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小池氏、蓮舫氏、石丸氏が公約発表 記者会見でのメディア対応力を比較

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:つのだよしお/アフロ)

1400万人の人口を抱える東京都での知事選挙が7月20日に告示され、7月7日の投票日まで激しい舌戦が繰り広げられることになりました。立候補者は過去最多の30人と思われていたところ直前にさらに増え、50人超えとなったようです。ポスター不適切掲示などで今後の選挙のあり方が議論となりそうですが、筆者はこの立候補者の中から注目した3名を取り上げて記者会見における表現力を中心に比較することにしました。

■動画解説 リスクマネジメント・ジャーナル(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会提供)

小池百合子氏はオンライン記者会見で不規則発言を回避

まずは、現職小池百合子氏の記者会見。6月18日10時から行われました。形式面での最大の特徴はオンライン形式であったこと。冒頭でオンライン形式にする理由について多くの記者に参加してもらうためなど縷々述べていますが、学歴詐称疑惑についての質問を回避するためであることは明らか。オンライン形式で不規則発言や記者の選別を100%コントロールしました。しかも会見時間は40分と短め。何名の記者が質問を希望していたのか視聴している方は不明でオープンさに欠けるように見えます。オンラインであれば、コントロールができるのですから、せめて1時間くらいは行ってもよかったのではないでしょうか。

公約は、保育料無償化、無痛分娩の補助制度創設などを柱に据えた内容で、ファミリー層へのメッセージが強く、各種報道機関もここをタイトルにした見出しが目立ちます。そもそも多くの男性は「無痛分娩」といった言葉を知らないでしょうから、新鮮だったのではないでしょうか。出産する女性からするとありがたい話ではありますから女性の心をぐっとつかむターゲティングは成功していたと思います。この無痛分娩の打ち出しは、蓮舫氏も「さすが」と一言出てしまいました。

指名された記者は、日経新聞、テレビ東京、NHK、フリーランス、ネットメディアでした。マスメディアだけではなく、フリーランスや小さいメディアも指名していたことからバランスを考えていたといえますが、朝日新聞、読売新聞、東京新聞からの質問を受けないのはいただけない。報道陣側のストレスは残ってしまっただろうと思います。

表現力はさすがの出来。目力と温厚な声、時々見せる笑顔でソフトな印象作りをメインとし、ゼスチャーも交えて伝える力はありました。ジャケットはまさかの白。この狙いについて、スタイリストの高野いせこさんは「白ジャケットでブランディングしている蓮舫氏を意識しています。このジャケットの白は、来るなら来い、迎え撃つという服装メッセージです。余裕の構えですね」と解説。

蓮舫氏は終始笑顔でイメチェン狙いか

18日午後から開かれた蓮舫氏の会見には驚きました。終始笑顔だったからです。ちゃんと笑顔ができる人なんだと思いました。形式面での特徴は演台立ちだったことです。エネルギッシュで挑戦者としての意気込みが演出できていたのではないでしょうか。会見の途中でパソコンから音が鳴っても怒ることなく笑顔で対応していた様子をみると、「笑顔戦略」は相当意識していたのでしょう。立ち姿、笑顔戦略はイメージ戦略として好印象であり、今までの蓮舫氏のイメージを変える演出でした。

違和感があったのは、最初と最後の拍手。通常日本の記者会見では拍手はありません。かなり身内の記者を入れていたのではないでしょうか。あるいは記者以外の関係者を入れていたといえます。記者を指名する際も名前を呼んでいましたから、知り合いの記者だとわかってしまいます。

公約は現役世代の年収を増やすこと、都と契約する企業に働く人の待遇改善を求める条例を制定すること、都の非正規職員を正規化すること、子育て世帯への家賃補助制度など若者向けメッセージを主軸としていました。年収が低い人ほど結婚していない、結婚したくてもできていないとする数字分析をし、出産や子育ての前に結婚できるように若い働き手の年収を上げる環境を整える必要があると最初に強調した点は大いに評価できる。とはいえ、具体策として年収をどう上げるのか、数字目標がないのは説得力に欠けているように見えました。

■動画解説 リスクマネジメント・ジャーナル(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会提供)

