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前園真聖が日本代表監督に!?韓国“超”人気番組で初の女子サッカー日韓戦…選手にフィギュア元代表の姿も

金明昱スポーツライター
韓国人気番組で行われた日韓戦。イ・ヨンピョ氏と前園氏が監督に(写真・韓国SBS)

 サッカーにおいて日本と韓国は、アジアでしのぎを削ってきた相手であるが、今も“日韓戦”ともなれば、どの国の試合よりも見る者を熱くさせる。

 現在も2026年北中米ワールドカップ(W杯)の最終(3次)予選が行われているが、近年は日本と韓国が本大会出場を賭けて直接対決することはなくなった。ただ、両国は過去にW杯予選だけでなく、アジアカップや五輪などの国際大会で何度も戦っており“ライバル”と言われてきた歴史がある。

 約1カ月前の9月1日、韓国の全国民が注目していたと言っても過言ではない“日韓戦”が韓国・仁川コインドル体育館で行われた。韓国SBSの人気バラエティ番組「ボールを蹴る彼女たち(골 떄리는 그녀들)」の特別企画で、女性芸能人で構成された韓国代表対日本代表の“日韓戦”(フットサル)が実現した。韓国では10月2日と9日の2週にわたり放送された。

前園氏への熱烈オファー、本番まで1カ月でチーム作り

 番組側が日本代表チームの監督に白羽の矢を立てたのは、元日本代表の前園真聖氏。実は候補は他にも2人いたのだが、共に現役の立場から交渉は厳しいと判断。

 韓国チームの監督は2002年日韓Wベスト4メンバーでもある元韓国代表のイ・ヨンピョ氏が務めることが決まっているなか、本人が直々に日本まで来て前園氏に交渉をしたほどだ。2人はかつてKリーグの安養LGチータース(現在のFCソウル)の同僚で、そうした縁も熱烈なオファーにつながった。

 前園氏はこれまで一度もサッカーチームの“監督”を務めたことはない。“非公式”とはいえ、初めて一つのチームの指揮を執ることに少しは悩むかと思われたが二つ返事で了承。その後、番組側との協議の結果、最終的に7人の選手が選ばれた。

 俳優でフリースタイルフットボールが得意の眞嶋優、タレントの横山愛子とグラビアアイドルの日野麻衣(共にホリプロの芸能人女子フットサルチーム「XANADU(ザナドゥ)メンバー)、歌手・タレント・アイドルの梁愛美(りょう・あいみ)とサッカーインフルエンサーでモデルの石井さなえ(共に芸能人女子フットサルチーム「FC SPEED」メンバー)、そして、ソチ五輪に出場したフィギュアスケート元日本代表の高橋成美がメンバー入りするという驚きもあった。

後列左から監督の前園真聖氏、石井さおり、眞嶋優、梁愛美。前列左から日野麻衣、横山愛子、さおり、高橋成美(写真・韓国SBS)
後列左から監督の前園真聖氏、石井さおり、眞嶋優、梁愛美。前列左から日野麻衣、横山愛子、さおり、高橋成美(写真・韓国SBS)

 そして最後の7人目は、同番組の最多得点者であり、韓国で“手話アーティスト”の肩書きを持つ日本人タレントの「さおり(藤本沙織)」がメンバー入りした。韓国の番組ファンにとっては、馴染みのある人物が日本代表として戦うこともサプライズだったに違いない。

 さおり、眞嶋、横山、日野、梁、石井はいわゆる“サッカー経験者”だが、フィギュアスケート選手の高橋だけがほぼ素人に近く、もちろん試合はしたことはない。蹴って止めるという基本的なボールの扱いから始まり、ピッチの中での動き方など、ほぼイチからすべてを始めるという難題を監督の前園氏は突きつけられた。

 本番まではたったの1カ月。それぞれが日本で芸能活動など仕事を抱えており、全員が集まって練習できる日も限られていた。韓国選手たちのダイジェスト映像を事前に受けと取っていた前園氏は当初、「完全に相手の実力のほうが上だと思う」と苦笑い。それでも「とにかくやるしかない」と覚悟を決めていた。

韓国「ボールを蹴る彼女たち」どんなバラエティ番組?

 そもそも「ボールを蹴る彼女たち(골 떄리는 그녀들)」とは、どのような番組なのか?

