籠池氏 法廷で元特捜検事と対峙。弁護士は「そんなに近畿財務局のこと聞かれるの嫌なんですかね?」
大阪地方裁判所2階の201号法廷。大阪地裁で一番大きい法廷だ。きょう29日午前10時30分。森友学園の元理事長、籠池泰典さんと妻の諄子さんの夫妻が入廷してきた。きょうは夫妻の補助金事件の2回目の公判だ。
被告席に座った籠池さん。向かい側の検察席の中央に座った主任検事の姿を見て、にっこりと満面の笑顔で笑いかけた。すると、厳つい顔つきの主任検事が腕組みをしたままニヤっと笑った。笑顔の応酬。2人は旧知の間柄なのだ。
だって主任の堀木博司検事は、この3月まで大阪地検特捜部にいて、籠池さんの自宅にガサ(捜索)に行き、籠池さんの逮捕から追起訴まで約40日間、取り調べを担当した元特捜検事だ。2人の対決物語が再び幕を切った。
元特捜エースを公判に投入した検察
被疑者の取り調べを担当した検事が公判も担当するというのは、大阪のような大きな地検では珍しい。だが堀木検事はこの4月の定期人事で、特捜部から公判部の特別公判(重要裁判を担当)に異動し、3月に初公判が終わった籠池裁判を、2回目から担当することになった。
一説には、大阪地検トップの北川健太郎検事正の直々の意向が働いたという。特捜部で籠池さんの取り調べにあたったというのはエース検事の証。検察内の評判も「あいつにやらせるしかない」と評価は高い。特捜部のエース検事を投入したというのは、検察がいかにこの公判に力を入れているかを示す。
特捜検事は取り調べで国有地のことを聞きたがった
堀木検事の取り調べについて籠池さんは初公判を前にした私のインタビューで次のように話していた。
「奥さんの方も何かいろいろ話したそうな雰囲気なんだけど、あなたの方もそろそろ言った方がいいんじゃないか」ですとか、妻が言ってもいないことを使ってしゃべらせようとする。
「以前逮捕したある会社の社長は『取り調べにウンと言ったらすぐ出られる』と言ったら認めてすぐに出ることができた。籠池さんも早く認めて出た方がいいよ」と言ってきたこともあったね。
録画を切ると恫喝するようなことを言ってくる。「いま私は籠池さんと言っている。これは穏やかにしてるんや」というような言い方ですね。
一番聞きたがっていたのは安倍昭恵夫人のことやね。「昭恵夫人とはどういう関係で知り合ったのかな?いつごろどこで、どういう雰囲気で?」という具合にね。
補助金の事件で逮捕されたけど、補助金についての取り調べの中にちょこちょこ、国有地の話が出てくるんですよ。「ところでこれ(=補助金詐欺)とは全然関係ないんだけど」という感じで国有地の件を聞いてくる。最後に追起訴されて補助金事件の取り調べもこれで終わりという日に、「ところで籠池さん、もう明日からは私たちが事情聴取するということは強制的にはないんだけど、国有地の問題についてね、事情聴取させてもらうということで、協力してもらえるかな?」と言ってきた。実際、その翌日に拘置所に来たけど「もう会う必要はない」と言って断った。
◇ ◇ ◇
公判の主任検事が堀木さんに変わったことを告げると、籠池さんはニヤっと笑って言った。「堀木さんは結局私をよう落とさなかった(供述させられなかった)からねえ」
そして冒頭の法廷でのご対面となった。追起訴から1年8か月ぶりの再会である。
弁護士の尋問に検事が「異議」連発
きょうの裁判は検察側の証人尋問。トップバッターは大阪府私学課の総括主査。森友学園の小学校の認可申請に対応した。
検察側の主尋問が終わると、被告弁護人による反対尋問。籠池さんの弁護人、水谷恭史弁護士は以下の事実を証言として引き出した。
●大阪府が認可基準を見直したため森友学園が小学校の認可申請をできるようになった。
●新基準によって小学校の認可申請をしたのは森友学園しかない。
