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レイプで有罪のハリウッド俳優に懲役30年

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ダニー・マスターソン(左)とアシュトン・カッチャー(写真:Shutterstock/アフロ)

「#MeToo」の歴史が、またひとつ節目を迎えた。3人の女性をレイプした容疑で起訴され、うちふたりに関して有罪とされたハリウッド俳優ダニー・マスターソンに、ひとりにつき15年、30年の懲役が下されたのだ。仮釈放があったとしても25年半が経ってからとのことで、現在47歳のマスターソンは、残りの人生のほとんどを刑務所で過ごすことになる。

 有罪となったふたりの女性に対するレイプ事件が起きたのは、2003年。もうひとりの女性はマスターソンの元恋人で、2001年に被害を受けたと訴えていたが、この件が有罪か無罪かについて陪審員の意見がまとまらなかった。被害女性のひとりは、「今もまだあの夜あなたにされたことに苦しめられています。一生カウンセリングを受けないと癒やされないでしょう。もう大丈夫かと思うたび、あのレイプのことがまた思い出されるのです」と述べている。もうひとりの女性も、PTSDと診断されたと述べた。

 マスターソンはニューヨークのロングアイランド生まれ。子供の頃からモデルやコマーシャルの仕事をこなし、16歳になるまでに100本以上のコマーシャルに出演した。代表作は、アシュトン・カッチャーと共演したコメディ番組「ザット ‘70sショー」と、やはりカッチャーと共演するNetflixの「The Ranch ザ・ランチ」。出演した映画には、ジム・キャリー主演の「イエスマン“YES”は人生のパスワード」などがある。妻は女優のビジュー・フィリップス。

 3人の女性の被害について警察が彼への捜査を始めたのは、2017年3月のこと。その年の10月に「#MeToo」が起き、12月に4人目の女性が声を上げると、Netflixは「The Ranch〜」からマスターソンを降板させた。そのすぐ後に5人目の被害者が登場すると、マスターソンは所属する大手タレントエージェンシーから契約を打ち切られている。

 今回の刑事裁判の対象である3人の女性をハリウッドヒルズの自宅でレイプした容疑で起訴されたのは、2020年1月。3人とも、マスターソンに薬を入れたドリンクを飲まされ、抵抗できない状態にされて襲われたと証言している。マスターソンも、被害女性たちもサイエントロジーの信者。セレブリティであるマスターソンは教会の中で大事にされており、女性たちは教会に「あなたたちはレイプをされていない」と言われ、警察に通報しないよう説得されたと述べている。

裁判所に出廷したダニー・マスターソン
裁判所に出廷したダニー・マスターソン写真:ロイター/アフロ

 それでも被害を訴えた結果、3人の女性たちはさまざまな嫌がらせを受けたという。今では教会を離れ、ほかの被害女性たちと共に、マスターソンと教会をハラスメントとストーカー行為で民事訴訟している。マスターソンの弁護士は、性行為は合意の上だったとし、女性たちがマスターソンと教会を貶めるために計画的に口裏を合わせたのだと主張。陪審員にも、サイエントロジーのことに気を取られないようにしてほしいとお願いしていた。マスターソンは、控訴をする構え。女性たちは薬を入れたドリンクを飲まされたと言っているが、その証拠がないところを重点的に主張してくるものと思われる。

ワインスタインはNYで懲役23年、LAで16年

「#MeToo」運動が起きて以来、ハリウッドでは多くの男性による過去のセクハラ、性加害が暴かれたが、刑事裁判にまでなったケースは限られている。80人以上の女性が名乗り出て「#MeToo」のきっかけとなったハーベイ・ワインスタイン(71)は、2020年、ニューヨークの裁判所から23年の懲役を言い渡された。さらに今年3月には、ロサンゼルスの裁判で懲役16年を言い渡されている。ニューヨークでの判決については、控訴をすることが認められている。

 一方、ケビン・スペイシーは、アメリカでは刑事捜査がなされるも、裁判には至らなかった。しかし、今年夏には、オールドヴィック・シアターの芸術監督を務めた2004年から2013年の間に起きたとされる複数の性加害の容疑で、イギリスで刑事裁判にかけられている。最長で無期懲役の可能性もあったが、陪審員は彼に無罪を言い渡した。悲願のこの判決を手にしたのは、偶然にもスペイシーの64歳の誕生日だった。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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