 2021年6月に放送がスタートし、今では「知らない人はいない」と言われるほどの人気番組となった。日本では基本的に見られない(衛星放送『KNTV』などで一部の回は放送)ので馴染みがないが、韓国で3本の指に入るほどの高視聴率を獲得しているという。

 番組は開始から3年が経ち、現在はシーズン6まで続いている。当初は6チームだったのが、今では1部の「スーパーリーグ」(6チーム)と下部の「チャレンジリーグ」(4チーム)まで増え、リーグの入れ替えも行われている。バラエティ番組の枠を越えて、本格的な芸能人女子のフットサルリーグへと成長した。

 各チームのコンセプトも分かりやすく、スポーツ選手の家族(妻)、モデル、お笑い芸人、女優、歌手、元・現アナウンサー、外国人タレントなどに分けられている。実際、番組で試合を見ていると、バラエティに必要不可欠な“お笑い”よりも“真剣さ”が勝っているのが一目でわかる。

 サッカーを始めて数カ月という女性芸能人がほとんどで、必死にボールを追いかける姿や激しい当たりでボールを奪い合う姿は痛快。時にプロ顔負けのスーパープレーが出たりするのも醍醐味だ。バッチリ決めたメイクが落ちるほど汗だくになり、時には涙も流すほど熱い戦い戦いを繰り広げるのだから、人気になるのもうなずける。

 日本でも女優、歌手、アナウンサー、お笑い芸人などがチームを作り、フットサルで対決する番組があれば、大いに盛り上がるのではないかと想像させてくれるが、ケガなどのリスクを考えると実現にはハードルが高いかもしれない。

 さらにこの番組が豪華だと感じたのは、“元韓国代表選手”が監督としてチームを指揮しているところ。セレッソ大阪とヴィッセル神戸でプレーしたハ・ソッチュ氏が連盟委員長を務め、元代表GKキム・ビョンジのほか、Jリーグに在籍したチョ・ジェジン、チェ・ソンヨン、オ・ボムソク、イ・グノ、パク・チュホといった面々が監督としてチームを率いて番組を盛り上げている。過去には元北朝鮮代表の鄭大世も監督として番組に出演。今回の日韓戦ではイ・グノとパク・チュホが特別に解説を務めていた。

Jリーグでもプレーした元韓国代表のイ・グノ(左)とパク・チュホ(右)が日韓戦を解説(写真・SB公式YouTubeキャプチャー)
Jリーグでもプレーした元韓国代表のイ・グノ(左)とパク・チュホ(右)が日韓戦を解説(写真・SB公式YouTubeキャプチャー)

2500人の観客と豪華演出、数えきれないカメラの数に圧倒

 話を戻そう。9月1日の本番。まずは会場に訪れる観客の多さに驚かされた。会場内外に選手一人ひとりの横断幕がなびき、約2500人という番組史上初の観客動員でスタジアムは真っ赤に染まった。日本ゴール裏のバックスタンドにはサムライブルーの日本代表ユニフォームを来たサポーターもいて、「ニッポン!」コールで会場を盛り上げた。

 選手のロッカールームに入ってまた驚く。大きな日本の国旗と床には「JAPAN」文字。青を基調とした内装は、“日本代表”であることを実感させてくれる。韓国のロッカールームも大きな韓国の国旗“太極旗”と「KOREA」の文字はもちろん赤。これで気合いが入らない選手はいないだろう。

 テレビカメラの数にも度肝を抜かされた。しっかり数えたわけではないが、大小含めると「50」以上、それ以上にあったと言っても大げさではない。試合中は様々なアングルから選手のプレーと表情を撮れるようにドローンまで飛ばしていた。

 番組制作と演出への投資は想像以上で、とにかくスゴイとしか言いようがない。制作陣がどれだけ本気で取り組んできたのかがよく分かったが、約1カ月前、番組スタッフからは「前園さんはじめ、選手たちに練習するように伝えてほしい」と必死だった。その理由がこの時にようやく分かった。演出だけ大げさで、チームに実力差があっては、楽しさが半減すると踏んでいたからだ。

 もちろん、そのことを監督である前園氏が一番心配していた部分だった。

会場の前には選手ののぼりもなびいていた(写真・韓国SBS)
会場の前には選手ののぼりもなびいていた(写真・韓国SBS)
選手たちは2500人の観客に迎えられ、会場の豪華演出でボルテージは最高潮に(写真・韓国SBS)
選手たちは2500人の観客に迎えられ、会場の豪華演出でボルテージは最高潮に(写真・韓国SBS)

前園氏「負けられない戦い。勝って帰りたい」

 試合開始前の会見では日韓戦を「負けられない戦い」と位置付けた前園氏。

「現役の時、韓国代表との試合で一度も勝ったことがないですが、今度は監督の立場ですがもう負けられない。勝って帰りたい。常にアグレッシブに2点、3点、4点を取れる攻撃的なサッカーを見せたい」

