「八幡山ロックダウン」とは? 王座奪還を狙う明治大ラグビー部のコロナ禍における感染予防対策
一昨年度、大学選手権に22年ぶりに優勝した「紫紺のジャージー」でお馴染みの明治大ラグビー部。昨年度は関東大学対抗戦では全勝で優勝したが、大学選手権決勝でライバルの早稲田大に35―45で敗れて涙を呑んだ。
2月から「王座奪還」を掲げて練習を始めていた矢先、4月に入ると全国に新型コロナウィルスの感染が拡大した影響により緊急事態宣言が発出。106名の部員(うち94名の選手と2人の学生スタッフが寮生活)の半数が自宅に帰ったが、半数は寮に残った。自粛期間中は全体練習こそなかったが個人的にトレーニングはできたという。
寮での新型コロナウィルス対策としては手指消毒やマスクの着用の徹底はもちろんのこと、食堂の椅子は間引きして30人くらいしか入れないようにして「3密」にならないようにしたり、門限が唯一なかった日曜日も門限を23時にしたりした。
さらに4年生を中心に寮に残った選手たちが新型コロナウィルスの対策として決めたことは、実にシンプルだった。「ウィルスを寮に持ち込まない」ことを徹底するため、練習場や寮のある東京都世田谷区八幡山地区から電車に乗って外出しないことを決めた。大学の授業がすべてオンラインで実施されたこともあり、選手たちは電車に乗ってキャンパスに通う必要性もなかった。
今年、キャプテンに就任したLO/No8箸本龍雅(4年)は「社会的には(緊急事態宣言が終了して)外出してもいいし、旅行してもいいみたいになりましたが、(明治大ラグビー部は)本当に『八幡山ロックダウン』みたいになっています。精神的にきついですが、万が一のこともあるので、ラグビーをするために、みんな我慢してやり過ぎというくらいやっています」と話した。
箸本キャプテンは、自粛期間中は毎日、筋肉トレーニングをし、さらに「動けなくなるといやなので」と20分ほどのランニングも重ねていたという。体重はほぼ変わらないというが、自粛期間空けのフィットネステストでは自己新記録をたたき出した。キャプテンとしての自覚の表れであろう。
もちろん選手たちは個々でフィットネストレーニングやウェイトトレーニングしつつも、Zoomでミーティングしたり、各個人で映像を見たり、学生コーチの多田充裕(4年)が中心になって昨年度の映像や強豪チームの映像をみんなで見て「ラグビーナレッジ(知識)」の強化に努めたりなどもしていた。
トレーニングや授業以外には、部員の間では学年に関係なく携帯電話のオンラインでつないだクイズのアプリが流行っていたり、ゲームをしたり自炊をしたり、八幡山にあるラーメン屋さんの油そばの早食いにチャレンジなどをしたりしてリフレッシュしていたという。ちなみに、油そばの早食いは1年生のPR中山律希(天理高出身)が好記録を出したとのこと。
田中澄憲監督も「誰も(寮にいた選手は)八幡山から出ていない。(自粛期間中に)寮にいた選手はフィットネスも筋肉トレーニングもできたし、精神的に成長していた」と選手たちの取り組みに目を細めた。監督自身も全体ミーティングを2回に分けたり、選手たちとの1対1のミーティングをオンラインでやったりと工夫している。
7月14日からは、実家に帰っていた選手たちも戻り、日本ラグビー協会のガイドラインに沿いつつ、八幡山での全体トレーニングを再開。8月に入ってから徐々にコンタクト練習を始めているという。ただ明治大ラグビー部は今夏、長野県菅平高原で毎年行っている夏合宿を行わなかった。新型コロナウィルス対策はもちろん、菅平高原にある大学の施設(セミナーハウス)が利用できなかったためだという。
今年は例年より約1ヶ月遅く、10月の第一週には関東大学対抗戦が開幕する予定だ。
今年のルーキーたちは、PR為房慶次朗(常翔学園出身)、長身のLO山本嶺二郎(京都成章出身)&LO亀井茜風(長崎北陽台出身)、SH萩原周(大阪桐蔭主審)、SO池戸将太郎(東海大相模出身)、CTB廣瀬雄也(東福岡出身)ら、田中監督自ら声をかけた有望選手が多数入部しており、各ポジションで競争が激しくなっている。
現役時代、明治大はもちろんのことサントリーや日本代表でSHとして活躍した田中監督は「SH萩原、いいですよ。(高校2年時に)花園でも優勝していますし」と期待を寄せていた。
また田中監督は「1回、ゼロになってしまった部分があるので(7月に)基礎、ファンダメンタルから練習を始めました。10月に開幕するのであれば、そこでしっかりと試合ができるように、試合でケガをしないレベルまでもっていきたい」と先を見据えた。
コロナ禍という例年とは異なる状況の中でも、明治大ラグビーは10月の開幕に向けて、残暑の続く八幡山で地力をつける日々が続いている。