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今年も休止か? 年末の大型特番『笑ってはいけない』シリーズが今でも愛されている理由

ラリー遠田作家・お笑い評論家

7月22日に公開されたスポニチアネックスの記事によると、2020年まで日本テレビの年末特番として15年間放送され、昨年は休止されていた『笑ってはいけない』シリーズが、今年も放送されないことが21日に判明した。

『笑ってはいけない』シリーズは、人気番組『ガキの使いやあらへんで!』を母体とする特番であり、2006年から毎年大みそかに放送される年越し番組だった。

大みそかの日に放送される番組として最も有名なのは『NHK紅白歌合戦』である。年末の風物詩としてすっかり定着しているこの番組は、全盛期には視聴率80%を超えたこともある怪物番組だった。テレビ全体の視聴率が下がっている今でも、視聴率は30%を超えている。

そんな『紅白』という絶対王者の裏では、民放各局が毎年工夫を凝らしてさまざまな番組をぶつけてきた。だが、『紅白』の牙城を崩すには至っていない。そんな中で唯一、『紅白』と並んで年末の風物詩としての地位を確立していたのが『笑ってはいけない』シリーズだった。この番組は長らく同時間帯の民放1位の視聴率を獲得してきた。

「笑ってはいけない」というシンプルで奥深いルール設定

ダウンタウン、月亭方正、ココリコというレギュラー陣が、次々に襲いかかる「笑いの刺客」を前に、必死で笑いをこらえようとする。笑ってしまったら、尻を棒で叩かれるという罰を受けることになる。たったこれだけの単純な企画が、なぜこれほど長年にわたって多くの人に支持されてきたのだろうか。

その最大の理由は、シンプルにして奥深い「笑ってはいけない」というルール設定にある。笑ったら尻を叩かれるというこの企画は、ダウンタウンの松本人志の発案によるものだった。プロデューサーの菅賢治はこの企画を聞いた瞬間、「この人は天才なんだな」と確信したという。

笑ってしまったら罰を受けなくてはいけないというのは実に単純でわかりやすい。すっかり大御所芸人の立場になったダウンタウンが、尻を叩かれて悶絶しているところを想像するだけでも、そこには痛快な面白さがあることがわかる。

笑いは我慢することで増幅される

それだけではない。実は「笑ってはいけない」というルール設定には笑いを増幅させる効果がある。真面目な会議が行われているときや葬式に参列しているときなど、絶対に笑ってはいけない状況で、ふとしたことで笑いが抑えられなくなってしまった経験はないだろうか。

人は、やってはいけないと言われたことほどやってしまいたくなる性質を持っている。笑いはその最たるものだ。この番組で、絶対に笑ってはいけない状況に置かれているレギュラー陣は、誰よりも笑いたい状態にある。そこに「笑いの刺客」が襲いかかってくることで、彼らはついつい笑ってしまうことになるのだ。

さらに、笑いとは伝染力があるものだ。必死で笑いを我慢しているレギュラー陣の姿を見ていると、視聴者の方も思わず笑いそうになってしまう。「笑ってはいけない」というルールによって、出演者の笑いが増幅されると同時に、そのことで視聴者の笑いも増幅されるようになっているのだ。

もちろん、そこで笑いが起こるのは、「笑いの刺客」が繰り出すひとつひとつの仕掛けが面白いからだ。この番組では、笑いの刺客として芸人だけではなく俳優も登場する。普段ならバラエティ番組に出ないような大物俳優がキャスティングされることも多く、姿を現すだけで出演者と視聴者は驚かされることになる。

番組内で年越しカウントダウンをしない理由

また、この番組のコンセプトを象徴しているのが、年越しの瞬間の演出だ。年をまたいで放送される番組では普通、年越しの瞬間にカウントダウンが行われる。だが、『笑ってはいけない』シリーズではそれが一度もなかった。視聴者の立場からすると、笑いながら番組を見ているうちにいつのまにか年を越していた、ということになる。

ここには「年を越すことよりも目の前の笑いの方が大事」という番組側のこだわりが感じられる。今の時代、バラエティ番組でも「役に立つ」とか「感動する」というような、笑い以外の要素が求められることが多いものだが、『笑ってはいけない』シリーズではひたすら笑いだけを追求している。そのストイックな番組作りの姿勢こそが、視聴者から熱烈に信頼されていた理由だろう。

膨大な時間と手間と知恵がかかっている『笑ってはいけない』シリーズは、1年の締めくくりにふさわしいスケールの大きいお笑い番組である。今年放送されないというのは残念だが、いつの日か復活することを期待している。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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