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台風19号の死者で目立つ60代男性

饒村曜気象予報士
台風19号の雲(10月11日13時00分)

台風19号の大雨

 令和元年(2019年)10月6日3時にグアム島のあるマリアナ諸島の東海上で発生した台風19号は、西進しながら発達し、7日18時にはマリアナ諸島において大型で猛烈な台風に発達しました。

 台風19号の雲は、東日本から北日本を覆うくらいの大きさでした。

 大型の台風は、台風による雨の時間が長くなり、総降水量が多くなりますので、雨に警戒すべき台風です。

 10月に北上する台風は、日本の南海上の海面水温が真夏より低くなっているため、衰えてから接近することが多いのですが、令和元年は海面水温が平年より高かった為にあまり衰えず、猛烈な台風で接近しました(図1)。

図1 台風19号の進路予報(10月8日21時)
図1 台風19号の進路予報(10月8日21時)

 台風19号は、12日17時前に静岡県の伊豆半島に上陸しましたが、上陸寸前の台風は非常に強い大型の台風でした。

 台風の北側に分厚い雨雲が台風前面の東よりの風によって伊豆半島から関東西部の山地に吹き付けられました。

 神奈川県箱根の12日の降水量922.5ミリは、これまでの日本記録であったの高知県魚梁瀬の851.5ミリ(平成23年7月19日)を上回りました。

 気象庁は、12日15時32分に東京都と群馬、埼玉、神奈川、山梨、長野、静岡の各県に大雨特別警報を発表し、その後も栃木、茨城、福島、宮城、岩手で大雨特別警報の発表が相次ぎ、広域関東圏と東北の13都県での発表になりました。

 平成30年7月豪雨(通称:西日本豪雨)のときの11府県での特別警報を上回り、過去最多の発表となりました。

図2 大雨特別警報を発表した13都県
図2 大雨特別警報を発表した13都県

台風19号の被害

 このため、広域関東圏と東北の太平洋側を中心に河川の氾濫が相次ぎました。国管理河川では、7河川の12か所で堤防が決壊しました(表1)。

表1 堤防決壊箇所(国管理河川)(令和元年(2019年)11月11日現在、国土交通省による)
表1 堤防決壊箇所(国管理河川)(令和元年(2019年)11月11日現在、国土交通省による)

 このほか、都道府県管理河川の堤防決壊が67河川の128か所もあり、あわせて140か所で堤防が決壊しました。

 堤防の決壊に加え、川の水が堤防を越えて外に溢れ出す事態も相次ぎました。

 このような「外水氾濫」に加え、市街地に降った雨水が、増水して水位が高くなった本川に流れることができずに地表にあふれ出す「内水氾濫」も各地で発生しました。

 人的被害が大きくなる外水氾濫、被害金額が大きくなる内水氾濫が同時におきたのです。

 台風19号による被害は、風による被害も大きかったのですが、それ以上に雨による被害が大きく、典型的な雨台風でした。

 台風19号の被害は、低気圧による10月25日の大雨被害と合わせて、関連死を除いても、死者・行方不明者100名などという大きなものでした(表2)。

表2 台風15号と低気圧の被害(令和元年(2019年)11月15日現在、消防庁による)
表2 台風15号と低気圧の被害(令和元年(2019年)11月15日現在、消防庁による)

年齢別死者数

 台風19号の災害報道で大きく変わったことがあります。

 それは、死者・行方不明者についての情報が極端に減ったことです。

 国の防災基本計画には、死者と行方不明者の数は「都道府県が一元的に集約する」という定めがあるだけで、氏名公表に関する規定がありません。

 このため、死者・行方不明者が出た13都県の判断が割れ、強まってきた個人情報保護の観点から、遺族の同意がないことが主な理由として、合計の人数しか発表しない自治体が増えたからです。

 この現状について、個人情報保護の観点は大事であるが、安否確認の問い合わせが自治体に殺到するとか、関係機関で情報を共有しにくくなるなどといった懸念もあがっています。

 ただ、それぞれの人生を持った人が亡くなった事実を社会で受け止めるなどの理由と思われますが、新聞各社では独自取材をして、性別と年齢、場合によっては氏名を報道しています。

 筆者は、新聞で報道された死者・行方不明者の記事をもとに、99名分の性別と年齢のデータを集めました。

 報道後に生存していることがわかったり、重複して数えている場合も含まれるかもしれませんが、大筋の傾向がでたと思います。

 台風19号の死者のうち、男性は64%と、女性は36%です。

 昔から、「死者数が少ない時は防災活動等に従事している男性の割合が高くなり、死者数が多い大災害になると女性や子供の割合が高くなる」と言われてきましたが、台風19号は男性の割合が多い大災害でした。

 また、年代別では60代が一番多く、60歳以上は全体の75%を占めています(図3)。

図3 台風19号による年齢別死者数
図3 台風19号による年齢別死者数

 新聞報道では、死亡に至った経緯がないので個人的な考えですが、車で子供を迎えに行く途中で水害に巻き込まれたり、車で周囲の様子を見に行って行方不明になったという報道が少なくありません。

 このことから、車でなら安全と考えて家族のために行動した中高年が多かったのではないかと思います。

りんご台風との比較

 令和元年(2019年)の台風19号の28年前、平成3年(1991年)の台風19号では風害によって大きな被害が発生しました。

 青森のりんごが大被害を受けたことから、通称「りんご台風」と呼ばれる台風です。

 全国で60名が亡くなっていますが、このときも筆者は新聞記事等から年齢別死者数を求めました(図4)。

図4 平成3年(1991年)台風19号の年齢別死者数と令和元年(2019年)台風19号の年齢別死者数
図4 平成3年(1991年)台風19号の年齢別死者数と令和元年(2019年)台風19号の年齢別死者数

 年齢別では、50代が一番多く、原因別では、飛来物や落下物にあたって死亡した人が一番多く、次いで転倒や転落で死亡した人となっています。

 りんご台風のときは、猛烈な風に自宅内でじっとしてはいられず、見回りに外出したり、屋根やテレビアンテナなどを修理しようとした実年世代の人が多かったのではないかと思います。

 りんご台風の被害に比べると、令和元年(2019年)台風19号の被害は、雨台風と風台風という差がありますが、被害者の年齢は明らかに高齢化しています。

 そして、28年間に車を中心とした生活に変わったことが、災害の変化につながっているのではないでしょうか。

 新たな視点での防災対策が必要と思います。

タイトル画像、図1、図2の出典:ウェザーマップ提供。

図3、図4の出典:新聞記事から著者作成。

表1の出典:国土交通省資料より著者作成。

表2の出典:消防庁資料より著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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