 試合は前半の立ち上がりから互いに引いて、相手の出方をうかがった。試合慣れしている韓国は丁寧なパス回しに加え、フィジカル、スピード、パワーでも分があるように見えたが、日本は練習の成果もあり五分五分の戦いをしてみせた。

 日本は芸能人フットサルチームの中で「実力ナンバーワン」と言われているキャプテン・横山愛子が最後尾からしっかりとゲームと作った。落ち着いたボールさばきと高いキープ力、正確なパスを軸に前線の眞嶋とさおりを軸に攻撃を展開した。

 高いリフティング技術を持つことで、韓国から警戒されていた眞嶋の鋭いドリブルも相手守備陣を翻弄。さらに、さおりの推進力とゴールへの嗅覚も相手の脅威となった。走り負けない体力とハードワークの守備で相手の攻撃の芽を摘んでいた元フィギュア代表の高橋成美も1カ月の練習で成長。そして、GKの石井さなえもゴール前で体を張ったプレーでチームを鼓舞し、スーパーセーブを連発。時には周りの状況が見えないほど、アドレナリン全開だった。

「こんな真剣なゾノは久しぶりに見た」

 試合は一進一退の攻防で1点を争うシーソーゲーム。韓国代表はホームだからこその負けられない緊張感やプレッシャーもあったのか、やや動きに固さが見られたが、得意のセットプレーで何度も日本のゴールを脅かした。

 試合の詳細は映像に譲るが、日本は眞嶋とさおりが2ゴールずつ決める活躍で、4-3(前半2-2、後半2-1)で劇的に勝利を手にした。ホームの韓国としては悔しい敗戦だったが、最後は互いに健闘を称え合った。韓国は敗退したとはいえ、これだけ白熱するとは番組側も予想していなかったはず。高視聴率は確実で、結果的に日韓戦の企画は大成功だったと言える。

 後半終盤の数分の出場となった梁愛美とピッチに立てなかった日野麻衣にとっては、消化不良な部分はあったはずだが、共にベンチからでも全力で声を出し、サポートして勝ち取った勝利だった。

 試合の流れの中で控え選手をどのように使うのかも前園氏の手腕の見せ所で、“バラエティ番組”の位置づけとしては、すべての選手を出すという考えもあるだろう。それでも「負けられない戦い」と位置付けたからには、勝つための采配が求められた。

 それくらい前園氏はオファーをもらった段階から真剣だった。「勝負にならないチームになっても相手に失礼」と言っていたが、仕事の合間を縫って夜遅くまで前園氏と選手たちはフットサルコートで練習に明け暮れた。その本気度を選手たちも肌で感じ取っていたに違いない。

 正直、“バラエティ”の枠を越えるような真剣な取り組みに近くで見ていた筆者も驚きしかなかった。今回、前園氏の要請で選手を支えた川股要佑コーチと並木磨去光トレーナーも「こんな真剣な表情のゾノさんは久しぶりに見た」と口を揃えていたほどだ。

日韓戦を終えて選手たちが感じたものとは?

 後日、前園氏と選手、スタッフ全員が集まる打ち上げがあった。韓国に滞在するさおりは、ビデオ通話での参加となったが、日韓戦を終えた心境を集まったメンバーに聞きたかった。

高橋成美「サッカーに夢中。同じチームながらも闘争心があった」

 初めてサッカーに真剣に取り組んだという高橋成美。大会前には北海道でフルマラソンを走るなど、忙しい仕事の合間に練習に取り組んでいた。

「最初から最後までサッカーに夢中でした。みんなに感謝していて、いい思い出がたくさんできました。フィギュアスケートと同じくらいサッカーが楽しかったんです。フィギュアでは国内ライバルの存在がない時期も多かったので、オーディションで争う経験もなかったけれど、同じチームながらも実はすごく闘争心もありました。次もいつか試合があると考えるとこれからもコツコツやらないといけないと思っています」

 五輪に出場するほどのトップアスリートだけに、運動能力は高かった。サッカーを始めたばかりにしては、成長スピードが早く、戦術の理解度も高いように思えた。現に今も仲間を巻き込みながら、サッカー練習を続けている姿をインスタグラムにアップしているが、次にまた試合があるならば、その時はどれくらい上達しているのかがとても楽しみだ。

前園氏のハーフタイムの選手への指示も真剣そのもの(筆者撮影)
前園氏のハーフタイムの選手への指示も真剣そのもの(筆者撮影)

