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こんなに美しいのに無視されるのはなぜ?=アオスジアゲハ

天野和利時事通信社・昆虫記者
きれいなのになぜか人気薄のアオスジアゲハ。

 アオスジアゲハは、アサギマダラやオオムラサキに負けず劣らずの美しさを誇る蝶だが、一般人の関心を引くことはあまりなく、虫好きにさえ無視されることが多いのはなぜだろう。それは、あまりにも普通種だからだ。

 昆虫趣味の人々(特に男性)の中には、希少種ばかりを目の色を変えて追いかける者が多い(昆虫記者もその傾向がある)。ところが、アオスジアゲハは、都心の小さな公園でも普通に見かける「当たり前の蝶」なのだ。

 アオスジアゲハは特に都会に多い。それは、街路樹として重宝されるクスノキ、タブノキが幼虫の食樹だからだ。海に近いところでは、塩害に強いと言われるタブノキの並木が多く見られ、そんな場所では、下枝を見て回ると、面白いほどたくさんアオスジアゲハの幼虫が見つかることがある。

目の前にこんなきれいな蝶がいるのに、誰も振り向かないのはなぜ?
目の前にこんなきれいな蝶がいるのに、誰も振り向かないのはなぜ?

ヤブガラシの花の蜜はアオスジアゲハの好物。
ヤブガラシの花の蜜はアオスジアゲハの好物。

アオスジアゲハが乱舞する姿はいかにも南国風。
アオスジアゲハが乱舞する姿はいかにも南国風。

 逆に自然の豊かな田舎に行くと、アオスジアゲハを見かけることは少なくなる。幼虫が天敵のハチなどに襲われることが多いからかもしれない。幼虫の食樹が山ほどあり、天敵が少ない東京都心などは、アオスジアゲハにとって極楽なのだろう。

 あまりにも普通種であるため、虫好きがアオスジアゲハを街中で見かけても「なーんだアオスジか」という感じになりかねない。しかし、こんな南国風の美麗な蝶が、東京都心を飛び回っているのは、よくよく考えてみれば「すごい光景」だ。

 英語では「ブルーボトル」という涼しげな名で呼ばれるこの蝶は、東南アジアの熱帯にもいるが、東京の夏ほど頻繁に見かけることはない。

「私を見て」と、つぶらな瞳で訴えかけるアオスジアゲハ。
「私を見て」と、つぶらな瞳で訴えかけるアオスジアゲハ。

 今度アオスジアゲハを見かけたら、「こんなきれいな蝶に街中で普通に出会える日本は、なんとすばらしい国なんだ」と感嘆の声を上げ、その美しさを是非じっくり堪能してほしいものだ。などと言いながら、昆虫記者は今でも時々「なーんだ、またアオスジか」などと言ってしまう。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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