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千葉の点取り屋、千葉玲海菜が復帰。ワールドカップメンバー“滑り込み”を目指してスタートラインに

松原渓スポーツジャーナリスト
8カ月ぶりの公式戦復帰を飾った千葉玲海菜(右)

【背番号11の復帰】

 ゴールデンウィークは好天続きで、スポーツ観戦にはうってつけの連休となっている。

 WEリーグは4月29日からの3連戦で、上位争いに波乱が起きている。5月3日に行われたリーグ第16節で、5試合勝ちなしと苦しんでいた11位の新潟が、ここまで無敗だった2位のINAC神戸を破る大金星を上げた。また、9位の千葉は3位の東京NBと接戦を演じ、勝ち点1を分け合っている。

 一方、首位の浦和は広島に先制されながらも逆転し、9連勝で2位との差を「6」に広げた。

 5月7日の第17節では、浦和と東京NBの上位対決が浦和駒場スタジアムで行われる。このカードは計7、8ゴールと多くの得点が生まれることが多く、今回も見応えのある打ち合いとなりそうだ。

 得点王争いも熱を帯びている。

 浦和のFW菅澤優衣香と大宮のFW井上綾香、東京NBのFW藤野あおばが8ゴールで1位に並ぶ。ランキング上位9名が背番号「9」と「11」で占められているのも興味深い。

 「9」はチームのエースストライカーがつけることが多く、「11」は点取り屋がつけることが多い背番号。つまり、どのチームも「点を取るべき選手が点を取っている」というわけだ。

 そして、5月3日に行われた第16節では千葉の背番号「11」が復活の狼煙を上げた。

 FW千葉玲海菜(ちば・れみな)だ。

 千葉(玲)は昨年9月のトレーニング中に右足前十字靭帯を損傷。長期のリハビリを乗り越え、3日の東京NB戦で約8カ月ぶりに公式戦復帰を果たした。

 千葉(玲)といえば、昨年の鮮烈デビューが記憶に新しい。

 筑波大学を卒業後、秋春制のWEリーグで、後半戦の3月から千葉に加入。爆発的なスピードと野性味あふれるデュエル、サッカーインテリジェンスの高さを武器に、デビューから3試合で4ゴールを決めた。その活躍がなでしこジャパンの池田太監督の目に留まり、デビューからわずか1カ月でなでしこジャパン候補入り。6月に行われた代表デビュー戦のセルビア戦で初ゴールを記録した。

 千葉ではクラブの歴代最高位となるリーグ戦4位に貢献し、ルーキーイヤーを全力で駆け抜けた。

代表戦の数試合でインパクトを残した
代表戦の数試合でインパクトを残した写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 心身ともに充実した状態でWEリーグ2年目を迎え、ワールドカップイヤーへの期待も高まっていた。膝のケガのリリースが出されたのは、その矢先だった。

【8カ月間のリハビリを支えたもの】

 東京NB戦後、取材エリアに現れた千葉(玲)に、記者から復帰への道のりについて質問が飛んだ。辛い8カ月だったのではないかと予想していたが、その答えは予想とは違っていた。

「初めての長期離脱でしたが、辛いという感情にはならなかったです。リハビリも問題なく復帰に向けて進んでこられましたし、(8カ月は)あっという間でした」

 眼を真っすぐに見据え、千葉(玲)は心境の変化を辿るように言葉を紡いだ。そして、こう続けた。

「(キャプテンの)林香奈絵さんが一緒に頑張ってくれていたし、前向きな人なのですごく支えられました」

 林は、チームの堅守を支えてきた守備の要だ。昨年7月に代表に初招集されたが、そのデビュー戦で膝を負傷。10カ月の長期離脱で、千葉(玲)よりも一足先にハビリを始めていた。

 共に代表入りを果たし、活力に満ちていた時期の大ケガ。境遇が近かっただけに、ショックや心の負担も分かち合えたのだろう。WE LIFE-WEリーグの主人公たちでリハビリをこなすシーン(4:00〜)には、2人の関係性がよく現れている。千葉(玲)は、林よりも5歳年下(24)だが、人懐っこく林を慕い、とてもリラックスした表情を見せている。

 もう一つ、千葉(玲)の心を支えたのは「サッカー」だったという。

「リハビリを始めた時期が(2022年FIFA)ワールドカップの開幕前で、Jリーグもやっていたし、海外の女子リーグなど、いろいろな試合を見て『サッカーがしたいな』『復帰したらこういうことをしよう』とモチベーションを上げていました」

 【ワールドカップへの思い】

 普段は「ほとんど緊張しない」という千葉(玲)も、久々の公式戦のピッチはさすがに緊張したという。試合は東京NBの猛攻に耐える時間が長く、守備で体を張ったが、攻撃面での見せ場はほとんど作れなかった。だが、その表情に落胆の色はなく、わずかながら充実感が感じられた。

「チーム状況を考えれば、早く出たいという思いが強かったです。ただ、焦って(前十字靭帯を)再断裂しないように、みんなから忠告されているんです。今日の試合も、『8割、いや7.5割でいいよ』と(チームメートに)言われて(笑)。出るなら100%でやりたいのですが、試合になると膝のことを忘れてしまうので、『危ないんだな』と感じますし、それぐらい気を遣ってもらえるのはありがたいですね」

 コンディションには手応えを感じているようだった。試合勘が戻れば、本領発揮も遠くなさそうだ。

 流れを変え、チームを勝たせるゴールを決めることはできるだろうか? 

 その思いを聞くと、目の色が変わった。

「残り少ない試合で、チーム内で得点王になって……さすがに、リーグの得点王は今からじゃ無理かなと思うのですが、それぐらいの気持ちで結果を残したり、存在感を出せればいいなと思っています。(7月の)ワールドカップもモチベーションになっています。『間に合わない』と思ったら間に合わないし、自分次第だと思いますから。(メンバーに)滑り込みできたらいいな、って」

 千葉(玲)は控えめに、だがキッパリと言った。

 残り5試合。ピッチに立つと“何かしてくれそう”な雰囲気を漂わせる背番号11に注目だ。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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