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永瀬拓矢王座(30)防衛、4連覇! 豊島将之挑戦者(32)の挑戦を3勝1敗でしりぞける

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月4日。神奈川県秦野市「元湯 陣屋」において第70期王座戦五番勝負第4局▲豊島将之挑戦者(32歳)-△永瀬拓矢王座(30歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 9時に始まった対局は20時41分に終局。結果は184手で永瀬王座の勝ちとなりました。

 永瀬王座は3勝1敗(1千日手)で五番勝負を制し、王座防衛。4連覇を達成しました。

永瀬王座、角換わりシリーズを制す

 第4局もまた豊島挑戦者先手で戦型は角換わり。今シリーズは千日手局まで含めて、すべて角換わりとなりました。

永瀬「全局角換わりというシリーズで。腰掛銀から早繰り銀など、角換わりの中でも、けっこういろんな形を指せたんじゃないかなと思います。1局目がかなり準備不足で。そこからシリーズが始まってかなり厳しいと思いながら指していて。2局目以降は苦しくなってからもがんばれることがあったので。それで除々に好転したんじゃないかなと思います」

 研究の範囲内であれば早く指し進めていく両者。第2局は午前中のうちに終盤の93手まで進む異例のハイスピードの進行でした。豊島挑戦者の側によくなる順もあったようですが、それもまた難しく、夕食休憩後に千日手となりました。

 結果的にはこの千日手局が五番勝負のターニングポイントとなったようです。

豊島「(千日手局は)確かになんか、あとで調べたらけっこういろいろな筋があったんですけど。自玉に手を戻したときにどれぐらい安全になっているかがちょっとわからなかったんで。そうですね、この将棋が痛かったような気がします」

 第4局は豊島挑戦者先手で、角換わり腰掛銀に。後手の永瀬王座がセオリー通り待つ姿勢を取り、豊島挑戦者が仕掛けのチャンスをうかがいながら駒組が続きます。そして豊島穴熊、永瀬右玉という構図となりました。

永瀬「穴熊対右玉という将棋で。陣形下がる将棋で。こちらがかなり神経を使う将棋だったので。自信がないのかな、と思いながら指していました」

 千日手の可能性が現実味を帯びる中、昼食休憩前の75手目、豊島挑戦者は仕掛けていきました。

豊島「仕掛けが無理気味だったような気がします」

 豊島挑戦者が局後にそう語っていた通り、必ずしも成算があったというわけではないようです。

 永瀬王座は相手の駒が上ずったところで角を打ち込んで反撃。桂得の戦果をあげます。ただし豊島玉は堅く、難しい形勢が続きました。

豊島「(95手目)角を取り返したあとで、いろいろ選択肢があったと思うんで。まあでもちょっと桂損なんで、わるいかもしれないですけど、そのへんでなんかもうちょっと別の手段の方がよかったかもしれません。まあでも基本的にはなんか、ちょっと苦しい時間が長い将棋だったかなと思います」

 永瀬王座は豊島挑戦者からの攻めをていねいに受け止めます。いつしか駒台には10枚の歩が並んでいました。

 両者ともに5時間の持ち時間を使いはたし、あとは一手60秒未満で指す最終盤。169手目、豊島九段は龍取りに香を打ちます。

 龍が△1八龍などと逃げてくれれば▲5四金までで永瀬玉は詰み。永瀬王座はここで△3五玉と逃げました。▲3八香と龍を取られても△同馬で永瀬玉はつかまりません。以下は入玉がほぼ確定し、永瀬王座に負けのない形となりました。

永瀬「△2一香とかで入玉が確定してくれば、持駒はけっこう豊富ですので、そういう展開になれば後手玉が寄らなくなってきてるんじゃないかな、と思いました」

 穴熊に収まった豊島玉はここから入玉するのも大変ですし、仮に入玉できたとしても持将棋成立のための点数が足りないのは明らか。指そうと思えばまだ指し続けられるところで豊島挑戦者は潔く投了し、今期五番勝負に幕が下ろされました。

豊島「だんだん内容がわるくなってしまっていって。もうちょっといい将棋を指したかったんですけど。まあ実力不足だったのかな、というふうに思います」

 これからも長く続いていくであろう両者の対戦。ここまでの成績は豊島10勝、永瀬13勝となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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