石丸伸二氏はぼやかし戦略

ネットヒーローとして急浮上した前安芸高田市長の石丸伸二氏の公約会見記者発表はどうだったのでしょうか。会見は6月17日と小池氏、蓮舫氏よりも一日早く開かれました。しかしながら、驚くほど石丸節に欠けたややどんよりした会見でした。見え方としては小池氏や蓮舫氏が一人で登壇したのとは異なり、3名の支援者に支えられる会見。着席型であり、シニア男性2名と女性の支援者に囲まれる形も雰囲気に影響を与えたようです。説明の組み立ては、選挙対策本部長からの支援メッセージ、ボランティア組織の説明の後、石丸氏の公約説明といった流れであり、チームとしての印象を与える戦略だったように見えます。この組み立て故にいつもの石丸節のような勢いが感じられない会見になってしまいました。石丸氏の会見の特徴はいきなり問題提起や攻撃、個別具体的な口調から始まっていましたから、期待はずれの印象が残りました。

公約では、政治改革、都市開発、産業創出といった3本柱を掲げたものの、どこの誰に向けてなのか対象者や具体策が見えませんでした。小池氏はファミリー層、母子支援といった対象者を明確にしたメッセージから始まり、防災や命を守る政策があり、蓮舫氏は結婚できるように若者年収アップ、学校DXといった教育現場における問題意識が明確でした。それに比べるとあまりにも漠然とした内容でした。公約説明時の目線も記者席を見ておらず、下目線というよりはどこか遠くを見ている感じで、記者の後ろにいる有権者に訴える目線ではありませんでした。ゼスチャーもほとんどなく、勢いを感じさせる演出には欠けていました。

質疑応答の見どころは最初の質問。安芸高田市における実績がないのに都知事選に出馬することの意味。安芸高田市で人口減少を食い止めていないことについては「精神的豊かさの意味だった」とあやふやな回答。財政再建ができていないことについては「すべて見直して給食費を無償化して資源配分を変えた」と回答。給食費無償化は既に全国で取り組まれているので、インパクトに欠けます。東京過密解消には「リバランス。23区以外にも魅力を生み出していく」と回答。どの回答もぼんやりとしていて具体策がありません。

結論。公約会見では、リスクコントロール力は小池氏、インパクト力では蓮舫氏が勝っていました。石丸氏は今後に期待といったところでしょうか。

なお、石丸氏について批判すると「石丸批判を許さない」勢力があるため、Geminiによる要約をつけます。

■石丸伸二氏 政策発表会見 Gemini(GoogleのAI)による要約

(協力:クロスメディアコミュニケーションズ株式会社)

1. 政策の柱:政治改革、都市開発、産業創生

これらは4年前の安芸高田市長選と同様、経済アナリスト時代の知見に基づくもの。

特に「政治改革」を最重要視し、利権政治の脱却とばら撒きの一掃を掲げる。

自身の政治スタンスは「都民・国民に対してど真ん中」。

2. 東京の課題と解決策

東京一極集中による過密状態が最大の問題。

リバランス(再調整)により、23区外の魅力向上と連携強化を図る。

地方とのコミュニケーション不足を解消し、文化交流などを通して関係を深める。

3. 経済都市・東京の実現

経済的にも弱体化する日本において、東京を経済強国へと導く。

文化人中心だった歴代都知事に対し、自身は経済分野に強みを持つ。

4. 質疑応答

過去の公約実現に関する疑問や、具体的な政策内容に関する質問が集中。

特に、東京の過密解消と地方活性化の両立、選挙資金の出所、小池都政への評価などが焦点となった。

具体的な政策については、今後詳細を詰めていくと明言を避けた部分も。

一部記者との間で、質問の仕方や会見の進め方に関するやり取りも見られた。

5. その他

会見には多くの記者が詰めかけ、石丸氏への注目度の高さが伺えた。

ボランティアの数は2000人を超え、異例の盛り上がりを見せている。

<参考サイト>

・小池百合子氏記者会見(日テレNEWSLIVE 6月18日)

https://www.youtube.com/watch?v=nJKCrjcwR-w

・蓮舫氏記者会見(時事通信社 6月18日)

https://www.youtube.com/watch?v=QxHhsT-Z4I8

・石丸伸二氏記者会見(ニコニコニュース 6月17日)

https://www.youtube.com/watch?v=65FC-l3L9n0

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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