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レイプ犯をかばったアシュトン・カッチャー夫妻に批判殺到。謝罪するも「下手な演技」#性加害

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
カッチャー夫妻はレイプで有罪となったダニー・マスターソンの友人(写真:ロイター/アフロ)

 レイプで有罪となったダニー・マスターソンに30年の懲役が言い渡される前、アシュトン・カッチャーと妻ミラ・クニスは、判事に向けて、量刑を軽くして欲しいというお願いの手紙を書いていた。その事実が報道されて以来、ソーシャルメディアには、カッチャー夫妻に対する非難のコメントが多数寄せられている。

 カッチャー、クニス、マスターソンは、1998年に始まったコメディ番組「ザット’70sショー」で共演した関係。8年間も一緒に仕事をした彼らは、仲の良い友達だ。

 マスターソンに対する刑事裁判は昨年末に一度行われるも、陪審員の意見が一致せず無効裁判となり、今年5月に再度行われた裁判で有罪判決が出たのだが、そのふたつの裁判の間に掲載された「Esquire」のインタビューで、カッチャーは、被害を受けたという女性たちへの配慮を見せながらも、「彼が無実になることを願っている」と言い、将来いつかマスターソンの子供がこの容疑について読むことになるのだろうと心配していた。そんなカッチャーの願いはかなわず、新たに行われた裁判で、マスターソンは陪審員から有罪判決を与えられることになった。

 しかし、その後でもまだ、カッチャーとクニスはまだ友人を支えていたのだ。「Variety」が報じるところによれば、カッチャーは、判事への手紙に「ダニーは親切で、礼儀正しく、仕事熱心です。クルー、俳優、ケータリングの人たち、みんなを平等に扱います。彼はすばらしいお手本です」「ふたりをレイプしたとして有罪になったことは存じていますが、量刑を決めるに当たっては、彼の人柄も考慮していただけることを願っています。彼は社会に害を与える人ではありません。彼の娘がお父さんなしで育つのは、それ自体、正しくないと思います」と書いている。一方、クニスは「ダニー・マスターソンはすばらしい人で、私をはじめ、彼の周囲の人たちにポジティブな影響を与えてくれました」と褒め、マスターソンが違法ドラッグをやらないという意志を貫いてきたことは彼の周囲の業界人に良い影響を与えているとも述べた。

「ザット'70sショー」の共演者たち
「ザット'70sショー」の共演者たち写真:Shutterstock/アフロ

 この夫妻だけではなく、ほかの共演者やマスターソンの親族も、同様の手紙を送っている。それでも、カッチャー夫妻に対する世間の反応はかなり厳しい。X(旧ツイッター)には、「まだ連続レイプ犯を支えるのか」「彼が社会の害かどうかではない。大事なのは被害者のための正義だ」「彼の娘がお母さんだけに育てられることになるのは、本人のせいでしょ」「レイプされた女性たちだって、誰かの娘だよ。その人たちよりダニーの娘を優先してくれと判事に言っているの?」「自分はレイプされていないんだから、そう言うのは簡単だよね」などというコメントが見られる。デミ・ムーアと結婚していた時、カッチャーはムーアと共に、売春のための人身取引に抗議する慈善活動に熱心な様子を見せていたことから、「あの活動は見せかけだったわけだ」と皮肉るものもある。

インスタグラムで謝罪も反応は厳しい

 カッチャー夫妻に寄り添うコメントはほぼなく、「これで彼らのキャリアは終わり」などという言葉まで見られたが、夫妻と彼らの広報担当者は黙って様子を見つめていたわけではなかったようで、その報道から24時間経たないうちに、夫妻はインスタグラムを通じて公に謝罪した。

 白のTシャツを着たカッチャーと、ポニーテールにブルーのTシャツ姿のクニスは並んで座り、「私たちがダニー・マスターソンのために書いた手紙がみなさんを不快な思いにさせてしまいました」という言葉で1分弱の動画を始めている。その中で、ふたりは、あれらの手紙はマスターソンの家族に頼まれて書いたもので、「私たちが25年にわたって知ってきた人物の人柄を語るもの」であり、「陪審員の出した判決の有効性を疑うものではありません」と述べた。また、判事だけに読んでもらうつもりだった手紙のせいで被害者がまたトラウマを受けることになってしまったとしたら申し訳なかったとも言い、「私たちは、性暴行、性的虐待、レイプの被害に遭ったすべての人たちの心に寄り添います」との言葉で動画を締めくくっている。

(アシュトン・カッチャーのインスタグラムより)
(アシュトン・カッチャーのインスタグラムより)

 このインスタグラムの投稿にはコメントが書き込めないようにされているが、X(旧ツイッター)を見るかぎり、効果は薄いようだ。

「ばれたからまずいと思っただけでしょ」「複数の女性をレイプして有罪になった人がどんなにすばらしい人かと讃えるのは、そもそも良いアイデアじゃないね」「次はレイプ犯の味方をする手紙は書かないようにすることだね。彼らは大人として自分で判断した。その結果は受け入れるべき」などという辛辣なコメントが並んでいるのである。さらに、「動画を見たけど、ミラ・クニスは怒ったような顔をしているよね。彼らは悪かったとは全然思っていないよ」「これは(最悪の映画、演技に送られる)ラジー賞ものだ」と、この動画の彼らは謝っている演技をするもので、しかも下手だと指摘するものもあった。これはかなり痛い。

カッチャーは過去にもスキャンダルが

 カッチャーとクニスの間には来月で9歳になる娘がいるし、ムーアと結婚している間、カッチャーは、ムーアとブルース・ウィリスの間に生まれた3人の娘を大切にしていた。それだけに、長年の友人のため、また公になるはずがない手紙だったとはいえ、有罪が確定した後に、被害者でなくレイプ犯をかばったというのは、理解に苦しむ。しかも、この刑事裁判の対象になった被害者は3人ながら、声を上げた女性はほかにもいるのだ。声を上げなかった女性もいるかもしれず、マスターソンはかなり常習的にやってきたと思われる。ほかの人たちが指摘するように、そんなところに来てマスターソンの娘さんがかわいそうだというのは、感覚がずれている。

 カッチャーは過去にもスキャンダルがあった。2012年には顔を茶色に塗り、インド人の訛りでしゃべる役を広告で演じてインド系アメリカ人のコミュニティから大きな怒りを買ったし、15歳上のムーアと結婚していた時には、サンディエゴに住む22歳の女性との不倫が暴かれている。しかも、彼がその女性と情事を持ったのは、ムーアとの結婚記念日だった。それがメディアによって暴露されてまもなく、ムーアは離婚を決めている。

結婚していた頃のデミ・ムーアとアシュトン・カッチャー
結婚していた頃のデミ・ムーアとアシュトン・カッチャー写真:ロイター/アフロ

 アメリカでは、不倫をしたからといってキャリアが直接の大きなダメージを受けることはほぼない。だが、今回の場合はどうなのか。「#MeToo」運動が起きた後のアメリカで、性被害を受けた女性に寄り添わない人へのバッシングは強い。とは言っても、レイプをしたのは彼らの友人であり、彼ら自身ではない。

 カッチャーにも、クニスにも、近々公開予定の新作はないし、仮にあったとしても、今は俳優のストライキ中で、誰も宣伝活動ができない。それは彼らにとって幸いだ。その間静かに隠れていれば、出てきた時に人は忘れてくれているだろうか。そうなって欲しいと、本人たちは切に願っているに違いない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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