今年の世界10大リスク 膨らむ地政学上の危険 米中関係 無法のサイバー空間 欧州のポピュリズム
[ロンドン発]スーパーパワーなき「Gゼロ」後の世界を予測した米政治学者イアン・ブレマー氏が会長を務めるユーラシア・グループが7日、2019年「世界10大リスク」を発表しました。
(1)火種(Bad seeds)
(2)米中関係(US-China)
(3)無法地帯と化すサイバー空間(Cyber gloves off)
(4)欧州で広がるポピュリズム(European populism)
(5)米国の内政(The US at home)
(6)イノベーションの冬(Innovation winter)
(7)意思なき連合(Coalition of the unwilling)
(8)メキシコ
(9)ウクライナ
(10)ナイジェリア
(1)火種(Bad seeds)
Gゼロの影響で国際社会はリーダーシップを欠いている。地政学上の危険は今後数年間にわたって膨らんでいく。欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)、20カ国・地域(G20)、先進7カ国、世界貿易機関(WTO)、クレムリンの機能は低下し、米中関係、ロシアと近隣諸国の関係は悪化している。
(2)米中関係(US-China)
米中貿易戦争は昨年12月のG20で一時休戦となったが、懸念がくすぶり続けている。ワシントンと北京の間では修復できない根本的な何かが壊れてしまっている。
米国の政治支配層はもはや中国への関与政策は機能しなくなったと確信しており、公に対立的なアプローチを採るようになった。
(3)無法地帯と化すサイバー空間(Cyber gloves off)
今年は米国とイスラエルがイランの核施設にマルウェアのスタックスネットを使ったサイバー攻撃を仕掛けて10年。デジタル依存度が高まる一方で、ハッカーの手口はますます洗練されている。しかしサイバー空間での争いを解決する基本的なルールは確立されていない。
米国は今年初めて、もっと強力にサイバー上の能力(先制攻撃能力)を持つことで抑止力を持とうとする。しかし国家主体に対してサイバー抑止力は有効だが、ハッカーは非国家主体が主力になっている。
(4)欧州で広がるポピュリズム(European populism)
2009年のギリシャ債務危機以来、拡大したポピュリズムは2017年のフランス大統領選でエマニュエル・マクロン大統領が極右政党・国民戦線(現国民連合)のマリーヌ・ルペン党首を打ち負かしたことで後退するとみられていた。しかし5月に欧州議会選が行われる2019年、ポピュリストや反政府運動はかつてないほど勢いを増している。
(5)米国の内政(The US at home)
米国政治にとって今年はカオスの年になる。ドナルド・トランプ米大統領が弾劾されたり、辞任に追い込まれたりする可能性は低いが、政治的な脆弱性は極めて高い。
(6)イノベーションの冬(Innovation winter)
昨年も「地球規模のテクノロジー冷戦」がトップリスクの第3位に入り、テック競争は極めて政治色を帯びるようになった。今年は投資家も市場もその代償を払わされ始める年だ。最先端の技術革新に必要な資金や人材は政治によって後退し、世界は「イノベーション(技術革新)の冬」に向かう。深刻な結果がもたらされる。
(7)意思なき連合(Coalition of the unwilling)
第二次大戦後、米国が主導してきたワシントン・コンセンサスと呼ばれる世界秩序や制度はこの20~30年の間、風化してきた。トランプ大統領は、米国はもはやリーダーの役割を担うべきではないとして「米国第一」を唱えている。
しかしトランプ大統領を批判する人たちはこの戦略を「米国の孤立」と呼んでいる。ロシアやトルコ、北朝鮮、サウジアラビア、イスラエルの指導者はトランプ大統領を都合よく利用しようとしている。
(8)メキシコ
「メキシコを再び偉大な国に」と唱えて大統領に就任したアンドレスマヌエル・ロペスオブラドール氏は同国を再び1960~70年代に逆戻りさせる恐れがある。
(9)ウクライナ
ウラジーミル・プーチン露大統領は今年、新しい戦争を始めることを目標にしていないが、クリミア半島沖でウクライナ艦艇を拿捕(だほ)したことからも分かるようにウクライナを死活に関わる影響圏とみなしている。プーチン大統領は、ロシアはウクライナの未来に決定的な発言力を持つべきだと信じている。
(10)ナイジェリア(略)
(おわり)