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ロボットが2030年までに工場労働者2000万人の仕事を奪う どうして私たちはどんどん貧しくなるのか

木村正人在英国際ジャーナリスト
ロボットが人間の仕事を奪う(提供:アフロ)

ロボット大国ではなくなった日本

[ロンドン発]ロボットは今後10年間で世界の工場労働者の8.5%に当たる2000万人の仕事を奪っていく――。グローバル予測・定量分析会社オックスフォード・エコノミクスが26日、こんな報告書をまとめました。

かつては世界一のロボット大国ともてはやされた日本ですが、21世紀になってから10万ユニットもロボットが減りました。脱工業化と生産拠点の海外移転が進んだのが大きな理由です。

工場労働者1万人当たりのロボット導入数を報告書から見ておきましょう。

韓国631台

ドイツ309台

日本303台

米国189台

中国68台

もう日本はロボット大国ではありません。韓国の後塵を拝しています。

2000年以降、すでに約170万人の工場労働者の仕事が奪われています。中国で55万人、韓国34万人、米国で26万人、欧州連合(EU)で40万人、日本を含むその他の国々は計10万人です。

ロボット1台が工場労働者1.6人分の仕事を奪う

2030年までにロボット導入で仕事を失う世界の工場労働者は下のグラフのようになります。

オックスフォード・エコノミクスの報告書より
オックスフォード・エコノミクスの報告書より

日本国内でロボットの普及により最も深刻な影響を受ける都道府県は。

(1)鳥取(2)高知(3)奈良(4)滋賀(5)佐賀

最も影響を受けないのは。

(1)東京(2)北海道(3)大阪(4)福岡(5)宮城

同

東京ではすでにロボットによる自動化、無人化が進んでいます。大阪や横浜、川崎のような都市でも同じような傾向が見られます。ビールとスキーで有名な北海道は日本では最も工業化が進んでいない地域なのでロボット化による影響も少ないようです。

21世紀のロボット大国は中国

中国の使うロボットはすでに世界全体の20%を占めるようになりました。オックスフォード・エコノミクスは「2030年までには1400万のロボットが中国で働いている可能性がある」と予測しています。

ロボットに仕事を奪われた工場労働者はサービス産業や建設、交通、メンテナンスに移行せざるを得ませんが、ここでもロボット導入による自動化、無人化が進んでいます。自動化は経済成長を促し、人々の仕事を増やしてくれるのでしょうか。

オックスフォード・エコノミクスは平均して新しいロボット1台が導入されるごとに1.6人分の工場労働者の仕事が奪われるとして試算しました。単純労働に携わる人ほど影響を受け、失業率が高く、経済基盤が脆弱な地域は2倍近い打撃を被ります。

ロボットの導入コストは人件費より安くなり、11年から16年にかけて11%も下がっています。ロボットの性能も随分、向上しました。自動車産業では16年の時点で世界中のロボットの43%を使っています。

ロボットは産業の効率化を進め、2030年までに現在の経済成長率の予測を30%押し上げ、世界の国内総生産(GDP)を5%、つまりその時のドイツ経済と同じ4.9兆ドル(約526兆円)増やすとオックスフォード・エコノミクスは予測しています。

世界中で増えるワーキングプア

英国のシンクタンク、財政研究所(IFS)のポール・ジョンソン所長は英紙タイムズに「ワーキングプアの上昇は簡単に答えが見つからない複雑な問題だ」と題して寄稿しています。

1990年代半ばには、平均所得(中央値)の6割に満たない貧困層で働いている人のいる家庭は40%未満でした。それが最近では60%近くに達しています。英国のワーキングプアの大半は住宅の賃貸料が上昇し、賃金格差が広がった95年から2008年にかけて発生しています。

英国の失業率は3.8%と1970年代半ば(73年第3四半期3.4%)と同レベルまで下がっています。貧困率の上昇を善意に解釈すれば、以前より多くの人が働きに出るようになり、誰も働いていない家庭は生産年齢人口の2割から1割に半減したということになります。

1人親家庭の3分の1しか働いていなかったのに今では3分の2が働くようになりました。今日、英国では「老後破産」「下流老人」と高齢者の貧困問題が大きなニュースになる日本と違って75歳以上のお年寄りの収入は若い人と同じほど多いのです。

しかし90年代、働いている人のいる家庭では8人に1人しか貧困ではなかったのに今は6人に1人が貧困に苦しんでいます。

70年代半ばの英国も、欧州連合(EU)離脱を巡り真っ二つに分断している今の英国と同じで、決してハッピーではありませんでした。75年にはインフレ率は戦後最悪の25%以上に達し、失業率は次第に上昇し始めます。

貧しさから抜け出すために

IFSのジョンソン所長は2つの現象を指摘しています。

(1)所得配分

高所得世帯は20年前に比べて60~70%稼ぎが増えたのに対して、底辺の低所得世帯の稼ぎは10%しか増えていない。より多くの女性がフルタイムで働くようになり豊かになる一方で、多くの男性低賃金労働者がパートタイムで働いている。

(2)住宅費

低所得世帯の住宅費の負担は高所得世帯に比べて急激に膨らんだ。低所得世帯の持ち家率は25年前に比べて3分の1以上も減少している。

英国は全国一律の生活賃金(労働者が最低限の生活を維持するために必要な生計費から算定した賃金)を導入していますが、所得配分の機能を回復させるためには低所得の人たちが週48時間の範囲内で、もっと長く働けるようにしなければなりません。

そして低所得世帯の住宅費負担を軽くする公共住宅の建設を拡大する必要があります。

はたらけど

はたらけど猶(なほ)わが生活(くらし)楽にならざり

ぢっと手を見る

石川啄木『一握の砂』

ワーキングプアは何も今に始まった話ではありません。劇的な技術革新によって産業革命が起きると、所得と富の集中が起き、貧富の格差が広がってしまいます。

グローバル化とデジタル化によって産業構造が急激に変化しています。ロボットや人工知能(AI)に取って代わられないように、私たちは思いやりやオリジナリティー、創造性、人と人との心の結びつきの中での社会的能力にフォーカスしていく必要があります。

そのためには数字では計れない知と心を育てていく環境作りが不可欠になってきます。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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