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【東名高速バス事故からの警鐘】 そのとき貴方ならどうするか!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
普段は安全に思える高速道路だが……(写真:アフロ)

6月10日に愛知県の東名高速道路で、中央分離帯を飛び越えた乗用車が観光バスに衝突し、乗用車のドライバーが死亡。バスの乗員・乗客が重軽傷を負った事故が発生しました。

新聞やニュースなどで大きく報道されましたが、バスの乗員・乗客に死者が出なかったことは不幸中の幸いと言えるでしょう。

中央分離帯の盛り土がジャンプ台に

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事故から数日が経過して、いろいろなことが分かってきました。バスに搭載されていたドライブレコーダーに記録された事故の瞬間の映像が公開されていますが、何の前触れもなく、いきなり対向車線からクルマが宙を舞いながらカメラのほうに飛んでくる様子が映し出されています。

乗用車を運転していたのは男性の医師(62)で、やや下った緩い右カーブで路肩のガードレールに接触後、その反動で右斜めに横滑りしつつ、中央分離帯に設けられた盛り土の斜面がジャンプ台となって分離帯を飛び越えたと見られています。

現場の調査から、運転者は飲酒や著しい速度超過もしていなかったようですし、普段から通い慣れた道で何故運転操作を誤ったかは不明ですが、不慣れな代車の影響もあったのではとの指摘もあります。

バス運転手の咄嗟の判断が被害を低減

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一方、奇跡的に死者の出なかったバス側については、幸運に加えバス運転手の的確な判断が多くの人命を救ったようです。

対向車線から飛び出してきたクルマとの衝突速度は200km/h近いと思われます。まともに正面衝突していればさらに大惨事になったところですが、バスの右上部に乗り上げる形でクルマが落下したことで衝撃がある程度緩和され、また最新型のバスで運転席周辺が強固な作りになっていたこと、乗客へのシートベルトの徹底が被害の低減につながったようです。

さらにバスの運転手(68)が咄嗟にハンドルを左に切って衝突を回避しようとしたことが功を奏し、まともな正面衝突を避けられたと見られています。

もし乗用車がフロントガラスを突き破っていたら被害は甚大だったはずです。

そのときライダーは何ができるか

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不可抗力とも言える事故ですが、実際にこのようなシチュエーションに遭遇したとき我々は一体どうすればよいのか。ライダーの立場から考えてみたいと思います。

まず対向車が宙を飛んでくるというのは、確率としては万に一つの出来事でまったく想定外としか考えられません。

ただ、事実として今回こうしたアクシデントが発生していますし、これが自分の車線内で起こる追突や横転などの事故、落下物などの可能性として考えれば、その確率はぐっと現実的なものとなるでしょう。

反応するまでに1秒かかる

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クルマやバイクの運転技能の中で急制動というものがあります。危険を認知してなるべく短い時間と距離で止まるスキルです。

危険を発見してから実際に操作を開始する(ブレーキが効き始める)までの時間を「反応時間」と言い、個人差はありますが一般的には1秒程度かかると言われています。ちなみに刺激に対する単純な反射時間は0.2秒程度だそうです。

ドライブレコーダーの映像をあらためて検証してみると、中央分離帯を越えた乗用車を認知してからバスに激突するまでの時間は1秒もありません。

また、車内の映像には衝突の直前に運転手が頭をかがめながらハンドルを左に切る様子がはっきりと映し出されています。

今回の事故では、バスの運転手の咄嗟の判断とハンドルさばきによって多くの人命が助かりました。プロドライバーとしての長年の経験と運転スキルに裏付けられた素早い危険回避行動は見事としか言いようがありません。

また結果論ではありますが、バスが左側の「走行車線」を走っていれば衝突をギリギリ回避できたかもしれません。その意味ではやはり対向車線により近い「追い越し車線」はリスクが高いと言えるでしょう。

2秒が安全マージンの分かれ目

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交通事故の分析によると、走行速度の2秒分の距離がある場合、事故発生率が低くなると言われています。つまり2秒分の車間距離があれば、安全マージンがだいぶ増えるということです。具体的には100km/hなら約56mということで、確実な安全車間を確保するにはさらに距離が必要になります。

高速道路であれば、道路脇にある距離標識や路面の白線などを目安に日頃から距離と時間の感覚を意識しておくことが大事でしょう。

最後の砦は「逆操舵」テクニック

そして、万が一のそのときの場合。前方に危険を発見したら、通常は反射的にブレーキをかけるはずです。ただ今回のような場合はブレーキをかけて減速しても巻き込まれる可能性が高く、進路を変えて回避する方法がより効果的と思われます。

クルマであれば急ハンドルを切るということになりますが、バイクの場合は「逆操舵」というテクニックがこれに当たります。

白バイ訓練などでも必須科目となっている「選択回避制動」の中でも使われるもので、回避する際に曲がりたい方向とは逆にハンドルを一瞬切ることで、俊敏に車体の向きを変える方法です。

白バイ隊員による選択回避制動
白バイ隊員による選択回避制動

実際にはステップへの入力や外ヒザによる押し込みなども同時に使っていく高度な技ですが、こうしたスキルを身に付けておくことで危険に対して反射的に反応できる可能性が高まります。

もちろん、だからといって完全に事故を回避できるものではありませんが、最後の砦として知っておいていただければと。ちなみにこうした安全運転スキルは、安全運転講習会やライディングスクールなどで習得できます。

逆操舵はバイクが曲がるきっかけを積極的に作り出す操作(筆者による講習会での実演)
逆操舵はバイクが曲がるきっかけを積極的に作り出す操作(筆者による講習会での実演)

より早く危険を発見・回避できる環境を自ら作る

ということで、まずはより早く危険を発見し、正確に判断して余裕をもってリアクションできる環境を作りながら走ることが重要です。

自分の周囲にセーフティゾーンを作りながら走行することで危険を遠ざける「防衛運転」の発想そのものです。その意味でも、広い視界と適切な速度、十分な車間距離を意識するという当たり前のことを日々心掛けることが大事ですね。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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