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王者・渡辺明名人(36)わずかにリードか? 名人戦七番勝負第2局2日目開始

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 4月28日。福岡県飯塚市・麻生大浦荘において第79期名人戦七番勝負第2局▲渡辺明名人(37歳)-△斎藤慎太郎八段(28歳)戦、2日目の対局が始まりました。

 対局室にはまず斎藤八段が姿を見せ、下座に着きます。続いて渡辺名人が上座にすわり、改めて駒を並べていきます。

 本局で記録係を務めるのは徳田拳士三段(23歳、小林健二九段門下)です。徳田三段は本局がおこなわれている福岡県のとなり、山口県(周南市)の出身です。2009年、小学生名人戦で優勝。現在は奨励会三段リーグで四段昇段を目指しています。

 山口県はアマチュア大会も数多く開催される将棋のさかんなところです。しかしなぜか現代、県出身の棋士は生まれていません。もし徳田三段が棋士となれば、地元将棋界もおおいに湧くことでしょう。

 渡辺名人、斎藤八段が駒を並べ終わったあと、徳田三段が前日の棋譜を読み上げていきます。

「先手、渡辺名人▲2六歩。後手、斎藤八段△8四歩。・・・」

 戦型は互いに飛車先の歩を突き合う相掛かりに進みました。

 1日目は50手目、斎藤八段が端1筋の馬を引いたところまで進みました。この手は飛車取りです。対して51手目、先手は6筋に飛車を逃げる手が予想の本命でした。

 本局の立会人を務めるのは塚田泰明九段。手元には渡辺名人から預かった2通の封筒があります。名人戦では第13期(1954年)から封じ手が2通作られるようになりました。

 塚田九段は左手ではさみを持ち、2通の封筒を開いていきます。封じ手用紙には3筋の「飛」の字が丸で囲まれ、左6筋にまで矢印が引かれていました。

塚田「封じ手は▲6五飛車です」

 渡辺名人の51手目は、ほぼ大方の予想通りでした。渡辺名人が飛車を動かしたあと、1分少しほどして定刻の9時を迎えます。

塚田「はい、それでは定刻になりましたので、対局を再開してください」

 斎藤八段はおしぼりを手にして、ゆったりとした動作で手を拭きます。斎藤八段も封じ手は当然予想していたでしょう。しかしすぐ指す気配はありません。カメラを手にしていた報道陣はここで退出しました。

 斎藤八段は11分ほど使って、読みの再確認をしたのでしょう。7筋の飛車を2筋に回し、飛車成を見せました。

 渡辺名人は斎籐陣の左サイドから6筋の斎藤玉を目指していきます。一方の斎藤八段は両サイドから中央5筋の渡辺玉を寄せていきます。

 現在の形勢は渡辺名人ややよしと見られています。しかしもちろん、勝負はこれから。第1局で斎藤八段が逆転勝ちを収めたのは記憶に新しいところです。

 10時半、両対局者にはおやつが出されました。

 斎藤八段はオレンジジュースを飲む際、マスクをはずして、ケースにしまいました。斎藤八段は奈良出身。マスクケースは鹿がデザインされたものです。

 時刻はそろそろ11時。斎藤八段は60手目を考え続けています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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