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教育勅語を擁護、森友学園化する安倍政権ー自民党改憲草案と教育勅語に類似点も

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
稲田朋美防衛大臣の国会答弁に批判が高まっている。(写真:つのだよしお/アフロ)

国有地が不正に払い下げられた疑惑で世間を騒がしている森友学園では、運営する塚本幼稚園で、園児に教育勅語を朗読させていたことも問題になった。これに絡み、稲田朋美・防衛大臣は、先週8日の参院予算委員会で、「教育勅語の核の部分は取り戻すべきだ」と発言。過去に、幼稚園での教育勅語の朗読を「適当でない」とした文科省に対し「どこがいけないのか」と問いただしたことも明らかにした。

さらに今週14日、松野博一・文部科学大臣も「憲法や教育基本法に反しないように配慮して授業に活用することは一義的にはその学校の教育方針、教育内容に関するものであり、教師に一定の裁量が認められるのは当然」と発言した。教育勅語の何が問題なのか。原文やその歴史的経緯から考察してみれば、教育勅語こそ、安倍政権が求める「都合のいい国民」をつくるための教材であることがわかるだろう。つまり、

・本来は国民の権利を守るため権力を縛る憲法を、国民を従わせるためのものに変える

・有事の際に自らの危険を顧みず、権力に命を捧げる国民をつくる

・格差や貧困が深刻になっても、文句を言わず権力のために尽くす国民をつくる

ということである。

〇教育勅語とは何か、その中身は?

教育勅語とは、1890年、山縣有朋内閣の時にまとめられ発布された、国家が推奨する道徳的指針。「明治天皇の言葉」とされ、特に戦中、軍国教育の要とされた。そのような経緯から、1948年、衆参両院は排除や失効を決議している。では、具体的に教育勅語には何が書かれているのか、何が問題なのか。原文を引用しよう。

朕惟フニ我カ皇祖皇宗国ヲ肇ムルコト宏遠ニ徳ヲ樹ツルコト深厚ナリ我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ億兆心ヲ一ニシテ世々厥ノ美ヲ済セルハ此レ我カ国体ノ精華ニシテ教育ノ淵源亦実ニ此ニ存ス爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ恭倹己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ学ヲ修メ業ヲ習ヒ以テ智能ヲ啓発シ徳器ヲ成就シ進テ公益ヲ広メ世務ヲ開キ常ニ国憲ヲ重シ国法ニ遵ヒ一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ是ノ如キハ独リ朕カ忠良ノ臣民タルノミナラス又以テ爾祖先ノ遺風ヲ顕彰スルニ足ラン

斯ノ道ハ実ニ我カ皇祖皇宗ノ遺訓ニシテ子孫臣民ノ倶ニ遵守スヘキ所之ヲ古今ニ通シテ謬ラス之ヲ中外ニ施シテ悖ラス朕爾臣民ト倶ニ拳々服膺シテ咸其徳ヲ一ニセンコトヲ庶幾フ

出典:教育勅語―明治神宮のウェブサイトより

稲田防衛大臣は、教育勅語について、「親孝行や友達を大切にするといった核の部分は今も大切」と主張するが、教育勅語の「核の部分」は、原文の最後の部分にある。原文の「朕」とは、天皇であり、「臣民」に対し、「咸其二ヲ一ニセンコトヲ庶幾フ」と求めている。つまり、天皇が臣民に対して、皆一つになって教育勅語の教えを守っていくことを願う、としていることこそが、教育勅語の「核の部分」だ。だが、あくまで現在の日本は、国民主権の民主主義国家。今の日本の国民は断じて「臣民」、つまり君主の支配の対象となる人々ではない。国家の統治のあり方を究極的に決定する権威ないし力を持つのは国民に他ならない、という国民主権が日本国憲法の基本原理である。だからこそ、1948年の衆院決議では、日本国憲法第98条に従い教育勅語を排除、つまり教育勅語は憲法違反なので排除すると決議したのだ。

教育勅語が何を「臣民」に求めているかも、問題だ。「親孝行」や「友達を大事に」だけでなく、教育勅語は「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」、つまり、有事となれば天皇の国家を守るために勇敢につくせ、と求めているのである。この部分も含めて、「取り戻さないものだと今も考えているのか」と福島瑞穂参議院議員が8日の参院予算委員会で幾度も質問しても、稲田防衛相はまともに答えず、はぐらかすことに終始した。福島議員がなおも「教育勅語が戦争への道につながったとの認識はあるか」と追及すると、稲田防衛相は「そういう一面的な考え方はしていない」と開きなおった。だが、1948年の参院決議は、憲法の原理である平和主義に基づく教育基本法により、教育勅語は効力を失しなったと宣言。かつてあちらこちらに掲げられていた教育勅語の謄本を政府が回収するとしている。つまり、自らの命すらも天皇の国家のために投げ出す、という戦前・戦中の教育の根源であり、平和主義に反するものとして、教育勅語を否定しているのである。ちなみに、旧日本軍の海軍大将や陸軍大将らが結成した団体を前身とし、日本会議の副会長でもあった山本卓眞氏が名誉会長を務めた「公益財団法人 特攻隊戦没者慰霊顕彰会」は、その会報『特攻』(第48号)で「教育勅語は形を変えて特攻精神に表れている」等と書いている。教育勅語の「核の部分」を考える上で、興味深い資料の一つだ。

