)チェルシー=10回

(同じ回数の場合は、平均順位で勝る方を上位とした。ちなみに次点の11位はバレンシア、12位はリバプール)

1位にランクされた年が一番多いのはR・マドリードだ。現時点(15~16シーズン、11月23日現在)を含めて計11回。ライバルクラブのバルセロナ(4回)に大きく勝っている。R・マドリード強し、と言いたいところだが、視点を変えれば違った姿も見えてくる。

それがトップ10入りした回数だ。バルサは今季も含めた24年間、常時その中にランクされている。最も悪い99年でさえ9位。これに対してR・マドリードは、24年間でランク外(11位以降)が4回。平均順位でもバルサが2.96位なのに対し、R・マドリードは5.16位となる。

ちなみに、この24年間のCL優勝回数はそれぞれ各4回。つまり、強い時は強いけれど、波が大きいのがR・マドリードで、優勝を逃しても高位で安定しているのがバルサとなる。

R・マドリード11回。バルサ4回。両クラブが1位を獲得した年は、24年間で合わせて15回に及ぶ。全体のほぼ3分の2。スペインの2大クラブとはよく言われるが、欧州の2大クラブ、欧州サッカーの主役と言ってもオーバーではない。

両クラブを脅かしそうな存在は、今季、バルサ、R・マドリードとともに3強を形成するバイエルンだが、今後、どれほど高位に安定できるか。時代を築くに至るのか。

ちなみに、バイエルンの過去24年間の平均順位は7.6位。7年間、トップ10圏外にいたことが平均値を下げる原因になっている。また、トップ10入りした数では、バイエルンと同数ながら、平均順位で下回り4番手にランクされるマンUは、今まさに圏外(現在19位)に飛び出した状態にある。

それをさらにひどくしたのがミラン(現在23位)。昨季も今季も加算ポイントはほとんどないので、ここからさらに大幅に順位を下げることは必至。24年間のトップ10クラブの中で今、最も状態が悪いクラブだ。

繰り返すが、そうした落ち込みが一度もないのがバルサ。世界の最前線に常に身を置いている。平均順位2.96は、CLの成績に置き換えればベスト4。また、年間順位の最低が9位ということは、悪くてもほぼベスト8は外さないことを意味する。

波の大きなその他クラブと、バルサとの違いは何か。スペイン人のベテラン記者は、R・マドリードとの決定的な違いをこう述べている。

「歴史的に、監督中心のサッカー、監督にこだわるサッカーをしてきたのがバルサ。選手中心のサッカー、選手の名前にこだわるサッカーをしてきたのがR・マドリードだ」

間違った監督を連れてこなければ、大崩れは避けられる。あるレベルは維持できる。アテになるのは確かな監督。優秀と言われる選手をかき集めても、使い方を間違えば結果は得られない――。実際、バルサが追い求めているサッカーは、CLが始まった93年当時となんら変わらない。普遍性、一貫性、継続性という点で、バルサは他のクラブに大きく水をあけている。

安定感という点で、少しバルサに類似しているのがベンゲル率いるアーセナルだ。年間トップ3に入ったことはないが、02年にトップ10入りしてから現在まで、圏内をずっと維持している。トップ10通算年数でも第5位と健闘。その間、監督交代を行なわず、ベンゲルという一人の監督で乗り切ってきたメリットを思わずにはいられない。

ただ、近年の戦いはやや下降気味。監督交代はあるのか。その結果、02年から積み上げてきたものは崩れてしまうのか。この表を眺めていて、いま一番気になるクラブはアーセナルになる。

次号に続く。

(Web Sportiva 11月26日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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