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【小林麻央さん乳がん報道】乳がんは治るのか、わかりやすく解説

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
マンモグラフィーという乳がんの検査の写真(写真:アフロ)

9日、歌舞伎俳優の市川海老蔵(38)さんの妻でフリーアナウンサーの小林麻央さんが乳がんであると報道されました。そこで、乳がんについての質問に答えながら、なるべく専門用語は使わずにわかりやすく医師の立場から乳がんについて一般的な解説をします。小林麻央さんの病状などにはふれていません。

質問は以下の5つです。

Q1. 乳がんは命に関わるのか

Q2. 乳がんは治るのか

Q3. 乳がんは一種類なのか

Q4. 乳がんは遺伝するのか

Q5. 乳がんを予防する方法は

※記事中には乳がんの生存率や再発についてもふれています。乳がん患者さんやご家族、ご友人など、そういう情報を見たくない方は本記事は読まないで下さい。

Q1. 乳がんは命に関わるのか

A. ステージによります。

がんにかかると、まずは精密検査を受けます。がんによって検査は違いますが、乳がんの場合はマンモグラフィー(乳房のレントゲン)、超音波検査、場合によりCT検査やMRI検査、それに針生検(はりせいけん;がんを直接針で刺してがん組織を取り顕微鏡で見る)、骨シンチグラフィー(骨に転移がないかを見る)などです。

これらの検査結果で、「ステージ(=進行度)」が決まります。ステージはI、II、III、IVがあり、数字が進むにつれてがんが進行しているという意味になります。このステージは、手術前に一度「あなたは乳がんステージIIです」などと決まりますが、手術の結果でもう少しがんが進んでいたり逆に早期だったりすることがあり、手術後に変わることもあります。

では乳がんが命に関わるかどうか。基本的にすべてのがんは命に関わる可能性があります。この可能性を、5年生存率という言葉で医学は表現します。例えばステージIIの乳がんの人が100人いたら、5年後には何人生存しているかというものです。データをお示しします。

乳がんの5年生存率(全がん協HPより)
乳がんの5年生存率(全がん協HPより)

全国で約2万人の患者さんのデータを集めたものです。横軸はステージ、縦軸は生存率を%で示しています。数値は、ステージIで99.9%、IIで95.2%、IIIで79.5%、IVで32.6%です。ステージが進むと生存率が悪くなります。

次に10年生存率をみてみましょう。これは5年生存率の5年を10年にしたものです。

乳がん10年生存率(全がん協HPより)
乳がん10年生存率(全がん協HPより)

約4,400人の患者さんのデータを集めたこのグラフは、5年生存率よりやや悪くなっているのがわかりますね。数値は、ステージIで93.5%、IIで85.5%、IIIで53.8%、IVで15.6%です。

つまり、命に関わるかどうかは、ステージによって大きく異なると言えます。

Q2. 乳がんは治るのか

A. これもステージによります。

乳がんの多くは、手術や放射線療法などで一旦がんはすべて取り切れます。しかし、その後再発するかどうかを慎重にみていかなければなりません。再発とは、手術により目に見える大きさのがんがなくなった後、再びがんがどこかに(残っている乳房だったり肺など全く別の臓器だったり)出現することをいいます。乳がんは治療後3年までに再発することが比較的多いのですが、5年から10年を経過して起こることもありえます。一般的には初めて診断された時のステージが進んでいると、再発する率も高くなると言われています。また次の質問にも関係しますが、よりたちの悪いがんだと再発しやすくなります。

ですから、最終的に「乳がんが治った」と言うまでには10年、あるいはそれ以上の期間再発しなかったことを確認して初めて言うことができるのです。

Q3. 乳がんは一種類なのか

A. いろんなタイプがあります。

乳がんとひとくくりに言っても、実は様々なタイプがあります。そのタイプをたちの悪さ(=悪性度の高さ)でわけて治療することが、国際的に行われています。

引用します。

国立がん研究センターがん情報サービス がんの冊子 乳がんより引用
国立がん研究センターがん情報サービス がんの冊子 乳がんより引用

表の左にある青い「ルミナルA型」などと書いてあるのが、乳がんのなかの細かい分類です。これは医師によって診断されます。タイプによってどれだけ悪いかが違うので、それに応じた治療をします。表中の化学療法は、抗がん剤のことです。

