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テレワークのマネジメント課題を解決する方法【皆川恵美×倉重公太朗】第3回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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事業と現場のマネジャー・メンバーを支援するプラットフォーム「カケアイ」は、経済産業省後援「第5回 HRテクノロジー大賞」において、サービス提供企業の最高賞 イノベーション賞を受賞しています。これまでにない事業と従業員視点でのテクノロジーであり、このサービスを利用したことにより、業績アップや、離職率の低下、管理職研修費削減という成果を発揮していること等が高く評価されました。テクノロジーによって社会を変えようとしている皆川さんに、あえて「AIには代えられない人間の仕事」について聞いてみました。

<ポイント>

・ナレッジを共有することで社会が良くなる

・良いパフォーマンスを出す人の共通点

・だまされたと思って、目の前のことに夢中になってみる

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■テクノロジーで世の中が変わっていく

倉重:会社としては、今後はかなり大きくしていこうという感じですか?

皆川:そうですね。本当にさまざまな業種・職種の方にご利用いただいていますが、将来的には、教育や医療の現場、街のラーメン屋さんでもお役に立てるようになれたら嬉しいです。飲食店にも関わりとマネジメントは存在していますから。

倉重:確かに。工場などでも可能性があるということですか?

皆川:はい、あると思います。実際に生産現場でもご活用いただいている会社があります。いろいろな関わり方の現場に広げていけると考えていますし、自分が部下とどのようなことを考えてトライしているかという関わり方のナレッジを公開したマネジャーも誰かの役に立てたら嬉しいですよね。

倉重:確かに応用範囲は広そうですね。

皆川:いろいろな人の関わり方における意識や工夫を知ることができて、ナレッジが回っていくと世の中が変わっていくと思います。

倉重:ユーザーが増えれば増えるほどナレッジもたまっていくし、tipsも共有できるものが増えていく感じですか。

皆川:はい、その通りです。

倉重:意外と製造現場のナレッジが、IT業界でも使えたりするかもしれません。業種を問わずいろいろなナレッジが共有されることは面白いですね。そういう世界になっていくと、まさにテクノロジーで世の中が変わっていくという話で、これは人間だけの力では不可能ですものね。

皆川:そうなのです。日常の活動から自然な形でデータを蓄積して、適切な形で見ることができたら、学びや気づくことも多いでしょう。テクノロジーによって、そこの精度を上げていきたいです。

倉重:ちなみに、部下の状態はどうやって測っているのですか?

皆川:部下の状態は、月に1回のサーベイや部下自身がどのような気持ちかというパルスサーベイに回答してもらっています。

倉重:アンケート的なものが毎日来るのでしょうか?

皆川:月1回のMonthly Hearingというサーベイと、1on1などの対話をしたタイミングで実施しています。 

倉重:では記憶が鮮明なうちにきちんとフィードバックをする感じですね。それはいいですね。そのうち知見もたまっていくし、「これはすごく良いミーティングだ」ということも分かります。ちなみに部下側の視点でいくと、「コロナでどのように働いていくか」「そもそもなぜうちの会社で働いているのだろう」など、いろいろ思うこともあるでしょう。良いパフォーマンスを出す人の共通点はありますか?

皆川:成果やアウトプットの水準、もしくは、プロセスにおける自分なりのこだわりのようなものが、所属する組織やチームの方向性と合っていることが一番大きいと思います。最初から合っているという意味ではなく、その方向性に向けて取り組んでいけるかという点も含めてです。

倉重:今の居場所は自分の居場所なのかと。

皆川:特に若い方は、「大学時代の同級生がこんな仕事をしている」とか、副業、転職なさまざまな情報に触れて迷うこともあると思います。「何を目指して、自分が今ここで働いているのか」を自分なりに考えながら、周りの人と対話して、どんなことなら貢献できるのかを意味付けて時間を過ごしていけると良いですよね。自分の納得感が一番大事ですし、それがパフォーマンスに繋がります。

倉重:まさに新卒で入った会社に終身で勤めなければならない社会でもないし、コロナになって以降「自分は何のために働くのだろう」と考える方が増えています。会社が向いている方向と、少なくともこれから数年の自分が向いている方向が一致していると、一番いいパフォーマンスが出るということですか。

