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気分はルマンレーサー!? 鈴鹿を走る珍しいレーシングカーたち

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
ネオヒストリックのレーシングマシン

2月23日(日)、鈴鹿サーキットで開催された4輪アマチュアレース「鈴鹿クラブマンレース」に行ってきた。鈴鹿サーキットの後半区間にあたる「西ショートコース」(約3.5km)でフォーミュラからハコ車まで様々なマシンがレースを展開したが、今回はなかなか目にする機会の少ない珍しいレーシングカーをお目にかけよう。

ルマンを彷彿とさせるマシンが走る!

「鈴鹿クラブマンレース」は鈴鹿サーキットを舞台に年間7戦が開催されるアマチュアレースのシリーズだ。かつては「シルバーカップ」「フレッシュマントロフィーレース」などと呼ばれ、プロレーサーへの登竜門的なシリーズだったが、現在は主に趣味でレースを楽しむ人たちの戦いの舞台になっている。

レース、モータースポーツと言うと、若者が若気の至りで嗜むものというイメージを抱く人が多いが、こういった参加して楽しむレースの年齢層は意外に高い。もちろん若手が参戦するフォーミュラカーのレースも開催されているが、それにも負けず劣らず熱いレースが展開されているのが大人が参加するレースだ。最近は50代、60代のシニア層のレーサーの数が増えてきている。

RS/ネオヒストリックレース
RS/ネオヒストリックレース

そんなシニアレーサーに人気のレースが、「RS/ネオヒストリック」というレース。RSはフォーミュラカーにスポーツカーカウルを被せたマシンで戦うレースで、ラップタイムはSUPER GTのGT300クラス並みの速さを誇る本格的なレーシングカーだ。

そして「ネオヒストリック」はそのフォルムがなかなかユニーク。60年代のルマン24時間レースや日本グランプリレースを戦った名車を彷彿とさせるデザインで、ノスタルジックな雰囲気を醸し出している。実はこのレースは50代、60代のシニア層のレーサーを主なターゲットにして展開されているレースで、60年代に少年時代を過ごし、当時のレースに憧れた人たちに人気になっている。

「ネオヒストリック」のマシンは全て鈴鹿市の「ウエストレーシングカーズ」製。同社が1000台以上のフォーミュラカー製作実績のノウハウを注ぎ込んだパイプフレームのレーシングカーだ。このレースが開催されているのは「鈴鹿クラブマンレース」だけであり、鈴鹿サーキット以外で目にする機会は少なく、非常に珍しいマシンといえる。

60年代日本グランプリの「トヨタ7」を彷彿とさせるネオヒストリックのマシン
60年代日本グランプリの「トヨタ7」を彷彿とさせるネオヒストリックのマシン

趣味としてレースを楽しむためのレーシングカー

「ネオヒストリック」のレースに参加するレーサーは趣味でレースを楽しむアマチュアの皆さんたちだ。最近は若者にまじってフォーミュラカーレースを楽しむ人も増えているが、「ネオヒストリック」に参戦するレーサー達は単にデザインに惹かれただけでなく、様々な理由からこのレースを選んで参戦している。その理由の一つは安全性。フォーミュラカーはタイヤが剥き出しになっているが、「ネオヒストリック」のマシンはタイヤがカウルに覆われたレーシングスポーツカータイプのマシン。フォーミュラカーの場合、タイヤとタイヤが接触した場合、マシンが宙を舞う可能性があるので危険度が高いが、レーシングスポーツカータイプならその心配が少ない。こういったレースを楽しむシニア層は会社の経営者だったり、ドクターだったりと社会的地位と責任が大きな職業のドライバーが多いので、安心してサーキットを走る事ができるのは大きなポイントなんだという。

気分はルマン24時間レースのレーサー? 夏には耐久レースも開催される。
気分はルマン24時間レースのレーサー? 夏には耐久レースも開催される。

そして、もうひとつは「コスト」に関する事だ。レース専用に作られた純正レーシングカーよりは、市販車を購入して改造する方が安くつきそうなイメージを抱く人が多いかもしれない。しかし、市販車をレース用に改造しても純正レーシングカーのようなスピード域までもっていこうとすると、相当なコストがかかる。ベースとなる市販車をハイスペックなものにしようとすると、どうしても1500万円以上はする外国製高級スポーツカーを選ばざるをえない。市販車は改造にお金をかければ、かけた分だけ速くなるが、クラッシュした時が困りもの。怖い思いをするばかりか、全損になれば数百万円から1000万円以上がヒラヒラーと飛んでいくことになる。

それに比べ、「ネオヒストリック」のようにレース専用に作られたレーシングカーは構造がシンプルで部品点数が少ないため、壊れた部分だけ交換すれば済む。しかも、レース前日の練習で壊してしまったとしても、メカニックがレース当日までには修復してくれて、レースに出場する事ができる。市販車をベースにしたクルマだとこうはいかない。結局、レーシングカーの方が速いし、安く済むというのを参加するドライバー達はよく知っているのだ。

意外と手軽なレース参戦の方法もある

「ネオヒストリック」のマシンは1台が450万円程度。サーキットでしか走れない「趣味のクルマ」としては、庶民が即決できる金額ではないだろう。しかしながら、鈴鹿市に点在するレーシングガレージ各社は、「ネオヒストリック」に限らず、フォーミュラカーなどのレーシングカーをレンタルして走らせたり、レンタルでレース参戦できたりするプログラムを用意している。体験走行だけなら10万円以下で済むし、レース参戦でも土・日で30万円程度に金額が設定されている。これにタイヤ代、ガソリン代、エントリー代などもかかるし、ヘルメットなどの安全装備もレース参戦には必要となるので、それなりにコストはかかるものの、購入に必要な数百万円がすぐに用意できなくてもレースに参戦する事は可能になっている。このレーシングカーをレンタルするというシステムで参戦しているドライバーも実は結構居る。

手軽に参戦できるシステムが充実してきたことで、最近は趣味でレースを楽しむ人たちが増え、選手の年齢層は昔に比べるとグンとあがっている。4輪レースに限らず、バイクレースでも、レーシングカートでも、60歳を越えた年齢の選手は今や普通になってきている。そういったシニアドライバーの方々は皆一様に年齢を感じさせないから不思議だ。とても60歳オーバーだとは思えないほど若々しいルックスをしていらっしゃる。レースやモータースポーツを通じ、日常生活では得られない刺激を得ることが、きっと若さの秘訣なんだろう。

鈴鹿クラブマンレース RS/ネオヒストリックレース
鈴鹿クラブマンレース RS/ネオヒストリックレース

高い年齢の選手が多いことに違和感を覚える人も多いだろうが、実はヨーロッパやアメリカなどのモータースポーツ先進国では60歳を越えた方々が趣味でレースを楽しむというのは昔からごく当たり前のこと。選手の年齢層が高めになったこともあり、最近のアマチュアレースの世界は実にジェントルな雰囲気で、和気あいあいとしており、笑顔で溢れている。こういう光景を見ていると、日本のモータースポーツもようやくヨーロッパやアメリカに近づいてきたのかなと感じるのだ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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