Q4. 乳がんは遺伝するのか

A. 遺伝するタイプもあります。

アンジェリーナ・ジョリーという女優さんが2013年、予防的乳房全摘術(がんも何も病気が無いのに、手術で乳房を切除したということ)を受けたというニュースが話題になりました。ニューヨークタイムズ誌に掲載された彼女のエッセイによると、彼女の母親は56歳で乳がんで亡くなり、彼女自身はBRCA1という遺伝子の変異を持っていたので乳房を切除することにしたそうです。再建といって乳房を(おそらくシリコンなどの人工物で)作り直す手術を2ヶ月後にしたそうなので、現在彼女の胸は乳房の形をしていることでしょう。

このBRCA1という遺伝子は遺伝性の乳がんの原因になります。「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」と言い、名前の通り遺伝する乳がんや卵巣がんの症候群です。英語でHereditary Breast and Ovarian Cancerと言うので、専門家はHBOC(エイチボック)と略して呼んでいます。

引用します。

乳がんや卵巣がんの5-10%は、遺伝的な要因が強く関与して発症していると考えられています。

その中で最も多くの割合を占めるのが、HBOCです。

出典:日本HBOCコンソーシアム

日本でも医師の間で少しずつ広まってきたこのHBOCは、アンジェリーナ・ジョリーさんのように予防的な切除をすべきかどうかいま専門家たちの間で議論されているところです。ある人がHBOCである場合、乳がんにかかる可能性がその病気でない日本人と比べ6-12倍、卵巣がんにかかる可能性が8-60倍になると言われています。血の繋がったご家族に乳がんや卵巣がんの人がいる場合は注意が必要です。詳しく知りたい方は日本HBOCコンソーシアムホームページをご覧下さい。

Q5. 乳がんを予防する方法は

A. 確実な予防はありませんが、やった方が良さそうなことはわかっています。

この疑問に対するたくさんの研究が欧米でなされており、日本でも研究が行われました。その結果を下に示します。

日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」より抜粋
日本乳癌学会のWeb版「乳癌診療ガイドライン」より抜粋

この表は、

・閉経後の肥満は確実に乳がんになる危険性を確実に上げる

・閉経前の肥満と喫煙は乳がんになる危険性を上げる可能性がある

・運動や授乳、大豆やイソフラボン摂取は乳がんになる危険性を下げる可能性がある

ということです。

ここでの肥満はいくつかの数字が提示されていますが、確実にはBMIが30以上の場合です。BMIとはBody Mass Indexの略で、体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))で出すことができます。

さらに研究が進むと多少の入れ替わりなどはあるかもしれませんが、しいて乳がんの予防をするとしたらこの結果を気にして悪いことはなさそうです。

末筆ですが、小林麻央さん・ご家族や周りの皆様のご闘病を心より応援し、この稿を閉じたいと思います。マスコミによる加熱報道が早く収束することを祈っております。

※本記事は乳がん知識の啓蒙のために書いたもので、一般の方向けに書いています。全てエビデンスに基づいていますが、表現などに学術的な正確性は求めていません。

(参考)

全がん協加盟施設の生存率協同調査

http://www.gunma-cc.jp/sarukihan/seizonritu/

国立がん研究センターがん情報サービス がんの冊子 乳がん

http://ganjoho.jp/data/public/qa_links/brochure/odjrh3000000ul0q-att/144.pdf

国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービス 乳がん

http://ganjoho.jp/public/cancer/breast/diagnosis.html

日本HBOCコンソーシアム

http://www.hboc.jp/hboc/index.html

(追記)BMIの計算式が誤っていたため訂正いたしました。(6/11)

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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