皆川:はい。これからの「働く」を考える上でのハイパフォーマーの捉え方の一つの視点は、倉重先生のおっしゃる通り個人と組織の成長ストーリーの親和性になるかと思っています。

倉重:それは本当にそうなのでしょう。いろいろ試してみるしかないですよね。

皆川:そうですよね。企業も個人も変わりますので。

倉重:今パフォーマンスを出していないのはその人が悪いという話ではなくて、その組織が合っていないだけ、という話で、活躍できる場は他にあるかもしれないですからね。

皆川:私は20代のとき3社で働き、独立して法人は作りましたが、実態はフリーランスとしての活動を10年ほどしました。今はもう一回チームに戻ってきた感覚なんですね。社会人の最初の3年は、先輩や組織の方針についていくのに必死だった時期もありましたが、きちんと瞬間・瞬間に真摯に向き合っていたら、自動的に自分の答えは出る気はしています。

倉重:自分の向いているものに出会えると、自ずから方向性は決まりますね。

皆川:その時々でやれることを精一杯することでしか、自分のパフォーマンスを発揮できる場所は見つけられません。「ハイパフォーマーがこうしている」ということを、仮に教えてもらったとしても、それを100%理解して、そのまま再現できるとは限りません。今にきちんと向き合って取り組んでみると、日々の仕事の意味合いも、恐らく別の角度から見えてくるかと思います。

■自分に合った仕事の見つけ方

倉重:今の話はいいですね。ぜひ若い方に向けて、自分に合った仕事の見つけ方という点でもう少し深掘りをお願いしたいです。

皆川:ありがとうございます。「自分の好きなことは何だろう」と考えて書き出したり、「将来こうなりたい」という目標を明確に定めて取り組んだりする方法ももちろんあります。でも、好きなことや目標が明確でないなら、夢中になれることから広げていくことが一番いいと思います。

プランド・ハップンスタンス理論(計画的偶発性理論)というキャリアの考え方がありますが、私は完全にそのタイプです。キャリアとは何かと言われたら「あぶり出しの塗り絵」とよく答えるのですが、これは面白そうと塗り絵をしていたら、隣に次の塗り絵が見えてくるみたいな感覚ですね。

倉重:ある程度のところまでいくと、次が見えると。

皆川:そうです。「これは面白そう」と思ってやってみると次が見えてくるんですよね。研修が面白くてやっていたけれども、コンサルという領域があるのではないかと気づきました。そこで研修を極めていく人もいますが、私は隣に見えたコンサルの領域に跳んだのです。コンサルをやっているうちに、「もしかしてフリーランスというやり方があるのではないか」と気づきました。没頭してやっていると、何か見えてくるのです。というか、そちらが気になって仕方がなくなってきます。フリーランスで研修やコンサルをしていたら、組織、上司と部下の関係性について、人力ではなくてテクノロジーで、それもチームでやっていくことが見えてきて、今はそこを塗り始めたような感じです。

何が言いたいかというと、本当に合うことは、実は自分でも分かっていないかもしれません。でも没頭できることや、「こうしたら良い」というアイディアが出てくることは、恐らく自分に合っている可能性が高いです。もちろん若いうちは、「本当に没頭していて大丈夫なのか」「何かにつながるのか」と不安になることもあるかもしれませんが。

倉重:それが合っているのか、正解なのか、分かりませんからね。でも、「正解」なんてなくて、そこにあるのは「意味づけ」だけなんですよね。

皆川:そうなのです。ただ、一定期間夢中になれるのであれば、だまされたと思って夢中になってみてください。そうすると、先ほど言ったようにあぶり出しの塗り絵的に線が見えてきます。そういう生き方をしている人もいることが何かの参考になれば嬉しいですね。

倉重:それはまさに皆川さんのキャリアからアドバイスしていただいたと思うのですが、私もよくキャリア講義などで大学生の方に『Pokemon GO』型と言っています。『Pokemon GO』も、ポケモンがいる方向に行っている間に、次にまた新しいポケモンが出てきます。今の塗り絵理論と同じような話かと思います。

皆川:まさに、同じだと思います。

倉重:結果的に点と点がつながっていくのが有名な「Connecting the dots」なわけです。dotsのときにはそれは分かりませんよね。

皆川:そうなのです。

倉重:3つ先ぐらいのdotsに行って初めて「最初のことは意味があった」という話なので。「今やっていることに意味がありますか?」と聞く人がいますが、「そんなことはわからない」というのが正解かと思います。

