口下手でも伝わる「話し方」の極意(前半)
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今回のゲストはTORiX株式会社 代表取締役の高橋浩一さんです。2023年の2月15日に発売された新書『「口ベタ」でもなぜか伝わる 東大の話し方』では、もともと対人恐怖症だった高橋さんが、東大で身につけた話し方の極意を紹介しています。本の内容に触れながら、「相手の脳ミソに逆らわず、相手が動く理由をつくるにはどうしたらいいのか?」というテーマで対談します。
<ポイント>
・相手の地雷を踏んではいけない
・相手を3つのタイプに分類する
・タイプはシュチュエーションによって変わる
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■対人恐怖症を克服できた出来事は?
倉重:今回は3回目のご登場となる高橋浩一さんにお越しいただいています。これまで「無敗営業」や「人を動かす話し方」というテーマで対談をさせていただきました。3回目になりますが、自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。
高橋:TORiX 株式会社を経営している代表取締役高橋浩一です。新卒でコンサルティングの会社に入り、2年半ぐらい働いてから人材のベンチャー企業を立ち上げました。創業役員の1人として、営業の強い組織づくりに力を入れてきたノウハウをまとめて、2019年に『無敗営業』という本を出版したのですが、大きな反響を頂き、その後何冊かの本の出版や講演などにつながっています。
倉重:営 業パーソン向けのオンラインサロンも主催されており、今では営業の神様のような存在ですが、もともとは人前で話すことが苦手だったのですよね?
高橋:苦手というより「自分が何か言って気を悪くされたらどうしよう」と考えて怖くなってしまうタイプなのです。自分から人に話しかけることが怖かったので、「このまま大人になったらどうしよう」と心配になっていました。
倉重:いつ頃その状況が変わったのでしょうか?
高橋:きっかけは高校2年生のときにバイトで飛び込み営業をしたことです。
学校のクラスメイトは知っている人だし、何か失敗すると翌日会ったときに気まずくなります。でも飛び込み営業で断られたら、リセットしてまた次へいけますから、学校の友達と話すことに比べたら苦ではありませんでした。
倉重:ちなみに飛び込み営業では何を売っていたのですか?
高橋:英会話学校のポスターをお店に許可をもらって貼っていました。1枚貼るごとに報酬がもらえる成果給だったので、自分なりに試行錯誤したのです。
倉重:そこで営業の下積みをして、大学の時はコールセンターでテレアポをされていたのですよね。
高橋:テレアポのアルバイトのときは、壁に貼ってある営業成績を見て、1位の人の隣の席に座って、電話をかけるふりをしながら話を聞いていました。
午後になったら席を移動して、その人のまねをして電話をかけてみるのです。翌日は2位の人の近くに座って同じことをします。それを繰り返しているうちに、上位の人のスキルが似ていることに気づきました。
倉重:営業成績の良い人の共通点に気づいたのですね。
今回新たに『「口ベタ」でもなぜか伝わる東大の話し方』という本を出されました。営業に限らず、誰かにお願い事をして動いてもらうことはとても重要です。そのためには、押さえるべきポイントがあるということですね。
高橋:話し方というのは、「こう言えば必ず人が動いてくれる」というほど単純でもありません。そもそも「人と話をするのが怖い」という苦手意識がある方も多いと思うのです。この本では「入り口はこのように考えたらいい」ということをなるべく分かりやすく伝えています。
僕はよくレシピに例えるのです。料理を勉強し始めたときはレシピを見ながら作りますが、繰り返し作るうちに、何も見なくてもできるようになります。コミュニケーションでも、そのような「基本のレシピ」があったらいいなと思いました。
