0-34の大敗から22年。“校歌は韓国語”京都国際主将OBが語るセンバツ初出場の意味
第93回選抜高校野球大会(3月19日開幕)に京都国際高校が、春夏通じて初となる甲子園出場を決めた。昨秋の府大会で3位に入り、2年ぶりに出場した近畿大会で4強入りしていた。
多くのメディアで既報の通り、同校の前身は在日コリアンや韓国からの留学生が通う京都韓国学園。韓国系の外国人学校で、民族学校をルーツに持つチームが甲子園に出場するのは初めてのことだ。
学校の歴史を少し説明しておきたい。1947年に京都朝鮮中として開設され、58年に学校法人京都韓国学園になった。2004年から日本の学校教育法第1条の認可を受け、日韓両国から中高一貫校として認められ、京都国際中学高等学校となる。
同校ホームページを見ると“国際学校”の名の通り、教育目標は「世界で活躍する真の国際人の育成を目指す」と書かれている。さらに「韓国語、英語、日本語」のトリリンガルを目指すべく、語学にも力を注いでいる。
そうした流れから今では在日コリアンだけでなく、日本人も通う学校となり、“国際高校”としてのカラーは定着した。
ここで野球部の話に戻そう。同部OBで主将も務めた人物に会うことができた。
日本語と韓国語の選手宣誓に込めた思い
「夢の舞台にようやく立つことができました」
感慨深くそう語るのは2003年の高校3年時、同校野球部主将だった李良剛(イ・ヤンガン)さん。母校と後輩たちの甲子園出場を喜んでいるOBの一人でもある。
「創部当時、ほとんどが野球未経験者で、テニス部やその他の部活から選手をかり出して試合を行っていました。バッターボックスに立って、球を打ったあと3塁に走ったりした選手もいたと聞いています」
同部が創部されたのは1999年で、外国人学校の硬式チームとして初めて高野連に加盟。同年の夏の京都大会で、名門・京都成章と初戦で戦い、0-34の5回コールドで大敗。当時の京都成章に、現在の京都国際を率いる小牧憲継監督がいたというのは、今も語り草だ。
そこから練習を重ね、創部5年目の2003年夏の府大会ではベスト8入りを果たす。その時の主将が李さんだった。外国人籍の主将による韓国語と日本語の2ヶ国語での選手宣誓は、85年の高校野球の歴史上初めての出来事でメディアに大きく取り上げられた。
当時のことをこう振り返る。
「選手宣誓ができる1番くじを引いたときは、正直驚きましたが、記者から『どんな宣誓がしたいですか』と聞かれたときに、『韓国語と日本語でしたいです』と言いました。でも本当に2つの言葉で宣誓ができるのかは、高野連の判断だったので、許可が下りたときはうれしかったです」
宣誓は日本語で「魂、感謝、感動」、韓国語で「オル、カムサ、カムドン」とメッセージを送った。さらに「国境、人種、争いを超えて一つになる高校野球の感動をここ京都から伝えていきましょう」と韓国語で発信したという。
観客席からは大きな拍手が沸き起こった。
「京都韓国学園」の校名は2003年が最後の年。それだけに「自分たちのような学校もあるんだということを知ってもらいたかった。日本と韓国の関係がもっとよくなればという思いをメッセージに込めました」と振り返る。
監督の指導とプロ選手輩出で人材集まる
李さんは当時、両言語で宣誓ができた背景について今はこう思う。
「当時は2003年米国のブッシュ大統領が任期中で、イラク戦争真っただ中。高校野球を通じて、感動という喜びは国境、人種、争いを超えるという世界平和のメッセージを強く伝えたかった。また、それをきっかけに韓国と日本の両国の関係が良くなることも望んでいた記憶があります」
そうした歴史の中で、同校野球部は歩みを進めてきた。19年夏の京都大会では決勝で立命館宇治に2-3のサヨナラ負けを喫したが、今では京都屈指の強豪校へと成長した。
その理由について李さんは「小牧憲継監督が2008年に野球部に来てから、一人ひとりの強みを生かした指導がうまくいっているということ。もう一つは、プロ野球選手を輩出して、優秀な選手が集まりやすくなったことも大きいと思います」と語る。
同校のプロ1号は韓国からの留学生で、08年にドラフト4位の申成絃(シン・ソンヒョン)。曽根海成(広島)や上野響平(日本ハム)も同校出身。20年のドラフトでは早真之介がソフトバンク、釣寿生がオリックスへ入団した。
創部当時は“初心者集団”だったのが嘘のような歴史である。
2019年に中継で流れた韓国語の校歌
もう一つ、気になっていたのが、校歌が韓国語という話題だ。現在の部員が「韓国語は授業で習っていますが、歌は難しい。春までには歌えるようにしたい」と話していたが、勝利すれば韓国語の校歌が流れることになる。
個人的にはものすごく不思議な光景に映るのだが、その校歌が実際にNHKのテレビ中継で流れている。2019年7月の全国高校野球選手権京都大会の準決勝で、京都国際は京都共栄に勝利したあと、選手たちが校歌を斉唱。画面には韓国語の校歌のテロップと日本語訳が確認できた。
「私も当時は韓国語でそのまま歌っていたので、そこまで意識はしていませんでしたが、甲子園で流れる校歌なので聞く人たちの反応がどうなのかなと気にはなります。今の選手たちはただ野球がしたくて、京都国際に来ているわけで、たまたま通う高校の校歌が韓国語だっただけです。これからは様々な人種の多様性を認めて、それぞれの国を理解しあって、共存していくのが大事。校歌が韓国語なら、日本語訳もつけるなど対応すればいいと思います」
様々な意味で注目の京都国際高校野球部だが、まずは「甲子園での1勝を見たい」と李さん。同校卒業生たちもきっと同じ思いに違いない。