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本日より #TVer#パリ五輪 ほぼ全試合無料配信開始!『TVer』の抱える課題

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
出典:TVer

KNNポール神田です。

https://tver.jp/olympic/paris2024/

『TVer』では、NHKの地上波放送競技の一部を除き、単独で初となるほぼ全競技の無料配信が行われる。

2024年7月24日(水)21時50分からだ!
21時50分から『TVer』で配信が開始される。サッカー男子の予選から開始だ。
フランスとの時差は7時間。なので夕方から朝までなので寝不足になる時間だが、TVerでは、毎日ハイライトが配信予定だ。


■『TVer』は完全広告ビジネスモデル NHKとの7:3モデルの勝算は?

五輪やFIFAのワールドカップはテレビ放映権の高騰化が常に話題となり、視聴率よりもその後の活躍選手たちのテレビ出演などのシナジーもあるので、放映権料と視聴率だけで測ることは難しい。

北京とパリをあわせて日本国内放映権料は440億円

□北京五輪(冬季)と2024年パリ五輪(夏季)の放送権料は、2大会合わせて440億円にのぼる。この巨額を国際オリンピック委員会(IOC)に対して支払っているのは、NHKと日本民間放送連盟(民放連)で構成するジャパンコンソーシアム.
NHKと民放連の放送権料の折半比率は非公表だが、「7:3」程度と言われている。北京五輪期間中の地上波テレビ番組の数も、ほぼ同じ比率だった。どの競技をどの局が中継するか、出資比率に応じて割り振られているとみられる。
https://www.yomiuri.co.jp/olympic/2022/20220308-OYT1T50192/3/

放映権料440億円の3割だと、推定132億円民放連側の支払いとなる。

民放連の主要事業者は『TVer』の株主でもあるので、3割負担した上での放映権料を地上波、BSなどでの生放送や録画放送、ニュース映像での利用権利だけよりも、
『TVer』を活用したほうが、新たな出口戦略が見えるのだ。

通常のテレビの無料放送は、テレビ広告や電波料などで成立し、スポット広告や番組提供が編成と視聴率とのパラメータで料金が決定する。

そして、インターネット配信の『TVer』の場合、放送の『再配信』と『生配信』のハイブリッドで行われる。
そして、『TVer』に登録された年代、エリア、好きなジャンルにあわせた広告が配信される仕組みだ。

一番、重要なのは、『通常テレビ放送』の『広告』以外の『TVer』専用の『広告』が収入として得られることだ。
基本的に『TVer』には『番組制作』機能は必要ない。システムとしての『配信管理』や『トラヒック』に関するコントロールなどが必要となる。

『TVer』はテレビ業界として、『再放送コンテンツ』を時間による『編成』を無視して最大化して配信できるプラットフォームなのだ。そして、視聴属性に合わせた広告は、お子様からおじいちゃん、おばあちゃんまで一派一絡げにした広告よりも高く料金が取れる。そして、インターネットなので視聴直後にクライアントのLP(ランディングページ)に数値化されたデータが集まる。これは、テレビメディアではできなかったことだ。
当初は、生放送である『通常テレビ番組』への『回帰』を期待しての『見逃し配信』という『補完機能』であった『TVer』がこの『パリ五輪』の『ほぼ完全配信』によって、『五輪』の『メイン機能』としてワークすることとなる。

これは、FIFAワールドカップのサッカーの完全配信を手掛けた『Abema』同等の効果が見込めそうだ。Abemaの2022年12月5日の日本VSクロアチア戦は、2,343万人だった。

そして、『TVer』がテレビ局の制作能力による『仕入れコスト』のいらないテレビ局連合ポータルだとすると、売上は、ほぼ一般管理費用を抜くと利益の出やすい体質となる。


■TVerの凄さがわかるMAU1,800万 ※しかも2年前

『TVer』の凄さは、『テレビ離れ』をしたユーザーを『スマートフォン』や『タブレット』『ネット搭載テレビ』でグリップできているところだ。『テレビ離れ』ではなく『テレビ受像機離れ』であることを物語る
これは『受像機』あたりで『課金(負担)』させている『NHK』とはビジネスモデルが大きく異なる。
『テレビ広告費』を獲得しながら、再放送で編成時間枠無制限の『TVer』の『属性マッチング広告費』が新たに入るのだ。これは一石二鳥どころか無限の可能性を秘めている。

2022年3月月間再生数は2.5億再生、アプリのダウンロード数は4700万MAU(月間のアクティブユーザー数)は1800万に到達しました。放送局も100社以上が参加、配信するテレビコンテンツは500番組を超え
https://tver.co.jp/about/#message