倉重:本の中には不登校経験者の若者に就職活動のアドバイスをされたエピソードがありますよね。「彼らを見た瞬間に昔の自分と重なり、アドバイスする内容をがらっと変えた」と書いてありました。
高橋:講演会場に行くと、参加者がそれぞれべったり汗をかいているのを感じて、胸がつまる想いでした。話すのが苦手な人は、胸や脇の下にすごく汗をかきます。緊張しないようにと思うほど、全身の温度が上がってパニックになってしまうのです。そんな心情が手にとるようにわかりました。
先ほど高校のときに飛び込み営業のアルバイトをしたと言いましたが、いきなり話すのが得意にはなったわけではありません。就職活動の時にも、話すことには苦手意識がありました。面接官の人と話していると、緊張してワイシャツの胸のあたりにじわっと汗をかいてしまうのです。それを相手に見られたと感じると、もう頭が真っ白になって何も入ってこなくなりました。
倉重:相手に緊張したことを悟られると、余計に萎縮してしまうのですね。
高橋:そういうかつての自分のような学生たちと会ったので、用意してきた進行を大幅に修正して、私の子供時代の話をしました。話し方についてレクチャーした後、一緒に面接の練習をしたのですが、彼らの笑顔を見たときほど「話し方のしくみ」を身につけていてよかったと思うことはありません。
「話すことに苦手意識がある人たちの役に立ちたい」という想いがあって、この本を書きました。
倉重:話し方も天性の才能ではなく、仕組みがきちんとあるということですね。その辺を伺っていきたいと思います。ご著書では「相手の脳みそに逆らうな」というところから始まりますね。ここから解説していただけますか?
高橋:よく「地雷を踏む」という表現がありますよね。地雷を踏むというのはちょっとした一言によって相手の気分を害してしまったり、よかれと思って言ったことなのに相手が「動かない理由」をつくってしまったりすることです。こういうことは、営業の支援をしているとたくさん起こります。
例えばスタートアップ、ベンチャーの会社が、すごく画期的でこれまでにないサービスを作って大企業へ営業に行ったとします。
大企業は実績を重んじる傾向がありますから、営業の人が「これはまだ世の中にない、どこも使っていないものです」という言葉で目新しさをアピールすると、企業側にガードが発生してしまうのです。
倉重:「まだどこも使っていないなら怖いな」と気持ちが引いてしまうのですね。
高橋:その通りです。どんなにいいサービスだったとしても、受け取る側の心にガードができてしまったら、話は通りづらいですよね。
僕が営業の方々のご相談などに乗っていると「こんなにいいサービスなのに相手の会社の人に全然分かってもらえない」と言われます。
もっと入り口のところで、相手が受け入れやすい話し方をするべきなのです。
例えば、「サービスの開発は○○大学の教授に手伝ってもらっているんです」と話せば、「そんなに著名な先生なら」と相手は安心して聞いてくれるかもしれません。そういうポイントを知らないと、気が付かない間に地雷を踏んでしまいます。
倉重:「相手のタイプを見極めて、地雷を踏まないようにして伝える」ということですね。そもそも相手のタイプを見極めるのは難しいのではないですか?
高橋:僕がこの本を届けたい方々というのは、基本的にコミュニケーションに苦手意識のある方たちです。そういう人たちにとっては、やはり何か取っかかりがあったほうがいいだろうと思いました。
「この人は理屈を大事にするからロジカルに説明したほうがいいな」とか、「すごくリスクを気にする人だから、その辺をわきまえたことを伝えよう」という大まかな方向性が分かっているだけでも、コミュニケーションをとるときに安心感があります。
そこで、本では「相手のタイプを見極めて、相手が求める言葉を基本パターンにのっとって地雷を踏まないように伝える」というフレームワークをご紹介しています。
倉重:新刊には「相手のタイプを見極める」という話がありました。どのようなタイプがあるのか、ご説明いただけますか?