二児の母・横山愛子「家族一番の私に主将が務まるのか不安だった」

 今回、キャプテンとしてチームをまとめた横山愛子。TBS「アッコにおまかせ!」でアシスタントを務めており、一度は見たことがあるという人も多いかもしれない。韓国側監督を務めたイ・ヨンピョ氏が「横山がチームにいたら(自分たちが)負ける(笑)」と笑っていたが、それほどチームの大黒柱だった。

 ちなみに2児(6歳と4歳の娘)の母でもある。今回、メンバー入りには「実は迷いがあった」と吐露する。

「学校の送迎、家事、育児の合間に仕事をしつつなんとかこなす日々。救われたことは、子どもたちが夏休みだった事です。私が夜に家をあけることは6年間ほとんどなかったのですが、夫の協力も得ながら、なんとか練習に参加しました。前園監督から主将を言い渡された時も、私に務まるのかと不安がありました。それは家族が一番(の優先順位)なのに、他のメンバーのことを考える余裕がなかったからです。でも就任したからには、まとめなければいけない。私にはプレーしか魅せることしかできないので、自分が伝えられることは声を出して動きを見せて伝えていきました」

 1カ月間、ガラリと変わった生活環境に子どもたちも寝付けなかったこともあったという。母親としては辛い状況だが、双子の姉は元フットサル日本代表で、夫も全国高校サッカー選手権で優勝経験者。「不満が溜まった時や分からないプレーがあったときは色々聞いてサポートしてもらった」。

 家族と離れての韓国行きも家族のサポートがあってこそ。本番前も終わってからも泣いている姿を見たが、「家族への感謝の気持ちがあふれてしまって…。次があるのならまた戦いたい気持ちがあるけれど、またその時になったら考えたいです」と母親の顔に戻っていた。

ゴール後のパフォーマンスでも会場を盛り上げた(筆者撮影)
ゴール後のパフォーマンスでも会場を盛り上げた(筆者撮影)

石井さなえ「最高のチーム」、梁愛美と日野麻衣「勝利の喜び」と「悔しさ」

 GKの石井さなえはまず自分がメンバーに選ばれたことに「私は選手選考の時、年齢で引っかかってたんです(笑)」と驚いていた。

「私も挑戦し続けることが大事なんだなと今回、改めて感じることができました。みんなまだまだ若いのであと10年はサッカーを続けてほしい。試合も最高の展開で、最高の監督と、最高のコーチ陣、最高のチームでできたことは本当に嬉しかった」

 試合終了前の途中出場で終わった梁愛美も「悔しい思いが大きい」と本音を隠さない。日本の芸能人女子フットサルチームではキャプテンで「10番」を背負ってプレーしているプライドもあっただろう。

「日本にたくさんの選手がいる中で、代表メンバーとして選出していただけたこと、番組プロデューサーさん、前園監督に心から感謝しています。オファーをいただいたときは、日本の芸能人女子フットサルを盛り上げたい思いで活動している私としては言葉に表せないほどうれしかった。それでも番組に対する思いはすごく強かった。この1カ月、タレントでもアイドルでもなく、選手として全力でサッカーと向き合いました。試合に出られなかった悔しさと勝利の喜び、日本に帰国してからもしばらくは複雑な思いがありました。次回のリベンジ戦は必ず試合に出場します」

 グラビアアイドルの日野も「正直な話をすると、フィールドに立てなかったことは本当に悔しい。力不足も感じていた」と本音を漏らす。それでも学んだことはたくさんあったと振り返る。

「みんなと1ヶ月間、切磋琢磨して頑張ってきたことは本当に貴重な経験でした。私は試合でピッチに立てなかったけれど、気持ちではそこに立っている思いで挑んでいました。みんなが本当にかっこよくて、頼もしくて、すごいチームで学ぶこともたくさんありました。人間的にも強くなれた。弟がいま沖縄の宮古島で子どもたちのサッカーチームを立ち上げて頑張っていますが、弟のすごさも改めて感じたし、尊敬しています」

敗れた韓国だったがサッカーを始めて数年とは思えないほどの実力だった(筆者撮影)
敗れた韓国だったがサッカーを始めて数年とは思えないほどの実力だった(筆者撮影)

