ザッカーバーグの『無料小学校』は税金を一銭も使わない新たな政治活動である
KNNポール神田です!
マーク・ザッカーバーグ夫妻は、保有するfacebook株の99%(450億ドル=5兆5300億円)を寄付する自ら設立した慈善団体など積極的な社会活動を行っている。成功した米国人は寄付が好きの一言では終わらせることができない様子だ。それは、寄付額がハンパないからだ。もちろん公益法人として認められた団体にしか寄付の控除が得られない日本とは税制度も違うこともあるが、それだけの理由ではないようだ。
■もしも、Google ストリートビューを税金で作ろうとしたら…
ネットのサービスで大きく変化したことがいくつかある。それは、国や公共団体がやるような公共事業にまで民間が着手していることだ。もしも、Google社以外が、ストリートビューを全国、いや全世界規模で展開するサービスのために、人材を雇用し、スタッフと車両と機材を用意して、田舎町まで撮影車を走らせることができただろうか?一般の企業ではその投資を回収できるビジネスモデルは全く何も想像がつかないだろう。また、国や公共団体に、「利便性がある」といういうことで予算を議会に提出した時点で、もっと大事な事があるだろうと一蹴される。Googleがロビー活動をして、議員に大金を使い法案を通したところで、カリフォルニア州のごく一部でしかできなかったことだろう。しかし、2007年にスタートしたGoogleストリートビューのプロジェクトは、この9年で、すでに7大大陸を制覇するようにまでなった。ガールフレンドの実家まで住所さえわかれば見当がつくようになった。プライバシーの問題などもいろいろと言われるが、Google MAPとGoogle EARTHと連動されることによってのメリットは数知れずある。世界の変わりゆく姿を、世界の路地レベルでわかるデータは、googleしか持っていないのである。
Googleストリートビュー
https://www.google.com/intl/ja/maps/streetview/understand/
■ロングスパンの経済性と公共便益性
Googleがストリートビューで儲けるつもりがないわけではない。しかし、彼らにとっては、検索する時に表示でできる広告媒体を確保しておくことは必須の事業なのだ。人が見知らぬ場所へ移動しようとする時、住所という「文字」だけで移動できないことを理解している。そこには、必ず移動する目的があり、移動して過ごす時間がある。そこで何らかの行動に伴う消費があり、それをレコメンドできればGoogleの企業価値に繋がるという論理は存在する。だから「ストリートビュー」というアイデアが成立し、スタートしている。
facebookも同様だ。SNSの世界を制覇する為にはなんでも行う。弱みがある画像やスマートフォンと思えば、instagramも買収してきた。しかし、マーク・ザッカーバーグは、社会への投資は、ラリー・ペイジのように事業でやらずに、個人の資産で行うことにした。それはなぜかって?株主への説得もいらなければ、役員会で決議することもないからだ。現役のCEOでありながら、「寄付」という行為で直接的な社会インフラを構築しようとしているのだ。
ザッカーバーグの教育に関する寄付はすでに長い時間を経て、いろいろと学んできたはずだ。
むしろ、公共団体に寄付しても、非効率な運用で寄付金額の目減りを目の当たりにしてきたからこそ、自ら動き出している側面が多い。
■税金を集めて無駄に運用されることへの意思表示
Googleやザッカーバーグが個人で行っている事業や寄付による、結果としての社会の公益に貢献する事業には、一銭の税金も投下されていない。むしろ、事業活動によってそこからも税金が課せられているくらいだ。「民主主義」というアルゴリズムの世界観が作られてから数千年。古代ギリシャから、ドント方式で選ばれた代議士で運用される議会に至る近代民主主義にいたるまで、リ・ノベーションは繰り返されてきたが、基本的なアルゴリズムは選挙で選ばれた民が運用し、すべての決定権と裁量を持ったままだ。そこの公平さを担保するために作った外部組織には、さらに天下り組織が管理するようになり、強靭な富の留保がなされている。民主主義に合理的なイノベーションは何も起きていない。しかし徴税の権利はあるから、歳入と歳出のバランスで公共事業には、毎年莫大に投資は動く。これは日本だけの問題でなく米国も同様だ。そんな政策よりも、公益になることで事業が運営できるのであれば、チカラを持った民間や個人が独断でやってしまうことの方が手早く合理的でイノベーティブな活動ができるのだ。彼らには、毎年、成果も出ていないのに予算だけを計上して歳出の権利が得られるというスキームは一切ない。常に、予算には、成果が求められ、達成に対してコミットメントが必要なのだ。残念ながら、税金を使う側の人たちのDNAにはその「成果」という文字が欠損している。だからグローバルで展開できる企業こそ、国境を超えての問題解決に挑み始めている。グローバル企業や成功した事業家たちが、ドント方式で選ばれる議員でなく、本当の社会インフラを経済性を考慮しながら展開することに意味がある。
■インターネットの本当の役割は…
人類のテクノロジーはそのメディアが浸透するのに最低30年はかかっている。「気球」も「蒸気」も「電気」も「クルマ」も「飛行機」も「石油」もだ。それはそのメディアを発明とも思わない世代の人達がそれを使いこなして初めて理解できるのに要する期間だからだ。最初の10年、20年は従来のメディアの単なる代替で模倣にすぎない。「クルマ=CAR」も最初は馬車(CAR=GO)から馬をなくしたモノだった。T型フォードのペダルも、ピアノのフットペダルのユーザー・インタフェースの代替にすぎなかった。しかし、それらを先代もメディアを知らない世代たちが、古いメタファーに引きずられることなく自由に発想したからこそ、30年目のイノベーションを遂げる。T型フォードの時代には、デュポンの塗料で塗り分けられたGMの「モデルチェンジ」のクルマが一斉を風靡するなんて誰も想像がつかないのだ。インターネットも一般に普及してからようやく20年を経たばかりだ。本当のインターネットはこれからの10年後にやってくるのだ。そのひとつの現象がインターネットで、今までのメディアの模倣でない経済ネットワークである「検索エンジン」や「SNS」というカテゴリーが生まれその成功者たちが、富を囲いこむということよりも、富やサービスを無料開放することよっての新たな経済性に気づいていることだ。そしてそれらの社会インフラへの投資が成功した場合、税金を運用してきたモノたちへの評価は当然変わる。そして、インターネットの本当の役割は「税金」や「国境」や「民主主義」という概念を根底から変えてしまう概念なのかもしれないと気づきはじめる。当然、そこに旧来の権力者たちとの熾烈な攻防は待ち構えている。しかし、過去の歴史を振り返ると、旧来の権力にしがみつくやからは、必ず滅びさってしまっていくことはすでに証明されている。
2016年、新春。これからのインターネットベンチャーの「ディケイド」に期待するばかりだ。