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リベンジの先にあったJ1王者への挑戦権 天皇杯1回戦:ブリオベッカ浦安(千葉)vs筑波大学(茨城)

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
第103回の天皇杯が開幕。ブリオベッカ浦安vs筑波大学は前回大会と同じカード。

 今年も天皇杯の季節が到来した。正式名称「天皇杯 JFA 第103回全日本サッカー選手権大会」。今大会は、J1が18チーム、J2が22チーム、アマチュアシード1チーム(Honda FC)、そして都道府県代表47チームの合計88チームが出場する。決勝は12月9日、会場は国立競技場である。

 第1回戦が行われたのは5月20日と21日で24試合。今回は21日開催ながら、マッチナンバー「1」となっている、ブリオベッカ浦安(千葉)vs筑波大学(茨城)を取材することにした。会場は千葉県のゼットエーオリプリスタジアム。かつてジェフユナイテッド市原(現・千葉)がホームゲームを行っていたスタジアムだ。

 実はこのカード、天皇杯では3回目。浦安の天皇杯出場は今回が6回目だが、そのうち3回が筑波大との初戦ということになる。過去2回の対戦は、2013年大会が延長戦の末に4−1、2022年大会が2−2(PK3−5 )。いずれも1回戦敗退で、Jクラブとの対戦は叶わなかった。

 2013年の浦安(当時のクラブ名は「浦安SC」)は関東リーグ2部、22年は関東1部だった。しかし今季の浦安はJFL。6年ぶりの全国リーグでは、なかなか勝てない試合が続き、第8節を終えて0勝3分け5敗の15位(最下位)となっている。それでも、浦安はこの天皇杯1回戦に懸けていた。

 今度こそ、筑波大に勝利したい。そして、この試合に勝利すれば、2回戦の相手はJ1の横浜F・マリノス。言わずと知れた、昨シーズンのチャンピオンである。

浦安の先制点を挙げたのは新加入の村越健太。IT企業で働きながらプレーを続け、さらなる上のカテゴリーでの活躍を目指す。
浦安の先制点を挙げたのは新加入の村越健太。IT企業で働きながらプレーを続け、さらなる上のカテゴリーでの活躍を目指す。

■システム変更の途中で痛恨の失点

 試合は13時にキックオフ。序盤から積極的に前に出ていたのは浦安だった。そして13分に先制ゴールが生まれる。ハーフウェイラインから荒井大のロングフィードに、確信をもって走り込んだ村越健太が追いつき、右足で冷静に流し込んだ。

「いつも練習でやっていたパターンだったので、迷いはなかったです。練習は嘘をつかないですね」と村越。しかし、浦安のリードは長くは続かない。筑波大は22分、中央からの田村蒼生の縦パスを受けた1年生の内野航太郎が、そのまま相手DFをドリブルで振り切って同点ゴールを挙げる。

 何とか突き放したい浦安は34分、セットプレーからペナルティボックス内でボールを回し、最後は峯勇斗のバックパスを受けた伊藤純也が右足で直接ゴールに叩き込む。前半は浦安の1点リードで終了。

 浦安が先制し、筑波大が追いつく展開は後半も続いた。64分、山内翔のロングフィードに角昂志郎がフリーで受けてループシュート。再び、筑波大が同点に追いつく。実はこの時、浦安はディフェンスを数を3枚から4枚に変える途中で、マーカーが外れるという致命的なミスを犯してしまった。

「指示のタイミングが悪かった。あれで負けていたら僕の責任」と、浦安の都並敏史監督は反省しきり。窮地を救ったのは、途中出場の林容平だった。79分、カウンターから村越がボックス内に侵入し、アウトサイドで中に入れたところに、林が飛び込んで右足でネットを揺らした。

試合中、懸命に声援を送ったベンチ外のメンバーに挨拶する筑波大の選手たち。今年に入ってから公式戦での敗戦は初めて。
試合中、懸命に声援を送ったベンチ外のメンバーに挨拶する筑波大の選手たち。今年に入ってから公式戦での敗戦は初めて。

■JFL最多失点の浦安が横浜FMに挑む

 これが決勝点となり、浦安が3−2で筑波大に初勝利。6月7日の2回戦に進出し、横浜FMと対戦することとなった。試合後の両監督のコメントを紹介しておこう。まずは、敗れた筑波大の小井土正亮監督。

「浦安さんの圧力に耐えきれず、失点を重ねてしまいました。こちらも2回追いつきましたが、相手を見てしまうプレーも多く、受けてしまった感じ。今年に入ってから、公式戦で初めての敗戦だったのですが、今日の経験は今後のリーグ戦に生かしていきたいと思います」

 一方、浦安の都並監督は、勝因について問われると、一言「魂です」。そして、前回の筑波大との対戦を踏まえながら、こう続ける。

「去年は延長戦に入ってから引いてしまったので、今回は多少の怖さはありながらも、できるだけ前にプレスをかけ続けるようにしました。(次の横浜FM戦では)自分たちの守備がどれだけ通用するかがテーマとなりますが、ハツラツとした戦いができればいいかなと思っています」

 浦安が天皇杯1回戦を突破して、Jクラブと対戦するのはこれで3回目。2014年大会では浦和レッズに2−8と大敗しているが、2017年大会には柏レイソルに0−1と接戦を演じている。今季のJFLでは、最多14失点を喫している浦安。それでも「自分たちの守備がどれだけ通用するか」と指揮官がコメントしていたのが興味深い。

 最後に、敗れた筑波大についての余談。この試合では、ベンチ入りできなかったメンバーが、さまざまなJクラブのチャントを歌いながら声援を送っていた。小井土監督によれば「彼らがインディペンデンスリーグで試合をする時は、今日のメンバーが応援に駆けつけます」。筑波大の「共頂」というスローガンは、決して伊達ではないようだ。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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