金正恩エリート「やりたい放題のドラ息子」射殺事件の顛末
朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の首都防衛司令部は、文字通り首都・平壌を防衛する部隊だ。平壌市に入る道に設置されている10号哨所(検問所)など重要な箇所を管理するなど、絶大な権限を有している。
兵役の配属先として人気が高く、金正恩体制のエリートやトンジュ(金主、ニューリッチ)が、人事担当者にワイロを掴ませ、息子を配属させる事例が多い。一部の隊員は、規定の軍服ではなく、高級生地を使ったオーダーメイドの軍服を着たり、勤務時間に恋人とデートしたり、豪華な食事に舌鼓をうったりと、やりたい放題だ。
それは、上官への態度にも現れる。下戦士(二等兵)であっても、庶民の家の出で、叩き上げで幹部まで登りつめた上官を平気で馬鹿にするのだ。それが悲劇を招いた。平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
事件が起きたのは4月の初めごろ。首都防衛司令部直属の中隊の政治指導員は、軍幹部養成機関である金日成政治大学の政治指導員班の2年過程を修了後、中隊に配属された。
もともと彼は、91訓練所の警備兵だったが、数年前に総政治局のある幹部の娘が性暴力を受けていたのを助け出し、その御礼にと、この幹部から推薦を得て、金日成政治大学に入学できた。
しかし、中隊は金持ちのドラ息子どもが牛耳る伏魔殿だった。
彼は中隊の下戦士たちに「中隊ですべきことを討議しよう」と呼びかけたが、いくら上官と言えども、配属されてから1年も経っていない新人とあって、ある士官長(行政担当の特務上士、軍曹に相当)は、耳を傾けようとすらせず露骨に無視。課題を与えても全くやらないなど、政治指導員を徹底してのけものにしていた。
実弾訓練の評価の日。政治指導員は、士官長がぶつくさ文句を言っているのを聞いた瞬間、溜まりに溜まった怒りを爆発させ、拳銃に銃弾3発を込めて、その場で射殺した。彼はその場で逮捕された。
いじめに耐えかねて新兵が上官を射殺するという事例はしばしば起きているが、その逆のパターンは非常に珍しく、首都防衛司令部の特殊性が生んだ事件と言えよう。
事件発生後、政治指導員と関連する人物に対する調査が行われ、彼を金日成政治大学に推薦した総政治局の幹部が、降格処分を受けた。政治指導員がいかなる処分を受けたかについて情報筋は伝えていないが、もはや生きてはいられまい。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
総政治局は、政治大学や軍官学校(士官学校)に対して、能力、思想などの検証を受けた人物だけを入学させるように緊急の方針を下した。
金持ちのドラ息子が牛耳る首都防衛司令部に対して、何らかの検閲(監査)が行われたかは不明だ。