高橋:相手のタイプには、「論理」「感情」「政治」の3つがあります。論理タイプというのは筋道が通っているかどうかを気にする方です。自分の中に判断軸がある人なので、説得する際には理屈が大事になってきます。
感情タイプは、感覚や感情が大事な判断軸になっている人です。好きか嫌いか、気に入っているかどうか。「言葉にならないけれどもなんか嫌」というのが感情タイプです。
政治タイプは自分で決めるのが怖くて、他の人のお勧めや流行に乗りたいというタイプです。
倉重:高橋さんは論理タイプですか?
高橋:僕は仕事の場は論理タイプなのですけれど、素は感情タイプなのです。25歳で起業をした時も、大学の先輩から声かけられて僕は15秒で「やる」と返事しました。
新卒で入社したのは外資系の会社で、人並みには給料も良いところだったのですが、「駄目だったらファミレスでバイトすればいい」と思って、誰にも相談することもなく決めました。
倉重:つまり、素が感情タイプでも、場面やシチュエーションによってタイプが変わってくるということですね。「今、目の前の人は何モードなのか」を察するために、見極め方のコツがあれば教えていただけますか?
高橋:まず、「何かを決めるときに自分の意見が強いのか?」というところを観察します。僕は仕事では論理タイプですが、素は感情タイプで、家の中では政治タイプになるのです。
服を買いに行く時にも、僕は自信がないので判断軸を持ちません。奥さんに「どう?」と意見を聞いて決めます。自分の意見がその場ではあまりなくて、他人のお勧めなどに流されれば政治タイプということになります。
その場において自分の意見があり、ロジックで考えるのが論理タイプです。好き嫌いや、なんとなくの感覚で決めるのが感情タイプということになります。
倉重:それぞれのタイプによって動く理由が違うということなのですかね。
高橋:そうです。論理タイプの人というのは自分なりの判断基準があって、正しいか正しくないか、あるいは損得を大事にします。ですからメリットや費用対効果、コスパの話が響くわけです。
携帯電話を選ぶときにも、「こういう機能がある」「カメラの画素数が高い」というスペック、あるいはリセールバリューが高いという訴求が刺さります。
論理タイプの方に効くツボの一つが一貫性です。論理タイプの方は矛盾することを嫌うので、以前自分が言ったのと違うことは口にしたくありません。
論理タイプの方には「メリット」と「一貫性」という2つのツボがあります。
倉重:そのツボを押さえて話すのが効果的ということですね。
次に感情タイプのほうを教えてください。
高橋:感情タイプのツボの一つは本音です。「ぶっちゃけ」という言葉で急に距離が縮まります。相手に本音が見えたら「この人は正直に言ってくれる」という安心感を抱きます。
営業の方でしたら「お客さまに対して失礼のないように」とかしこまっているときでも、相手の方が明らかに感情タイプのようなオーラが見えたら言葉を多少崩して、素の自分で話したほうがうまく伝わることがあります。
倉重:これは家庭でも通じる話ですよね。
高橋:うちの奥さんは感情タイプなのですが、結婚した当初はよく「それ、本当に心から思って言っているの?」と聞かれました。
例えば結婚式はどうするのか、暮らしをどうするかという決め事がいろいろありますよね。そういったときに僕はロジカルに説得しようとしていました。でも、理屈ではなく本音で話したほうがうまく事が進んだのです。
倉重:感情タイプの奥様は、「こちらのほうがコスパいい」というロジックでは動かないということですね。
高橋:感情タイプの場合は相手の正直さに対して「この人なら信用できる」と感じれば動いてくれます。このタイプは仲間意識や共感が得られる言葉に反応しやすいので「一緒にやりましょう」という一体感のある言葉も効果的です。
倉重:感情タイプのツボは本音と一体感ですね。では、政治タイプはどうですか?