■TVerの株主は国内テレビ局大連合(※NHK以外)

出典:筆者作成
出典:筆者作成


在京テレビ局 上位5社で82%(16.4%×5社)

日本テレビ放送網株式会社 16.4%

株式会社テレビ朝日 16.4%

株式会社TBSホールディングス 16.4%

株式会社テレビ東京 16.4%

株式会社フジ・メディア・ホールディングス 16.4%

以下、広告代理店と在阪テレビ局

株式会社電通グループ 3.9%

株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 3.4%

株式会社MBSメディアホールディングス 1.8%

朝日放送テレビ株式会社 1.8%

関西テレビ放送株式会社 1.8%

讀賣テレビ放送株式会社 1.8%

株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ 1.6%

株式会社東急エージェンシー 1.0%

テレビ大阪株式会社 1.0%
https://ja.wikipedia.org/wiki/TVer


□『純資産』110億円『流動比率』346%超えの超優良企業の『TVer』

出典:官報
出典:官報

こちらは、先月発表された決算公告の官報だ。

上場企業でなくても株式会社の『決算公告』は『会社法』により『官報』『日刊新聞』『電子公告』などのいずれかに掲載することを義務とされており、掲載しないと100万円の罰金会社法939条)と制定されている。しかし、掲載企業は全体の1.5%だ。このあたりは遵守されていない。掲載している企業は、社会からももっと称えらるべきだと思う。このような財務分析も可能となる。

流動資産142億円に対しての流動負債が41億円、流動比率は、346%という健全経営だ。純資産も110億円となった。

発表日 2024年6月28日

決算末日2024年03月31日

純利益9億2,200万円 (黒字転換)

利益剰余金1億1,200万円 (黒字転換)

純資産110億5,100万円 (+10.01%)

総資産152億4,500万円 (+30.21%)

https://catr.jp/companies/5a3aa/30771/settlements/8f322/370538

2024年の総資産は152億円で、

2020年度の総資産は22億円だった。 つまりこの4年間で資金調達が潤沢におこなわれたことがわかる(ほぼ株主資本の増加)。
売上は2023年から非公開だが、繰越利益の剰余金がマイナスであるが、
負債合計41億円で総資産が152億円と超健全だ。

出典:官報決算データベース
出典:官報決算データベース

https://catr.jp/companies/5a3aa/30771

TVerは、2022年に資本金を1億円に減資したことにより、『その他資本剰余金』に53億円計上され、純資産が増加した。
『損益計算書』の掲載義務のある『大会社(資本金5億円以上)』ではなくなり『貸借対照表』だけの公告となった。

■TVerの最大の弱みは?『テレビを殺してはいけない』だ

今回の『パリ五輪』で『TVer』は最大のMAUをはじき出すことだろう。

しかし、TVerは、最大の弱みは、『本家本元』のテレビからのアイボールを集めすぎてしまうことだ。

テレビは幸いに『視聴数』ではなく『視聴率』しか計測できないので、『視聴率調査』に参加している調査世帯の母数さえ減らなければ、『視聴率』は確実に守られる。基本的にテレビに好意的で協力してくれる世帯や個人が『視聴率』を支えてくれている。

しかし、『視聴率』が変わらないのに『TVer』のMAUが伸び続けてしまうと、クライアントの『テレビ』の広告費の配分を、テレビよりも『TVer』を見てしまう可能性が高くなる。

幸い、『TVer』の広告は、テレビの通常広告+アルファとして配信されているようだが、あまり『TVer』が活躍すると、『TV』によって『TVer』が殺されてしまう可能性がでてくるだろう。あくまでも『TV』ありきの『TVer』なのだ。

『TVメディア』の終焉の前に『TVer』という『ハイブリッド』なビジネスモデルが誕生したが、無料でみていただくための『コンテンツ』が、どこのテレビ局が作ったものかも意識しなくなった時点で、『テレビ』としての役目は終焉している気がしてならない。

そう、なによりも、『TVer』の視聴者は『テレビ』を見ているのではないからだ。YouTubeやNETFLIXの番組を見るのと同様に『TVer』コンテンツを楽しんでいるだけだからだ。
そして、誰かが、番組制作さえできれば、『TVer』は必要だけれども『TV局』と『テレビ受像機』が不必要となるタイミングが必ずやってくる。

時間通りの編成とチャンネルという呪縛から、解き放たれ、いつでもどこでも『テレビ』が見られる時代に、こんなに不便なテレビを見たい人がいるのだろうか?

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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