〇教育勅語と安倍政権、その政治的文脈

教育勅語の「核の部分」の部分は何かを考える際、その歴史的文脈を読み解く必要があるだろう。教育勅語が発布された1890年前後、日本は山縣内閣の下で軍備増強に国力を注いでいた。その一方で、農村の貧困化が進み、政府の汚職などに対する庶民の不満も高まった。各地で自由民権運動が活発化し、政府に公然と立ち向かうようになった。そこで山縣内閣は自由民権運動を弾圧した上で、自由民権運動のベースにあった西洋の自由思想も脅威とみなし、学校教育の統制に乗り出した。そのために発布され、活用されたものこそが、教育勅語なのだ。子どもの頃から「忠君愛国」の道徳観を教え込み、政府への不満や反抗を未然に抑え込もうとしたのである。

こうして読み解いていくと、教育勅語と安倍政権の目指すところは類似点がいくつも見られる。例えば、教育勅語は天皇から臣民にこれに従うよう、下されるものだ。安倍政権は改憲を目指しているが、自民党の改憲案は、個人の尊重から全体主義へ、政府を縛る憲法から、国民に従わせる憲法に変えるものだ(自民党改憲草案第102条)。教育勅語が有事の際に「天皇の国家のためにつくせ」としている部分に似た部分もある。自民党の改憲草案の第9条の3には、「国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない」とあり、国民も国防に協力することが義務付けられることになる。この9条の3の解釈次第では、徴兵制に発展する危険性もあるのだ。

教育勅語の発布当時と、現在の日本の政治的・社会的な状況にも類似点がある。上記したように、教育勅語は軍拡の一方で格差が広がり、民衆の不満が高まっている中で、教育を統制するために発布された。安倍政権も、防衛費を毎年増大させ、平成29年度予算案は過去最大の5.1兆円。他方、社会保障費の自然増削減額は5年間で1兆4600億円に上る。実質賃金も4年連続下落。2016年では0.7%と微増したが、実際には物価が下落した影響が大きいので改善したとは言い難い。IMF(国際通貨基金)の統計で、一人当たりの名目GDPが世界26位になるなど、先進国中最低レベルにまで日本は落ちぶれている(注1)。

〇森友学園化する安倍政権

こうした中で、安倍政権がますます推し進めていることが、「愛国教育」だ。全国の教育機関に法的拘束力を持つ文科省の学習指導要領は、この間、様々な変更が加えられているが、今期の変更として、以下のようなものがある(注2)。

1) 初めて幼稚園で、国歌に親しむとの記述。(幼稚園教育要領)

2)初めて前文を設け、教育基本法の「国を愛する態度」を一層強制(幼稚園教育要領・小学校学指導要領・中学校学習指導要領)

3)初めて、小学4年生の社会で自然災害に対応する組織として、国の機関の中で自衛隊だけを強調し、必ず教えるよう強制。(小学校学指導要領)

4)現在、小中の全社会科教科書が北方領土・竹島・尖閣諸島を「日本の領土」と記述。だが、改訂案が尖閣について「教え方」まで強制。 (小学校学習指導要領・中学校学習指導要領)

特に、1)と2)は、幼稚園生にまで「国を愛する態度」を教え込むという点で、森友学園の教育勅語朗読と大して変わりない。政府がしっかり仕事をして、人々の生活を向上させ、国際的にも名誉ある振る舞いをしていれば、わざわざ「愛国教育」などしなくとも、人々は自国のあり方に自信が持てるはず。権力側の身勝手さや無能さを隠すために「愛国教育」が使われているという意味では、教育勅語を発布した山縣政権と「愛国教育」を推し進める安倍政権は非常に似通ったものがあるのだ。稲田防衛相や松野文科相はバカ正直で、教育勅語を擁護する言動をしてしまうのだろうが、問題は稲田防衛相や松野文科相だけではなく、安倍政権や自民党自体が抱えるものだと言えるだろう。

(了)

注1:一人当たりの名目GDPは人口や生産性に左右されるが、経済大国とされる日本の順位がこれほど低いのは、輸出で得た利益が国内経済に再分配されず、非正規雇用の増大が原因だという分析がある。

http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/kuma/pdf/k_0901f.pdf

注2:「安倍政権の目指す教育とはパブコメ10万人学習会」のまとめ

https://www.facebook.com/events/1869140183353785/

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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