高橋:政治タイプの人のツボは「みんな」です。例えば私の親は東北出身の慎み深い性格なので、常に「みんながどうしているのか」を重視します。親にそろそろガラケーからスマートフォンに変えてほしいというときも、「70歳を超えた人はみんなこっちを持っているよ」と言うと効果的なのです。自分ではあまり決めたくないし、保守的なタイプなので、「多くの人と同じである」と強調すると動いてもらいやすくなります。
もう一つのツボは「権威」です。世の中で権威のあるものやランキング対して「これならハズレはないだろう」という安心感を抱きます。
倉重:相手がどのタイプなのかによってアプローチが変わってくるわけですから、その見極めが重要になってきますね。
高橋:訳も分からず突進していっても撃沈することがありますので、まずはフラットに話しながら、相手の方が今この場で自分の意見が強いのかどうかを観察します。自分の意見があるのだったら、それはどちら寄りなのだろうと探るために質問をしてみます。
それは机の上でなくても構いません。会社で普段は一緒に仕事をしていない人たちとミーティングをして「ランチに行きましょう」となったときに、お店選びで微妙な空気が流れるときがありますよね。
そういうときに先陣を切って「ここへ行きたい」という人は、論理タイプや感情タイプです。決まったものに乗っかるのは政治タイプです。
「あそこの店だったらこの人数でも広々として個室があるから落ち着いて話せるよ」というメリットで入る人は論理タイプの傾向がありますし、「あそこのお店はとにかくうまいんだよ」と勢いで連れていく人は感情タイプが多いです。
倉重:なるほど。自分のプレゼンや商品説明ばかりしていたら相手がどんなタイプかも分かりません。まずきちんと会話をして、相手に対して心地よい角度から入りましょうということですね。本の中には「使えそうな情報をストックする」というのもありましたね。
高橋:若手の方からよく聞くのは、「うちの上司は企画を提案しても、『考えておくよ』というだけで、全然動いてくれない」というお悩みです。もし上司が論理タイプだと分かっていたら、メリットや一貫性というアプローチが効果的だと思います。
例えば「部長、この間のミーティングで『会社の方針でこれから業務のデジタル化に注力していくから、何かやらないと』とおっしゃっていましたよね。私もそれについて考えてみたんです」と切り出せば、納得してもらいやすいですよね。
論理タイプの部長を説得するのだったら、一貫性の材料を普段から集めておいたほうがいいです。
「考えとくよ」という上司の中には、自分で決めたくない政治タイプの人もいます。その上司の方に対しては、「みんながこう言っている」と示すアンケートや調査のデータ、ランキングなど、権威を表す情報を集めておいたほうが良いでしょう。
倉重:感情タイプの部長だったらどうしますか?
高橋:感情タイプの部長でしたら、本音や一体感という点から考えます。例えば上司に対して「ちょっと一緒に考えてくれませんか」「助けてくれませんか」というふうに言えるタイミングを日頃から見計らっておくということです。
倉重:「助けてください」と言われると何とかしてあげたくなる人は確かにいますからね。「このようなメリットがありますから決裁してください」では、感情タイプはなかなか応じないということですね。
(つづく)
対談協力:高橋 浩一(たかはし こういち)
TORiX株式会社 代表取締役
東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画(取締役副社長)。事業と組織を統括する立場として、創業から6年で70名までの成長を牽引。同社の上場に向けた事業基盤と組織体制を作る。
2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。これまで3万人以上の営業強化支援に携わる。
コンペ8年間無敗の経験を基に、2019年『無敗営業「3つの質問」と「4つの力」』、2020年に続編となる『無敗営業 チーム戦略』(ともに日経BP)を出版 、シリーズ累7万部突破。
2021年『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)、『気持ちよく人を動かす ~共感とロジックで合意を生み出すコミュニケーションの技術~』(クロスメディア・パブリッシング)、2022年『質問しだいで仕事がうまくいくって本当ですか? 無敗営業マンの「瞬間」問題解決法』(KADOKAWA)、2023年2月『「口ベタ」でもなぜか伝わる 東大の話し方』(ダイヤモンド社)を出版。
年間200回以上の講演や研修に登壇する傍ら、「無敗営業オンラインサロン」を主宰し、運営している。