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千葉ロッテが交渉権獲得した佐々木朗希の地元「大船渡」の今と地域の人の思いとは?

室井昌也韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表
千葉ロッテからドラフト1位指名を受けた佐々木朗希(写真:ストライク・ゾーン)

10月17日に行われたプロ野球ドラフト会議で、大船渡高校の佐々木朗希投手は4球団から1位指名され抽選の結果、千葉ロッテが交渉権を獲得した。

今春のU18日本代表候補合宿で球速163キロを計測し、以後、ドラフト会議に至るまで連日報じられた「大船渡高校」、「佐々木朗希」の名。

「大船渡」という地名を耳にする機会は増えたが、そこがどんなところかは知られていないと、この地にゆかりのある筆者は感じている。

大船渡の今、そして佐々木投手への地元の人の思いとは。現地で訊いた。

新沼謙治に次ぐ、地元の象徴になる?

岩手県の沿岸南部に位置する大船渡市は人口約36,000人、リアス(式)海岸でも知られる、漁港と水産業が中心の小さなまちだ。

47都道府県の中で北海道の次に大きい岩手県。東北新幹線が走る内陸部から大船渡へは車で2時間を要する。

新幹線の停車駅がある、県南部の一関から一般道を東に向かい、陸前高田を経てようやく大船渡市に入ると、国道45号線沿いに大きな看板が目に飛び込んでくる。

国道沿いの「新沼謙治のふる里」の看板(写真:ストライク・ゾーン)
国道沿いの「新沼謙治のふる里」の看板(写真:ストライク・ゾーン)

「ようこそ大船渡へ 新沼謙治のふる里」

大船渡の人から受ける朴訥さと温かさを、この土地出身の歌手の名を見て改めて実感する瞬間だ。新沼謙治さんは佐々木の中学の先輩でもある。

大船渡市で運送業を営む、大國物流の熊谷廣社長は自社の30周年パーティーの時に聴いた新沼謙治さんの歌声に感動。トラックの新車導入時、新沼謙治さんの所属事務所にかけあってCDジャケットと大船渡を紹介するデザインを車体に施した。

新沼謙治さんの写真と大船渡の紹介がラッピングされたトラック(写真:大國物流)
新沼謙治さんの写真と大船渡の紹介がラッピングされたトラック(写真:大國物流)

「今、大船渡の水産業は厳しい。さんまは前に比べて獲れなくなってきている。市の産業はセメントに頼っていて過疎が進むことも考えられる。これからの大船渡をどうするかと考えた時、碁石海岸をはじめとした観光で頑張っていくしかない。そのためにも大船渡をたくさんの人に知ってもらうために、このトラックを作ったんだよ」

岩手県の地図に大船渡の位置、「三陸はうまいぞ!」と記されたトラックは全国を走っている。

では地元をアピールする上で今後、佐々木をトラックに描く考えはあるのか。熊谷社長に尋ねると少し考えてこう答えた。

「飛躍したらな」

17歳の若者に過剰な期待をかけてはいけない、熊谷社長はそう思っている。

「大活躍するようになったら、“岩手・大船渡の星”って描きますよ」といって熊谷社長は笑った。

地元を離れて気づく豊かな自然

東北の有名なお菓子のひとつで、岩手のおみやげ物では定番になっている「かもめの玉子」。この商品を製造、販売するさいとう製菓は大船渡を代表する企業だ。

大船渡にあるさいとう製菓の定番商品「かもめの玉子」(写真:さいとう製菓)
大船渡にあるさいとう製菓の定番商品「かもめの玉子」(写真:さいとう製菓)

さいとう製菓は2年前に「かもめテラス」という店舗を大船渡市内にオープン。商品の販売だけではなく、カフェスペースやお菓子作りが体験できるキッチンを併設し、これまで市内に不足していた幅広い世代が集う、やすらぎの場を提供している。

さいとう製菓総務部の佐藤徳政さんは佐々木と同じく、大船渡市の隣、陸前高田市の出身。高校卒業後に故郷を離れ7年前に帰ってきた。

「前に住んでいた時は、何にもないところだなと思って東京に出ましたけど、戻ってきたら山、川、海と豊かな自然に恵まれていて、自然を堪能できる場所だと思うようになりました。釣りがしたいと思ったらすぐできて、いろんな港や入り江がある。贅沢です」。佐藤さんは地元を離れたことで、その良さを感じることができた。

佐藤さんの職場では佐々木の話題が上がることが多いという。「すぐそこにいる地元の清々しいニュースです」

だが佐藤さんもまた、佐々木にすぐの活躍を求めていなかった。「気仙(岩手県沿岸南部と宮城県気仙沼市周辺を指す)の人は寡黙でおとなしい。地元の希望の星ではあるけど、慣れるまでゆっくり成長して欲しいです」

佐々木を見守る地元の目線

「注目するが期待はし過ぎない」

大船渡の人の多くは佐々木のことを一歩引いて見守っている。その目線は故郷を離れる息子を送り出すようで温かい。

佐々木はドラフト指名会見で地元に向けて、「一生懸命プレーすることで恩返ししたい」と話した。

大船渡市内の会見場には100人を超える取材陣、部員、関係者などを合わせて200人以上が集まった(写真:ストライク・ゾーン)
大船渡市内の会見場には100人を超える取材陣、部員、関係者などを合わせて200人以上が集まった(写真:ストライク・ゾーン)

(関連項目:室井昌也 =できることをこれからもずっと= 時間がある時は、縁ある岩手県へ災害ボランティアに行っています

韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表

2002年から韓国プロ野球の取材を行う「韓国プロ野球の伝え手」。編著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』(韓国野球委員会、韓国プロ野球選手協会承認)を04年から毎年発行し、取材成果や韓国球界とのつながりは日本の各球団や放送局でも反映されている。その活動範囲は番組出演、コーディネートと多岐に渡る。スポニチアネックスで連載、韓国では06年からスポーツ朝鮮で韓国語コラムを連載。ラジオ「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」(FM那覇)出演中。新刊「沖縄のスーパー お買い物ガイドブック」。72年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。ストライク・ゾーン代表。KBOリーグ取材記者(スポーツ朝鮮所属)。

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