市川海老蔵さんによる「勧進帳」等商標登録出願が不服審判でも拒絶に
今年の3月に「市川海老蔵さんによる”勧進帳”商標登録出願が拒絶、拒絶理由は何か?」という記事を書いています。市川海老蔵さんが代表取締役を務める株式会社成田屋を出願人として商標登録出願されていた、歌舞伎の有名演目「勧進帳」、「助六由縁(ゆかりの)江戸桜」、「暫(しばらく)」が拒絶査定となり、不服審判が進行中というお話でした。その不服審判の結果(審決)がつい先日の8月3日に出ました。結果は3件とも請求棄却(拒絶)です。
以下、「勧進帳」(商願2020-071075)の出願について流れを説明しますが、残りの2件もほぼ同様です。
審査段階における拒絶査定の理由は、「勧進帳」が消費者には演目として認識される商標なので、指定役務(「演芸の上演」等)との関係で品質表示に過ぎず、登録できないというものでした(ジュースを指定商品にして「アップル」を商標登録できないとの同じ理屈です)。
ここで、商標法の規定では、品質表示に過ぎない商標であっても、出願人の長年の使用により識別性を獲得している(ほとんどの消費者がこの商標ならあの会社(人)と認識するレベルに至っている)のであれば例外的に登録されます。当然に、出願人は、この主張を行ったのですが、証拠なしに主張しているだけだったので審査段階では受け入れられませんでした。
審判の続審である不服審判では、この使用による識別性獲得を主張するための証拠がちゃんと提出されたのですが、拒絶査定を覆すに至りませんでした。「勧進帳」を演じてきたのは成田屋(市川宗家)に限らないからです。たとえば、「(勧進帳は)市川團十郎家のお家芸でありながら、松本幸四郎家のお家芸ともなっています」(歌舞伎の達人ウェブサイト)等、特許庁の職権調査による多数の証拠が示されています。
なお、この後、海老蔵さん側が知財高裁に審決取消訴訟を提起して、さらに登録を目指すことも可能ですが、「勧進帳」が市川宗家以外の人々にも演じられており、それなりに認知度もあるという多数の証拠がある以上、審判における判断を覆すのは難しいのではと思います。
また、念のために書いておきますが、「勧進帳」の商標登録出願が拒絶されたということは「勧進帳」という商標が使用できなくなったということではありません。特定の人に独占されることなく、誰でも使用できるようになったということです。