エース級の活躍の眞嶋優「本気になってとても刺激を受けた。番組に出たい」

 今大会、PKをきっちり決めるなどエース級の活躍で勝利に貢献した眞嶋優は「こんなに本気でサッカーをやったのは中学1年生以来です」と振り返る。

「韓国チームの選手映像を見た時は、みんな上手で、0-5くらいで負けるんじゃないかと焦りました。1カ月でレベルアップできるのか不安のほうが大きかった。でも、みんなで毎日練習してきて、いいチームになっているのも実感していたので、本番がすごく楽しみでした。私たちはチャレンジャーだったので、挑む気持ちで試合しましたが、本当にめちゃくちゃ楽しむことができたんです。それが一番よかった。終わってからも燃え尽き症候群みたいになって、動画を何回も見返しています」

 フリースタイルフットボールの華麗なテクニックでも有名な彼女だが、どちらかと言えば“清楚”や“かわいらしさ”のイメージが先行する。ただ、今回の試合を見る限り、そのイメージは真逆のものだった。

「今までリフティングする姿や笑顔の印象が強いと思いますが、今回はずっと真剣な顔だったのでは?と、自分でもどんな風に映っているのか心配になるくらいです(笑)。でも、そのくらい本気になって、とても刺激を受けたので、ぜひこの番組にレギュラーチームとして出演してみたい!という夢ができました。チャンスがあればチームの一員としてプレーしたいので、韓国語の勉強は始めています」

 もっとサッカーがうまくなりたいという意欲とともに、タレント活動の一環としてこの番組にも携わってみたいという前向きな気持ちが強くなった。何事にも貪欲な姿勢が、日韓戦でのゴールと勝利にもつながったようにも感じた。

試合後は勝敗関係なくノーサイド。選手たちは健闘を称え合ってビールで乾杯!(筆者撮影)
試合後は勝敗関係なくノーサイド。選手たちは健闘を称え合ってビールで乾杯!(筆者撮影)

初監督業の前園氏「楽しさと難しさがあった。オファーがあればまたやりたい」

 初めて一つのチームの“監督”を務めた前園氏。試合に勝ったが、短い期間でチームを作る過程で学ぶことも多かったという。

「1カ月間という短い期間で教えられることは限られているなかで、本当に選手たちはよくやってくれたと思います。初めての監督業でしたが、楽しさと難しさがありました。本当のサッカーの指導者をすることはないのですが、今回のような機会があり、オファーが来ればもちろんまたやりたい。このメンバーでやりたいのもそうです。選手への要求はさらに高くなると思いますが(笑)」

 個人的に驚いたのは、ピッチでプレーする選手たちに激を飛ばす姿から、現役時代をほうふつとさせる“熱さ”を感じたことだった。前園氏は2009年にビーチサッカーの日本代表に選出されているが、当時「本気で目指してきた」と語っている。

 この時のことを思い出して、こう振り返った。

「“日本代表”として携わるのは、09年のビーチサッカー代表以来。普通の仕事じゃ味わえない緊張感と気持ちが芽生えたのがすごく新鮮でした。選手のみんなも普段の仕事とは違ってそうだったと思います。すごくいい試合をしてくれた選手に感謝しています」

 また、前園氏は現役時代、2度の“日韓戦”を経験しているが勝てなかった。今回は“非公式”ではあるが、日韓戦を監督として勝てたことについては「そこの部分の嬉しさはあまりないんです」と笑う。

「僕が現役時代に韓国に勝てなかったというのは、番組があえて強調していた部分なのでね(笑)。それよりもサッカーを辞めるとみんなと同じ目標に向かって、一緒に頑張るという機会はなくなるんです。だからこそ、このような機会をいただけたのはすごくうれしかったし、またみんなでやれたら嬉しい」

韓国代表に勝利した日本代表選手、前園監督とコーチ、トレーナーのスタッフたち(写真・韓国SBS提供)
韓国代表に勝利した日本代表選手、前園監督とコーチ、トレーナーのスタッフたち(写真・韓国SBS提供)

韓国側は“リベンジマッチ”を約束

 今回、韓国のSBSスタッフたちは「いつになるかわからないけれど、第2弾の日韓戦をやります」と約束してくれた。韓国側の監督を務めたイ・ヨンピョ氏も「次はリベンジマッチですよ」と語り、前園氏とがっちり握手を交わして健闘を称え合っていた。ただ、敗れたヨンピョ氏はバラエティ番組とはいえ内心、穏やかではなかったはずだ。もちろん韓国側の選手たちも同じ気持ちだろう。

 芸能人たちがこれほど熱くなる韓国のこの番組が少しうらやましくも見えた。日本が相手ということもあり、番組の注目度もさらに上がったはずだ。“日韓戦”はこれだから面白い。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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