英・EU離脱 米NYに金融センター世界一を譲り渡したロンドン 最大1万2000人の雇用失う
[ロンドン発]英国の欧州連合(EU)離脱を巡る協定書と政治宣言の採決が1月29日、再び英下院で行われます。
ロンドンは米ニューヨークに世界一の金融センターの座を明け渡しました。金融街シティー・オブ・ロンドン(以下シティー)の行政責任者キャサリン・マクギネス氏は筆者の単独インタービューに「EU離脱でシティーは最大で1万2000人の雇用を失う」と答えました。
――合意なき離脱が起きた場合、どんな事態を想定していますか
「金融セクターはすでに合意なき離脱に備えた対策を講じていますが、通関、ビジネス、国境を超えた金融市場、特に複雑な保険の円滑な移行、国境間のデータのやり取りに支障が生じることを懸念しています」
「英議会が合意なき離脱を支持していないのは明らかです。しかし、これは独りで決められることではありません。事実上の合意なき離脱に追い込まれることもあるからです」
(筆者)シンクタンクのZ/Yenグループ(ロンドン)と中国開発研究所(深セン) が年2回発表している「国際金融センター指標」で昨年9月、ロンドンは3年半ぶりにニューヨークに抜かれて2位に転落しました。
EU離脱への先行き不安からロンドンはレーティングを8ポイントも落とす一方、欧州のライバルであるチューリッヒやフランクフルト、アムステルダム、ウィーン、ミラノは劇的に順位を上げています。
香港やシンガポール、上海も激しく追い上げており、英国が「合意なき離脱」に追い込まれると3位に転落する恐れすらあります。
米中の貿易戦争で香港、上海は伸び悩む恐れがあり、英国はニューヨークやシンガポールと競争すると同時に連携を強めていかなければなりません。
――2016年の国民投票で有権者が離脱を選択したあと、シティーにどんな変化が起きましたか
「合意なき離脱に備えて策定した非常事態対策の実施を加速しているところです。そんなに大きな従業員のシフトは起きていませんが、3000~1万2000人が移動しつつあります」
(筆者)英国では110万人が金融業に従事しています。すべての仕事の3.2%です。2017年、金融サービスの英国経済に対する貢献度は1190億ポンドで、国内総生産(GDP)の6.5%。このうちロンドンが半分を占めます。
「小企業や規制対象外の業者は合意なき離脱への備えが十分ではありません」
「国境をまたぐデータのやり取りに支障が出ないか、特に心配しています。EU離脱後に一般データ保護規則(GDPR)に基づいて十分性認定国になる必要があります」
――英国がEUから離脱すると、金融機関が単一の免許で自由にEU域内の業務ができる単一パスポートを使えなくなります
「金融パスポートのアレンジメントはもちろん必要です。それ以外に何が起きるのか確かなことは分かりません。私たちは英・EUの相互認証アプローチを議論してきました」
「テリーザ・メイ英首相のチェッカーズ(離脱案)ではEUの規制を複製してこれまでと同じように単一市場へのアクセスを維持することを目指しています。今はいくつかのモデルがあり、どうするかは政治家の手に委ねられています」
――EU離脱交渉の結果は最終的にどうなるのでしょう
「それは分かりません。政治家が現実的になることを願っています」
――貿易協定に比べて、金融業についての議論が全く盛り上がらないのはどうしてですか
「離脱協定が承認されてからでないと議論できないからでしょう。そのためにも合意なき離脱を回避する必要があります」
――日本との連携はどうなっていますか
「EU離脱についての日本(安倍晋三首相)の率直な対応には感謝しています。東京都と金融分野のイベント、グリーンファイナンス、高齢者向けアセットマネジメントの連携で覚書を交わしました」
――EU離脱後の見通しはどうですか
「短期的には不確実で混乱も予想されますが、長期的に見た場合、自信があります。今後10年間、シティーは世界をリードする金融センターであり続けます」
(筆者)シティーが本当に恐れなければならないのは「合意なき離脱」を除けば、タレントの人工知能(AI)産業への流出なのかもしれません。
(おわり)