●それでも資金計画に問題があり、このままでは森友学園の小学校は認可基準を満たさないと主査が認識していた。
●元大阪府議会議員から総務部長を通して私学課長に要請があった。
●認可に関するコンサルタント会社が間に入ってから私学課がほしい資料が適切に出るようになった。
弁護側の尋問中、検事がたびたび立ち上がって「異議あり!」と質問を遮ったが、多くの場合、裁判長は質問を認めた。
近畿財務局の関与を浮き彫りにした秋田真志弁護士
籠池さんの主任弁護人、秋田真志弁護士は、大阪で名うての刑事弁護士だ。途中から水谷弁護士に替わって、近畿財務局の問題を追及し始めた。通常の認可申請の案件とは異なり、私学課が近畿財務局と関わりながら認可申請手続きが進んでいる。どう関わったのか?ここで堀木検事が立ち上がった。
「異議あり。この事件にどこが関係ありますか?」
「近畿財務局がどう関わったのか反対尋問で聞くのは当然だ」
ここで裁判長は質問の扱いについて3人の裁判官で合議するため審理を一時中断した。すかさず秋田弁護士が法廷中に聞こえる声で一言。
「そんなに近畿財務局のこと聞かれるの嫌なんですかね?」
きっつい嫌味に、籠池夫妻も弁護団も笑顔を浮かべた。一方、検察側の3人はいかにも苦々しい表情。
合議の結果、裁判長の判断は「事件への関連性を認め、異議は棄却します」
こうして秋田弁護士の質問は続く。近畿財務局と大阪府私学課が情報交換しながら進めたのは、これまでにないこと。いつ始まったのか検察側の調書に記載がない。近畿財務局の誰と話していたのかも記載がない。検察はそもそも主査に聞いていない。さらに主査は「国有地の件は平成26年度中に決めたいというのが近畿財務局の意向だと、やり取りの中で感じた」と証言した。秋田弁護士は、近畿財務局が小学校の認可に深く関わっていたことを法廷で明らかにした。
補助金は籠池さんと話すことなく出ていた
午後、校舎の木造化に対する補助金を出した社団法人の担当者の証人尋問も見所があった。籠池夫妻はこの補助金も不正に申請してだまし取ったとされている。しかし秋田弁護士の追及に対し、法人の担当者は、補助金の申請はすべて小学校の設計業者によって行われ、やり取りもすべて設計業者、現地確認でも設計業者が立ち会い、籠池夫妻とは一度も話したことがなく会ったこともないと証言したのだ。
では、設計業者と籠池夫妻はやり取りをしていたのか?証人は当初「あったと思います」と証言した。これに秋田弁護士が「端的にYESかNOかで答えてください」と求めると、堀木検事が立ち上がって「異議あり。端的に答えています」。ところが裁判長は「端的ではありません」と瞬時に退けた。秋田弁護士は証人から「確認はとっておりません」という証言を引き出した。
これは、この補助金について籠池さんが「設計業者が主導してやったこと」と話していることと符合する内容だ。
籠池さん「ほほ笑み外交」堀木検事「見たまま」
法廷が終わった後、籠池さんは印象を次のように語った。
「認可申請に関わった近畿財務局の職員の名前を検事が聞いていないって、おかしいよね。安倍首相を守るのに必死だったことがよくわかる」
「冒頭で堀木さんに笑いかけましたよね」
「あれはほほ笑み外交。宮本武蔵の兵法で言うところの『頭を抑える』ということですよ」
一方の堀木検事。裁判所を出たところで話しかけた。
「堀木さん」
「(じろっと見て)何もしゃべらんよ」
「籠池さんと笑顔を交わしていましたね」
「見たままだから…」
ここで一句、そして次の公判へ
そして恒例。籠池さんの「ここで一句」。きょうも一句では済みません。
「近し夏 まなじり開ける 弁護団」
「行く春や 勝ちどき上がる 時近し」
次回の公判はあさって5月31日、午前10時から。今回の証言で焦点となった「設計業者」の社長の証人尋問が行われる。