皆川:おっしゃるとおりです。私が倉重先生の塾に参加していた頃は、まさに研修やコンサルティングの仕事をしながら、労働法に興味を持ちました。人事の実務をしていたわけではないので、直接自分の仕事には結びつきませんが、管理職向けの研修でハラスメントが話題になった時に、やはり自分で学びたいと思ったわけです。それで、何度も足を運ばせていただいて、講義形式のものから、ディスカッション形式のワークショップにも行ってみました。

倉重:懐かしいですね。

皆川:参加者の多くは、社労士の先生で、私だけ圧倒的に知識がなくて「質問するのも恥ずかしい」なんてこともありました。ただ、そのときは「純粋に学びたい」という気持ちがあって、楽しいと思って続けていたら、倉重先生との対談の機会を頂きました。別に狙っているわけではありませんが、一生懸命していると、何かがつながっていきますよね。

倉重:そうですよね。10年前にはベンチャーの現場にいるとは思わなかったわけでしょう?

皆川:全く思っていません。独立した時は、自分の本などを出せたら、それが最終形かと思っていました。

倉重:コロナもそうだけれども、先のことを予測しても仕方がありません。10年後にこうなっていると予想しても、そのとおりになっている例のほうが少ないのですから。

皆川:そうですよね。でも、今回のコロナを通じて多くの方が本当にそれを痛感していると思います。

倉重:その代わり、「目の前のことに夢中になっているか」という判断軸なわけですね。

皆川:私個人の判断軸は、そうですね。個人的な経験にはなりますが、親が50代半ばから若年性認知症になったことも、個人の価値観に影響しているかもしれません。「自分とは何か」「自分が自分でいられる時間の使い方は、こうしたい」という考えがあります。親が認知症になるなんて予想もしていないので、いざなったときに、すごくパニックになりました。けれども、認知症の研究者やサポートの経験者に出会って教えてもらったことは、「これをやればOK」という正解ではなくて、答えを見つけてる過程にしっかり向き合っていくことだったと思っています。「カケアイ」のナレッジのコンセプトの裏側には、私の親の介護を通じて得た感謝や想いがあるのです。

倉重:人と人とのコミュニケーションをテクノロジーで変えるということですものね。

皆川:そうです。

倉重:よく「AIに仕事を奪われる」と言う人がいます。でも、AI的なソリューションを使った上で、結局は人と人とのコミュニケーションが加速しています。あくまでツールですから、AIに仕事を奪われるという話ではないことが一番分かりやすい例かと思います。「コミュニケーションをするためにAIを使っています」というのは、誤解を解くためにも伝えたいと思いました。

皆川:ありがとうございます。

倉重:「仕事を奪われる」「49%の仕事がなくなる」などと言われたりするではないですか。それで不安に思う人もいるわけです。ですが、「AIはけしからん」ということではないと思います。

皆川:特に私たちのサービスを使ってくださっている方で、部下に対する想いのある方は、「AIに使われている」などとは絶対に思っていませんね。

倉重:そうです。結局使うのは人間だし、そこには何らかの思いがあるわけです。tipsをそのまま読み上げるわけではないですから。

皆川:そうなのです。ある人に向き合って日常を見ているからこそ生まれてくる、「こうなってほしい」という期待や想いは、AIには代えられません。

倉重:Will、意思の部分は絶対に機械が持てないものですので、それを利用して、人がどう判断するかという話ですね。そういうことを伝えられると、この対談の意味がすごくあるのではないかと思っています。

皆川:ありがとうございます。

倉重:人事労務分野に、HRテクノロジーというAIが侵食してきているという話ではなくて、AIを利用してより効果的で意味のある人と人との関係性構築が重要であることを伝えるために、今日の対談を企画しました。

皆川:ありがとうございます。

(つづく)

対談協力:皆川 恵美(みながわ えみ)

株式会社KAKEAI 共同創業・取締役

東京大学卒業後、2002年(株)リクルート入社。(株)セルム・PMIコンサルティング(株)にて管理職育成、組織開発コンサルティングに従事した後、独立し2010年より株式会社ミナイー代表取締役社長。同社を廃業し2018年4月 KAKEAIを共同創業。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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